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自信どころか運命で結ばれてたんです!愛し愛され愛でられてます。真綿にくるんで胸のポケットにいます!
「……それで上村さんは、速水部長とはどういう関係なの?」
微笑んだ綾子さんに尋ねられ、私は唇を引き結んで黙る。
正直に言ったとして、いい方向に転ぶか、悪化するか……。
「はい」
その時、恵が挙手した。
「綾子さんはある程度、何かしらの感情を持ち、何らかの見当をつけて朱里を呼び出しましたよね? 自分がどう思っているかを明かさずに、先に彼女からすべて聞こうとするのはフェアではありません。綾子さんたちがどう感じているかをある程度知らせなければ、朱里も怖くて話せないと思います。綾子さんは確かに凄い先輩です。でも先輩の威圧感と人数を逆手にとって、後輩に言う事を聞かせようとするのは、あまり良くないと思います」
恵~~~~!!
私は冷静な意見で味方してくれた恵に感謝し、心の中で土下座を通り越して五体投地している。
恵の指摘を受けた綾子さんは真顔になり、両脇のお二人は少し鼻白んだ表情になる。
けれど綾子さんは溜め息をつくと「そうね」と頷いた。
「『分かっていると思うけど』と〝前提〟にするのはずるいやり方だわ。でも私は今まで速水部長への好意を隠していなかった。それは気づいていた?」
尋ねられた私は頷き、おずおずと返事をする。
「憧れているんだなと感じました。でも綾子さんには素敵な彼氏さんがいるので、どこまで本気なのか分からないのも事実でした」
普通に考えれば、ハワイに連れて行ってくれる彼氏は理想的な人だ。
綾子さんの彼氏の容姿や性格は分からないけれど、一緒に旅行に行ったお土産を、皆に配って自慢したくなるぐらい好きなんだなとは思っていた。
「確かにそうね、私は彼氏……|龍一《りゅういち》の存在を公言していたし、そう思われても仕方ないわ」
綾子さんは私の感想を認め、何度か頷いてから続きを言う。
「私は〝理想の生活〟を送れる人と結婚したい。その点、速水部長は副社長になるし、イケメンなのは勿論、優しい人だしとても理想的。上村さんが速水部長を好きだとは聞いていなかったけど、今回の辞令を聞いて特別な関係を想像せざるを得ないわ。……だからあなたの気持ちを聞きたかったし、皆に隠れて付き合っていたなら教えてほしいの」
……うん。まぁ、想像通りだ。
どう答えたものかと考えていると飲み物が運ばれ、前菜盛り合わせと生ハム盛り合わせが運ばれてくる。
「ま、一応乾杯しましょうか。お疲れ様」
綾子さんに言われ、私たちはそれぞれグラスを手にして乾杯する。
(……こんな微妙な気持ちで乾杯したの、初めてかも……)
綾子さんは白ワインを一口飲んでから「そうだ」と付け加える。
「上村さんって時沢係長にも迫られてるじゃない。塩対応だから好きではないんだろうなと思っていたけど、あなたは美人で魅力的だから、余計に誰が好きなのか、社外に恋人がいるのか気になって仕方がないの」
私は綾子さんの言い分を理解したあと、静かに息を吐いてから答え始めた。
「まず、時沢係長の事は本当に何とも思っていません。皆の前でああいう振る舞いをするの、やめてほしいなと思っています」
そう言うと、彼女たちは「確かに」と頷いた。
「……それで、速水部長の事ですが……」
私は視線を落とし、深呼吸する。
怖いけど、ちゃんと伝えないと。
何も言わずに逃げて、理解を得ようなんて思ったら駄目だ。
「去年末ぐらいからお付き合いしています」
私は膝の上でギュッと手を握り締め、綾子さんを見つめて白状した。
「……結婚するつもりで同棲もしています。篠宮家の事情にもリアルタイムで立ち会いました。先方の父方、母方のご家族にも受け入れていただいて、部長の抱える複雑な事情を理解できるのも、私だけという自負があります」
緊張で表情を強張らせた私は、そのまま訴えた。
「確かに速水部長は素敵な方です。お兄さんの風磨さんも王子様的存在として女性社員に人気がありますし、部長は格好いいだけでなく人格者です。とてもつらい思いをしたからこそ、他人に優しくできる人だと思っています」
綾子さんたちは飲食する手を止め、真剣に聞いてくれている。
「綾子さんの向上心は凄いと思います。誰だって理想的な家庭を築きたいものです。あなたは女性としてとても魅力的ですし、仕事もできる上、女磨きも怠っていません。皆嫌がる事を率先してやりますし、チームがごたついても纏める能力があります。きっとお付き合いしている龍一さんも、そういう所に惹かれたのでは……と思います」
綾子さんを褒めると、彼女は少し気分良さそうな顔になる。
「……でも、妥協するタイミングを失うと、幸せを逃しませんか? お話に聞く龍一さんは、充分理想的な彼氏さんに感じられます。なのに龍一さんと別れて、婚約者のいる部長に乗り換えますか?」
ここまで踏み込むのは言い過ぎかもしれないけど、野心に目がくらんでいるなら、止まるべきタイミングを自覚してほしかった。
「随分、愛されてる自信があるのね?」
綾子さんは値踏みするような目で尋ねてくる。