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「あっちぃ……エアコン壊れてねえか」
「節電モードにしてるの。節約しなきゃ」
「それで、熱中症になって倒れてみろ。仕事が出来なきゃ金は入らねえぞ」
季節は春を過ぎ、じめじめとした梅雨も越えて、夏を迎えた。
エアコンの涼しさだけじゃ足りず、俺は自分の目の前に扇風機を置いた。が、この扇風機も如何せん風力も弱ければカタカタと壊れそうな音もしている。そろそろ変え買い時かなどと、考えながらアイスココアを飲む。
「春ちゃんあつーい」
「暑いならくっつくな。余計暑いだろ」
「だって春ちゃん体温低いんだもん」
と、扇風機の風に当たっている俺を後ろから抱きしめてくる神津。正直暑くて仕方がないのだが、振りほどけるほどの体力は残っていない。
神津の体温は名前と反して高く、夏でも冬でも温かい。逆に俺は神津の言ったとおり、体温が低い方だ。互いに名前と反しているななどと笑った記憶がある。
しかしこうも暑いと何もする気にはなれない。小学校も夏休みの期間に入ったらしく、小林は毎日のように事務所を訪れるようになった。今日は友達と遊びに行くらしく、事前に連絡が入ったが。
「あー暇だ……依頼も来ねえし、猫探しは当分暑くてしたくねえし」
「平和で良いって事じゃん」
と、神津は俺の首筋に顔をうずくめる。時折チクリとする痛みを感じれば、それは神津のキスマークである。最初は抵抗していたものの今では慣れてしまった自分が怖い。
「……ッ、見える所につけるなよ」
「いいじゃん。僕のだっていう印。それに、今なら虫刺されってごまかせるんじゃない?」
「んなわけねえだろう」
慣れたがつけて良いとはいっていない。現に、小林に何度不思議な目で見られたことか……そう俺が睨めば、神津は嬉しそうに笑っていた。何がそんなに嬉しいのか俺には理解が出来ない。
神津はその後も俺の肩に頭を埋めるなどし、俺の匂いをかいでいた。
「汗くせえだろ」
「ううん? 良い匂いだよ。春ちゃんの匂いって感じがして僕は好き」
「きもちわりぃな」
そう言えば神津は「傷つく~」とわざとらしく声を上げていた。
理解に苦しむな。と俺は、神津をサラッと受け流しつつ、カタカタと鳴る扇風機の風に当たっていた。すると暫くして、神津は何かを思い出したかのように俺から離れていった。俺の背中は先ほどよりも汗で濡れてしまっている気がする。
「そういえば冷蔵庫にアイスあったな~って思い出して。春ちゃん食べる?」
「何味がある?」
「イチゴと、チョコだったかな? どっちがいい?」
「両方よこせ」
「りょーかい、りょーかい。じゃあ半分こね」
と、神津は鼻歌交じりでキッチンの方へと向かっていった。
俺は、神津が帰ってくる前に机に散らばった紙を片付けようと身体を起こす。机の上には浮気調査の書きかけの資料や、今月の収入、依頼などがまとめられた紙が無造作に置いてある。片付けるのは苦手なため、いつも神津に怒られてばかりだ。
その中でも、特に重要な資料である爆破事件の詳細が書かれた資料にふと目がいった。
未だ爆弾魔が捕まっていない事件。あれから二、三件ほど起き警察も手を挙げている状況らしい。死者はそれほど出ていないが公共施設だったり、金のかかっている建物だったりが爆破されてその被害額は途轍もないことになっているらしい。
(まあ、被害者が出ないだけましか……)
この町にいると事件が絶えず発生するため、死者が出ないだけでもマシな方だと考えてしまう。感覚が大分おかしくなっている自覚はあるが、仕方がないと思っている。
俺は手に取った書類を眺めていると、神津がキッチンの方で悲鳴を上げた。
「どうした!?」
「は、春ちゃん。冷蔵庫が……」
キッチンに慌てて向かえば、神津が顔を青くして冷蔵庫を指さしていた。開かれた冷蔵庫を見れば、中のものが腐っており悪臭がし、氷も液体に戻っているなど悲惨な状態になっていた。
「は?嘘だろ……こんな暑いときに」
「アイス高かったのにー」
と、神津は冷凍庫からドロドロに溶けたアイスを取りだして半泣きしていた。
(おいおい、今月収入少ねえっていうのに……)
だが、これはもう買い換えるとしかいいようがない悲惨さで、俺は積まれたチラシの中から家電量販店の広告を引っこ抜いた。