テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#現代ドラマ
ゆうき あきや
4,038
259
#心理描写重視
第118話:秘密の収穫祭。獲れたて野菜と炭火焼き
ドバイの石油王とスイスの銀行家による、泥だらけの夏野菜の収穫作戦から数時間が経過した。
十勝の限界集落を包む空は、燃えるような茜色から、深い藍色へとその姿を変えようとしている。
「……よし。前線(畑)での任務は完了だ。これより、本日の兵站を最高効率で摂取するための『秘密の収穫祭(バーベキュー)』へ移行する」
俺は首に巻いた手ぬぐいで汗を拭いながら、古民家の庭先に完璧な陣形(BBQセット)を構築した。
「おおっ! バーベキュー! 最高の響きだな!」
「自らの手で掘り出した作物を、大自然の中で焼いて食べる。これ以上の贅沢があるだろうか!」
すっかり泥んこ遊び……もとい、農作業の魅力に取り憑かれたVIP二人が、ジャージ姿のまま目を輝かせている。
彼らの背後では、黒服のSPたちが「ボスがジャージ姿ではしゃいでいる……」と、感動と困惑の入り混じった顔で待機していた。
「お兄さん、お野菜洗って切ってきましたよ! 今日採れたての夏大根はもちろん、トウモロコシにアスパラ、それから昨日のジャガイモや肉厚なシイタケも!」
エプロン姿の小春ちゃんが、色鮮やかな地元野菜が山盛りにされた大皿を運んでくる。
「ご苦労。では、火起こしに入る」
俺は耐熱グローブを装着し、バーベキューコンロの前に立った。
陸上自衛隊『需品科』が最も得意とするのは、いかなる過酷な環境下でも部隊に温かい食事を提供するための、完璧な熱源確保(ロジスティクス)である。
俺は炭をただ積むのではなく、中心部に上昇気流を生み出す『煙突効果(チムニー・エフェクト)』を計算し尽くした、完璧なピラミッド型に組み上げた。
そこに少量の着火剤を置き、火を放つ。
シュボッ。
パチパチ……ゴォォォォォッ!!
計算された気流が炎を吸い上げ、うちわで扇ぐことも、息を吹きかけることもなく、わずか数分で全ての炭が美しい『黄金色』へと均一に染まった。
「オーマイゴッド! なんだ今の魔法は!? 私の宮殿の料理長でも、あんなにスマートに火は起こせないぞ!」
「完璧な燃焼効率だ……! 炎すらも完全にコントロール下に置いているというのか、マスター!」
VIP二人が、俺の需品科流の火起こしに大興奮している。
ジンバルにセットされたiPhone miniの向こう側でも、一千万人のリスナーがどよめいていた。
『主の火起こし、手際がプロすぎるww』
『一切扇がないで完璧な炭火作るとか、マジで需品科の鑑だな』
『石油王と銀行家が、ただのBBQで大はしゃぎする限界集落ww』
俺は黄金色に輝く炭火の上に網を乗せ、まずは彼らが自らの手で掘り起こした極上の夏大根、そして昨日の新じゃがやトウモロコシを並べた。
ジュワァァァ……。
炭火の遠赤外線が、野菜の内部からじっくりと甘みを引き出していく。
表面に少し焦げ目がついたところで、俺は刷毛を使って、特製の『焦がし醤油バター』をサッと塗った。
ジューーーーーッ!!
その瞬間、醤油の香ばしさとバターの濃厚な香りが、暴力的なまでの飯テロとなって初夏の夜空に爆発した。
「……ッ!! な、なんだこの香りは!!」
「たまらん! 私のスイス銀行の金庫の暗証番号を教えるから、早くそれを一口食べさせてくれ!!」
「落ち着け。兵站の配給は平等だ」
俺は焼き上がったトウモロコシとジャガイモ、そして大根ステーキを、彼らの紙皿に取り分けた。
二人は熱さに悶絶しながらも、獲れたての野菜にかぶりついた。
「……あ、甘い……!! トウモロコシがフルーツのように甘いぞ! そしてこの焦がし醤油の香ばしさ! 完璧なマリアージュだ!」
「ジャガイモもホクホクで、この大根ステーキからは大地のエネルギーが直接血肉に変わっていくのがわかる……! ウン万円のキャビアより、絶対にこっちの方が美味い!!」
大富豪たちが、子供のように顔をベタベタにしながら野菜を貪り食う。
その足元では、コン吉とコン次郎が「僕たちにもちょうだい!」と尻尾を振ってアピールし、小春ちゃんが味付けなしで茹でた新じゃがを少しだけ分けてあげていた。
『ミャウ(人間って、本当に食べるのが好きね)』
