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俺はダダリ領に帰ってくるなり館に荷物を置くと、すぐに内政にかかった。
やっと戦争から帰って来たのに……と嫁らはブーブー言うが、出せる指令は先に出しておかないと領民の行動力がもったいないからね。
「というワケで、まずはここのラインに堀を築こうと思う」
土木技師40名を地図のまわりに集めると、俺は指示をしていく。
もともと、ダダリ領の周辺は木々が生い茂る平野だ。
これは近隣領地からすると攻めやすい地形である。
木々に隠れながら平らな道をすいすい進軍することができるわけで、こちらが気づかぬうちに取り囲まれているということになりかねない。
そこで、まずは周囲の木々をある程度伐採し、堀……つまり穴を掘って落差を作り、簡単に攻めては来れないようにしておきたいのだ。
「じゃあまた来るから、とりあえず整地から頼むよ」
「わかりました」
さて、こうして土木技師の手が空いているということは、戦争へ行く前に頼んでおいた『魔法研究所』と『祠』が出来上がっているということである。
俺は領地の真ん中を走る川に架けられた橋を渡り、魔法研究所の建設予定地へ行ってみた。
「おお! できてるできてる」
すると屋根や窓、煙突などが湾曲した妙な建物が見えてくる。
魔女でも住んでいそうな施設だが、これまたゲームの魔法研究所とまったく同じフォルムなのだった。
実際に見ると意外にデカく、バスケットボールのハーフコートくらいはあるかな。
「あ、兄さん!」
で、施設のドアを開けると弟のヨルがフラスコのような瓶を片手に振り返った。
「いつ帰って来たの?」
「今さっきさ。頑張ってるみたいだな」
俺はヨルの頭をガシガシとなでてやる。
そう。
一度館に帰った時、おふくろから「ヨルだけは魔法研究所で研究をしているよ」と聞いていたのだ。
コイツは最初から魔法に興味があったからな。
魔法の研究や修行には特に熱心なんだろう。
―――――
名前:ヨル
職:【魔道士】
レベル:Lv3(20%)
身体能力:32
頭脳:115
技能:占いC、草花探索C、薬草調合C
魔法:ほのおD、風の刃E
―――――
ちょっと見ない間にずいぶん強くなっている。
「すごいぞ。もうふたつも魔法が使えるのか」
「エへへッ。今のところ僕が一番の魔道士だよ」
その場には他にも数人の魔道士がいたが、彼らもヨルの熱心さと実力は認めているらしく、うなずきながらも笑顔でこちらを見つめている。
ちなみに現在、領内で『魔道士』のジョブを割り当てているのは20名。
その中で魔法研究所に多く通う者もいれば、たまにしか来ない者もいるようだ。
ゲーム内では単にステータス上の成長スピードに個人差があるなと思っただけだったけど、実際には才能やモチベーションで成長スピードが違ってくる様子がよくわかった。
適正があってもモチベがないヤツには、別のジョブに転職させてやるのも手かもしれない。
それにしてもヨルが『ほのおD』が使えるのはデカイな。
他にもEランクの魔法なら使える者が14人いるらしいから、ちょっとした『魔法部隊』になるぞ。
「ヨル、次の魔境のボス攻略では手伝ってもらえるか?」
そう頼むとヨルは飛んで喜んだ。
「え? いいの!?」
「ああ。頼りにしてるぞ」
「やったー!」
この前の暴れトロルの時には弟たちは置いていったからな。
大人あつかいされて嬉しいのかもね。
さて……
魔道士の育ち具合がだいたいつかめたところで、次は『祠』を見に行こう。
祠は石造りの小さなお堂で、ジョブ『神官』が土地の神々に仕える施設である。
神官は魔道士よりも育てるのが大変だ。
魔道士は占い師をレベル16にまで上げれば進化するのに対し、神官は霊媒師を24レベルにまで上げなければ進化できない。
それゆえ現在、神官に進化した者はまだ3名。
さらに神官にまで育ったとしても、そこから魔法を使えるようになるまでまた時間がかかるのだ。
でも神官は『治癒魔法』や『聖魔法』をおぼえるので、根気よく育てていく必要がある。
まだ戦闘には連れていけなくてもね。
「領主さま。ノンナが何か失礼をしておりませんか?」
さて、祠の様子を見に行くと神官になったレイナが心配そうに尋ねてくる。
レイナはノンナの姉である。
俺は、「ノンナは何も失礼などはなく立派にやっているよ」と話して、それから二、三の世間話を交わすと祠を去った。
もう夕方だ。
今日の内政はこのへんにして、館へ帰ろう。
「ただいまー」
「おかえりなさい」
すると、エプロン姿のノンナが迎えてくれる。
金髪の三つ編みが可愛らしい。
「あれ、リリアは?」
「弓を持って訓練所へ行ったよ。そろそろ帰るんじゃないかな」
「ふーん」
俺は彼女に上着を手渡しながら相槌を打つ。
「ところで今日はお風呂を沸かしたんだよ。入る?」
「え……マジか! ちょー気が利くじゃん」
「うふふ。戦争から帰って来て、すぐに領地のお仕事だもん。温まって疲れを落としてね」
よくできた嫁じゃんか。
レイナの心配はやはり杞憂なのだ。
それからノンナは「一緒に入ろ?」とエプロンの乳をぶつけてくるので、やれやれしょうがねえなぁということで二人で風呂場へ向かう。
「ズボン、脱がしてあげるね」
「おう」
ノンナは15の少女にしては妖艶なしぐさで俺のベルトをカチャカチャと外す。
そして、ストンッとズボンが落ちたその時である。
「……ねえ、なんで女の子のパンティ穿いてるの?」
「へ?」
そう言われて下を見ると、ツーンっと張ったテントの上には赤いリボンが揺れていた。
しまったぁ!
結局あれからパンツ穿き替えるの忘れてたんだ!
「アルトってHENTAIだったんだね……」
「待て! 違う! 話を聞いてくれ!」
俺は、王都でヤベえ女騎士に追われて命からがら王都を抜けてきたこと。
その時にやむをえず女装するハメになったことを説明する。
「そうなんだぁ」
「ほッ、わかってくれたか」
「うん。あたしはアルトにどんな趣味があっても好きだよ」
全然わかってくれてねえ(泣)