この作品はいかがでしたか?
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「お邪魔します」
丁寧に挨拶をし、邪魔にならないようにと、カバンをどこに置けばいいか僕にわざわざ訊いてくる。そんな彼の行動を僕が今独り占めできていると思えば、愛おしい気持ちで心が満たされていた。
冷蔵庫を開け、その中をなんとなく見渡す。そして僕の声がリビングにいる彼まで聞こえるように、若干声を張り上げて訊ねた。
「司くん、何飲む?オレンジジュース?」
「もう成人してるわ!全く………」
「ふふ、知ってるよ。いつもの缶ビールだよね」
「僕は何飲もうかな」なんていうことをぼそっと呟きながら、冷蔵庫を漁る。冷蔵庫の中に身を乗り出すと、ひんやりとした空気が目に染みて、思わず瞼をギュッと閉じた。
それから、結局司くんと同じものを飲むことにして、彼のいるリビングへと戻る。
「おまたせ。少し早いけど、もう飲もうか」
現在時刻は19時半。大学は長期休暇に入っており、「この機会に」と久しぶりに司くんと僕の家で飲むことになったのだ。
「ああ!それじゃあ──」
乾杯をしてから 数時間が経過した。
あれだけ「お酒には強いからな!」と豪語していた司くんも、今ではすっかり出来上がっている。
「(僕はあまり酔ってはいないけど……)」
「類〜〜ーー、はは、るいーーーー!!」
「(司くんに合わせたほうが、いいかなあ…〜……)」
司くんも酔っているとはいえ、司くんだ。きっと自分よりもお酒に弱いと思っていた相手がそれほど酔っていないと、彼のプライドに傷をつけてしまうだろう。
「(仕方ない。これは司くんのため……)」
そう自分に言い聞かせつつも、運が良ければそのまま酔った勢いで……なんて、下心丸出しの自分は先のことを考えてしまっている。
…やっぱり、好きだなあ
そう心の中で呟いたつもりが、僕は案外簡単にその言葉を口に出していた。
「…おれも好きだぞ」
司くんは一瞬びっくりした様子だったが、酔っている(フリの)僕を見てかすぐに、「好きだ」とだけ言って微笑み返す。その表情はなんとも無邪気で艶かしく、普段の彼なら絶対にしないようなものだった。今、そんな表情を僕だけに見せてくれているのがたまらなく嬉しくて、思わず僕は既に彼の身体に触れてしまっている。
Yシャツの間から少し晒されている、彼の首筋へと手を伸ばした。そうすれば、僕の指先からは彼のほんの少し生命的に帯びた熱を感じ取ることができる。
「……、ッん…」
司くんはそれに小さく嬌声をあげるだけで、僕に反抗したりは全くしない。それが今の僕には「そういう」意味にしかとることができず、気づけば僕は司くんを押し倒していた。
「……っは、?え、え……る、い?」
司くんはその束の間の出来事に困惑しているようで、その仕草でさえも愛らしく思えてしまう。
「……ごめん、…僕、酔ってるみたい」
なんとなく自分の口から出てきた、彼に対する謝罪を込めた言い訳。
それを聞いた司くんは、一旦僕から目を逸らし、言いづらそうに言葉を発した。
「…類。……これは、酔った末の迷い言だ。」
司くんは「気にしないでくれ」とでもいうように、その言葉を吐き捨てる。
「……昔から、類の事が好きだったんだ。」
「………知ってるよ」
先程も言われたことだけど、改めて言われてみるとこっ恥ずかしさが芽生えてくる。その羞恥心を掻き消そうと、司くんの前では余裕そうな素振りを見せてみた。
「…だから、……こんな、その……酔った勢いで…というか、こんな、なんの段階も踏んですらないままでも…お前とできることが、…嬉しいんだ。………それを、伝えたかっただけ、…だが」
照れくさいのか、だんだんと ピアノで言うデクレッシェンドみたいな喋り方になっていく彼を、僕はぼんやりとしたまま見つめていた。
…司くんは、酔ってるだけ。酔ってるから、こんなことを言ってしまっているだけで…。
酔いが醒めたときのことを考えながら、そう自分に言い聞かす。
「(…もし、司くんがそれを本心で言っていたとしても、酔っている司くんを相手に…なんて、余計司くんを傷つけてしまうかもしれない。)」
僕は、司くんにこう促した。
「やっぱり……、やめないかい」
「…は、」
司くんはひどく困惑している。──いや、困惑と、そこに確かに存在している絶望。
自分でも最低だと、こう言ってしまうことで更に彼を傷つけてしまうと分かっていながら、そう彼に告げた。
「…すまない。、けれど、……今日は…すべきじゃないと思うんだ。」
言葉が詰まるようで、単語を継ぎ接ぎにして言葉にする。それを司くんは「どうして」とでも言いたげな顔で、じっと僕の方を見ていた。
「だって、…司くん、酔ってるだろう……」
「…それも、そうだが」
「それに、……僕も、言いたいことがあるんだ」
何か言いたげな司くんの言葉を遮るようにして、告白をする。
「僕、…本当は酔ってなんていない」
「………」
「酔ってるフリしてたのは、司くんは酔ってるみたいだったから…僕も酔ってないと、司くんは嫌かな、嫌だろうな、なんて…、思ってた…から、……ごめんね、すまない。嘘をつくようなことをしてしまって。」
「………それと──」
今まで彼から逸らしていた目を、今はしっかりと目を見て言える。
「僕も、君の事が──、……司くんのことが、好きだ」