特等席の切り株の上で、神秘的な『オッドアイ』の瞳――左目のサファイアブルーと右目の琥珀色――を細めながら、シロが優雅に毛繕いをし、その賑やかな宴を見守っている。
「お兄さん! アスパラも焼けましたよ! お兄さんも一緒に食べましょう!」
小春ちゃんが嬉しそうに俺に野菜を勧めてくる。
だが、俺は自分の定位置である折りたたみチェアに深く腰掛け、キリッとした真顔で首を振った。
「俺の兵站は、すでに準備が完了している」
俺の手元にあるのは、炭火の端の『絶対に野菜の汁が飛ばないクリーンな領域』で密かに焼き上げていた、分厚い『大豆ミートのステーキ風』。
そして、手元には完璧な水加減で炊き上げられた、黄金色の『玄米』である。
「……いただきます」
俺は真顔のまま、炭火で香ばしく焼き上げられた大豆ミートを玄米の上にワンバウンドさせ、一気に口の中へ掻き込んだ。
炭火の遠赤外線効果によって、大豆ミートの表面はカリッと、中は驚くほどジューシーに仕上がっている。
プチプチとした玄米の甘みと、大豆の旨味が口腔内で完璧なシンクロニシティを起こす。
どれだけVIPが歓喜しようと、どれだけ美味そうな地元野菜が目の前にあろうと。俺のミニマリストとしてのストイックな『一日一食』のルーティンは、一ミリもブレることはない。
「……マスター。君のその鋼の意志、私は心から尊敬するよ」
石油王が、トウモロコシをかじりながら呆れたように言った。
「お兄さん……世界中のVIPが隣で大宴会してるのに、なんでそこで一人だけ大豆と玄米を極めてるんですか……。一口くらいトウモロコシ食べましょうよ……」
小春ちゃんがジト目でツッコミを入れるが、俺は涼しい顔で玄米を咀嚼した。
そして、食後の熱いほうじ茶を啜りながら、いつもの『限界言い訳タイム』を発動するため、カメラに向き直った。
「皆さま。彼らがこの野菜を『世界一美味しい』と錯覚しているのは、決して大自然の魔法でも、俺の火起こしスキルでもありません」
『出たァァァァァ!!!』
『大宴会の真っ最中に始まる、主の限界言い訳タイムww』
『さあ、この圧倒的な美味さと幸せをどう論破する気だ!』
俺は淀みない口調で、極めて論理的(?)に言い放った。
「これは『メイラード反応』による純粋な化学変化と、長時間の労働による『極度の低血糖状態』が引き起こした、ただの脳内麻薬(エンドルフィン)の分泌です。さらに、屋外という非日常空間がプラシーボ効果を増幅させているだけ。ええ、すべてはただの『栄養学的なバグ』と『錯覚』に過ぎません」
「んなわけあるかあああ!!!」
小春ちゃんが、持っていたトング(※熱くない方)で、俺の背中に愛あるスマッシュを見舞った。
「お兄さんが完璧な火加減でお醤油塗ってくれたから、最高に美味しいんでしょうが!! メイラード反応とかプラシーボ効果とか、素直にBBQの楽しさを認めなさいよ!!」
『小春ちゃんのトングスマッシュ炸裂ww』
『メイラード反応(焦がし醤油バターの悪魔的美味さ)』
『栄養学的なバグ(労働の後の最高のBBQ)』
『適応力バグおじさん、ついに大自然のBBQまで化学反応と錯覚のせいにするww』
一千万人のリスナーが大爆笑の渦に包まれる中、俺は「痛ぇな」と苦笑いしながら、夜空を見上げた。
十勝の澄み切った初夏の夜空には、今日も数え切れないほどの星が輝いている。
「ハハハ! マスターの言い訳も、小春のツッコミも、最高のエスプリ(機知)だ!」
「あぁ! 泥にまみれ、星空の下で笑い合う……。私の人生で、今日が一番のディナータイムだ!」
石油王と銀行家が、腹を抱えて笑い合っている。
コン吉とコン次郎がその周りを嬉しそうに走り回り、シロが静かにマイナスイオンを放ち続ける。
世界一アンバランスで、世界一贅沢な、限界集落の秘密の収穫祭。
俺のストイックな玄米生活と共に、このバグった平和な夜は、いつまでも賑やかに、そして温かく続いていくのだった。
コメント
1件
ああっ、もう今回も最高だったよ〜!!🥹💕 石油王と銀行家がジャージで泥んこになって、BBQではしゃぎまくってるギャップが尊すぎて頭おかしくなりそうだったんだけど!?ww しかも火起こし一発で「魔法だ!!」って言われてる主人公、需品科ヤバすぎでしょ🔥 でも一番好きなのは、やっぱり小春ちゃんのトングスマッシュだよ!!「んなわけあるかあああ!!」ってツッコミ、めっちゃ清涼剤って感じで大好き😭💖 シロも特等席で優雅にしてて、この空間の癒し度やばいな……。次の話も絶対読むからね!!📖✨