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マスクの法則

19 - 第17話:ギフト崩壊

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2025年05月21日

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第17話:ギフト崩壊

夜の山岳研究施設跡。

赤錆びた鉄骨、砕けた天井、電源を喪ったモニター。

そこに、空間ごと“熱”が渦巻いていた。


ユイナはその場に立っていた。

背中には《記憶の仮面:シン》と“アメトの遺仮面”が収まったホルダー。

表情は固く、マントの裾が風に揺れる。


彼女の視線の先には、ギフト保持者の一人――ヴァロがいた。


長身、全身を包む重厚な装甲スーツ。

マスクの中央に燃えるような赤いコアが埋め込まれている。

“守る者”を象徴する鉄壁の防御系ギフト保持者だった。


かつてのヴァロは、暴力を憎み、人を守るためにマスクの力を使っていた。


……だが、今は違った。


彼の背後には、砕かれた仮面が十数枚、崩れた壁に打ち捨てられている。


「おい……ヴァロ……?」


隣にいた元保持者の一人が声をかけた。

その瞬間、ヴァロがゆっくりと振り向く。


瞳がない。


仮面の“中”に、本来の人格がもう残っていなかった。


彼のマスクは、ギフト中枢に接続しすぎたことで自己同一性を失い、

“仮面の意思”が支配権を乗っ取っていた。


「守る……ために、壊す……すべて、壊す……」


低く歪んだ声と同時に、地面が焼ける。


マスクのコアが暴走し、周囲50mを一気に焼き払う熱波が展開された。


ユイナは即座にフェイズモードにマスクチェンジ。

スラスターブレイクで空中へ跳躍し、斜めに飛びながら回避。

視界にはヴァロの“人格干渉数値”が表示され、既に臨界を突破していることが示されていた。


「彼はもう、自分を覚えてない……!」


地面に降り立ち、彼女は《記憶の仮面:シン》を起動。

過去のヴァロの“防御行動”の記録から、攻撃パターンの予測データを抽出する。


だが、それさえも意味をなさない。


仮面に人格が乗っ取られた今、彼は“自分自身の記録”すら裏切る。


攻撃は超重質の腕撃と広範囲重力圧縮砲。

ユイナは辛うじて回避しつつ、カウンターでスキル干渉型のコードリンクを起動。


「戻って……! あなたのマスクは“願い”のためのものでしょ……!」


だが、その叫びは届かない。


砲撃がユイナを襲う――そのとき。


背後から影が走り、ヴァロの砲口にナイフが突き立てられた。


現れたのは、元保持者・フィス。

長い赤髪に、片方だけ剥がれた仮面。

かつてヴァロの相棒だった男。


「お前は、もう“誰でもない”なら……俺が止める」


彼は涙を見せずに、ヴァロの仮面にコードを叩き込む。


「ありがとうな、最後まで俺を守ってくれて」


一瞬、ヴァロの動きが止まり――マスクが音を立てて崩れた。


鉄塊だけが地面に崩れ、ヴァロという人格は、もう戻らなかった。





戦闘後。


ユイナは静かに問いを呟いていた。


(ギフトって……“願い”の力なんじゃなかったの?

なのに、願いにすがるほど“自分”がいなくなるなんて)


彼女の手には、ヴァロの“砕けかけた仮面の破片”が残されていた。


力があるほど、失うものも大きくなる。


仮面を使うとは、“自分を少しずつ削っていく行為”なのかもしれない――

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