彼の事が好きだ、と。
「…だから、司くんが酔っていないときに、……また、したいな。」
先程まで感じていた緊張や羞恥すらも忘れたかのように、今では一直線に「好き」を伝えることができていた。
そんな自分の成長を感じ、何とも言い表せれないような感情に浸っている
。と、僕の目の前の司くんは、突然声を上げて笑いだした。
「……くふ、っはは!!ふはっははは!!!!!」
「つ、司くん……?、!だッ、大丈夫かい?!」
「くははっ!はは、!はあ……、だ、大丈夫だ……ッ」
慌てて心配する必要もなかったかなと思ってしまうくらい、意外にも司くんは心からの爆笑をしている。そんな彼に少々呆れながらも、その様子にも愛おしさを感じていた。すると、司くんは乱れた息を整え、浅く笑いながらも言葉を発する。
「はは、類。実はオレも、はじめから酔ってなんていなかったんだ。ははっ、騙してごめんな」
「……今までもそう言って、『実は本当に酔ってました』ーなんてことが殆どだけどね」
急に爆笑しだしたり、かなり顔が火照ってたりする司くんの「酔ってない」は、世界一信用ならない。それは今まで一緒に過ごしてきた経験からきているもので、司くんの「酔ってない」が信用できないのは、しっかりと根拠のあるものだ。でも、本人はそれを否定している。
「いや、今回は……その、、、」
「……類と、ずっと近くにいたかっただけ……というか、」
司くんは僕に押し倒されていながらも、一生懸命腕で顔を隠し、必死に照れ隠しをしようとする。そんな彼の可愛さに圧倒されている僕を見て我慢できなくなったのか、司くんは何か吹っ切れたように、急に大声を出してこう言った。
「…だから、っ……」
「セックスしたいんだ!!類と、!……できるだけ、もっと…近くで」
彼の出した大声に少々驚いてしまい、彼と僕との距離が離れる。司くんはそれが嫌だったのか、僕の背中に腕を回し、彼と僕の距離を狭く、もっと近くにと身体を寄せ合った。
「…酔ったフリをしていれば、そのままの勢いで類とできるんじゃないか、と思ってな……ちょっとした出来心だ。……まさか、本当にできるなんて思ってなかったが」
司くんは息を吐くように フッと笑い、そんな彼を見ていると「嘘じゃないんだ」と再確認させてくれる。そんな気がした。
「…いいのかい、今…しても」
今すぐ自分から始める勇気も準備もできていないので、なんとか会話を続けて、自分の心を落ち着かせる。
「もちろんだ!…………あ、」
「…司くん?」
司くんは何か思い出したかのように硬直し、それにつられて僕も固まる。
「…ゴム」
「え?」
困惑する僕を相手に、司くんはもう一度言い直すように言葉を発した。
「ゴム、準備してないだろうから……無くていい」
「…司くん」
若干上目遣いの姿勢でそうお願いしてくる彼を相手に、彼の期待に応えられないことを申し訳なく思う。
「大丈夫だよ。……実は、もしかしたら…って思って、買っていたんだ。……だから、ある、」
なんだか自分が「めちゃくちゃ期待していた人」みたいで……というか、実際めちゃくちゃに期待をしていたのだが、司くんにそれを言い放ったあとに恥ずかしくなってきてしまって、一人でどうでもいい後悔をしていた。
「…それに、男同士ではあるけれど、つけないと君が危ないだろう?」
その後悔と羞恥心をせめてもの悪あがきで掻き消そうと、特に意味もなさそうな言い訳をしてみる。すると、司くんはなんだか不満げな表情で下に目線を逸らした。
「(…生でやりたかったのかなあ……)」
なんて、「そうだったらいいな」という想いを込めた、願望99%の妄想をしてしまっている。結局自分も男なんだなと思った。
それから、僕と司くんは数時間もの間 身体を寄せ合い、互いが満足するまで腰を動かし続けた。司くんとの初めてのキスも行為も、不思議と不安はなく、心も身体も満たされていく感覚があった。
「(……気持ち良い)」
僕が動くたびに反応を示してくれる司くんは、はくはくと肩で浅い呼吸をしながら、嬌声をあげてぐしゃぐしゃになっている。
「…類、………ぃ、ッるい」
普段よりも高くて女々しくて、エッチな声で僕の名前を呼びながら 絶頂を迎える。そんな司くんを見ていると、なんだか嬉しくなってきて 思わず頬が緩んでしまっていた。
そんな僕を気にもせず、司くんは僕と繋いでいる手を握りしめて、それと同時に果てている。
「……司くん」
今にもとろけてしまいそうな瞳で何かを訴えようとしている司くんを放っておくことができず、気づけば彼の名前を呼んでいた。
「るい、類、ッ…好き、すきっ、…」
そんな僕に司くんは応えるように、同じく名前を呼んでくれる。
身体が力んでいる司くんから集中線を引くように カーペットの毛並みが浮き彫りになるくらい、長い間 僕と司くんは身体を重ねていた。──
眠ろうとベッドに入った際、司くんに思い切って告白をしてみたら、急に抱きつかれてそのままふたり仲良く眠りに落ちたのは、また別のお話。(翌日の朝、ちゃんとOKの返事もらった)
コメント
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はあーーーもう最高すぎるんだけど😭😭😭😭🫶🫶🫶ガチでありがとう幸せすぎる🥰🥰🥰🥰文章書くプロですか???見ててこっちまで幸せな気分になりましたこれもはや魔法ですありがとう🫶🫶😘😘😘