「アルレイド~どこ行くの?」
小さな子供がこちらに駆け寄ってきた。
「ちょっとな。アリシールと出かけてくる。」
アルレイドはしゃがみ、にっこりして答えた。
「アリシールも?」
子供は寂しそうに言いながら、アルレイドの身に着けている、フードが付いた白く短いマントを握り締めた。
「大丈夫だよ。いつかは帰ってくるから。」
アルレイドは子供の頭をポンと撫でた。
「アルレイドー!もう行くよ!」
アリシールが遠くで呼んだ。アリシールも、アルレイドと同じマントを身に着けている。
「アルレイド!起きないと置いてくよ!」
アルレイドはベンチの上で目を覚ました。
「なんだー、夢か。」
体を起こしながら、そう呟く。
「寝ぼけてないで!早く!」
アリシールはアルレイドを急かした。
「列車に乗り遅れるよ!いいの!?」
「わー!忘れてた!」
思い出したアルレイドは、急いでアリシールを追って列車に乗った。
「ベンチで寝ないでって、この前言ったのに…」
アリシールはため息をつきながら言った。
「別にいいじゃねーか。誰も座ってなかったんだし。」
「良くないっ!ある程度人がいる所のベンチで寝転がるなんて、アルレイドぐらいだよ!その間隣に立ってる私の方が見られるんだから!」
「わー!羊がいっぱいだ!」
アルレイドは、アリシールの話をまるで聞いていない。
「全く…女の子らしくない…」
アリシールは誰にも聞こえないくらいの声で呟いた。
「なんだと!」
しかし、アルレイドはしっかり聞いていた。
名前や声だけでは分かりづらいが、アルレイドは女だ。男だと間違えられやすく、女であることを否定されたり、男だと言われたりすると怒る。
「女の子らしくしといたら?」
アリシールは少しからかっている。
「らしいとからしくないとか、関係ないだろ!」
短気なアルレイドは、まだ怒っていた。
列車は二人が乗ったところよりも大きな駅に止まり、中はたちまち満員になった。夕方の帰宅の時間帯と被ったからだ。
「お二人さん。隣に座っていいですか?」
二人が向かい合って座っている席の前に、老紳士が立っていた。アリシールは、どうぞ。と窓側に座り直す。
「二人で旅行かい?すごいね。どこに行くんだい?」
老紳士が話しかけてきた。
「行き先は決めてないんです。色々な町を回っている最中で。貴方はどちらへ?」
アリシールが答え、質問を返した。
「私は出張ですよ。その帰りなんです。」
老紳士は膝の上に抱えていた旅行カバンを、ポンポンと叩いて見せた。
「そういえば、貴女方のお名前は?銀色の髪に銀色の瞳とは珍しい。」
老紳士は興味深そうに言った。
「…私はアリシール・フィレッジです。こっちが…」
「アルレイド・フィレッジだ。」
いつも通り、誰にも敬語を使わないアルレイドだ。
「フィレッジ…さん…魔女でしたか…」
急に老紳士に落ち着きがなくなった。そして、
「急用を思い出しました。それではこれで。」
と言って、足早にその場を離れた。
「言うべきじゃなかったよな。名字。悪い思いさせたんじゃねーか?」
アルレイドが低い声で言った。
「…言うかは迷った。」
アリシールは寂しそうにしている。
二人は魔法使いだった。しかし、魔法使いは、魔法の才能があってもなくても意味なく嫌われ、世間から除外されてきた。一部の地域と、とある身分以外では、魔法使いは差別の対象となっている。
「まっ、悔やんでもしょうがないだろ。早く行き先決めて、とっとと列車から降りよう。」
アルレイドなりの励まし方だ。しかし、ポニーテールを結び直しながら言っているので、効果は半減している。
「…結んでやるよ。おだんご。」
アリシールのおだんごは、一日中結び直さずそのままにしていたが、まだきれいなままだ。しかし、アリシールがずっと黙ってうつむいていたので、アルレイドはこう言った。
「それぐらい自分でできる。別にいい。」
そう言って、アリシールは銀色の髪をほどいたが、そこから少し何かを考えて、
「やっぱりお願いする。」
と言った。笑ってはいたが、無理やり笑っているのが、アルレイドにはわかった。そして、魔女だとわかると逃げて行かれるのが、どれだけつらいのか、アルレイドも身に染みてわかっていた。
「大丈夫だよアリシール。私がついてるんだ。」
おだんごを結んであげながら、アルレイドは言った。
「アルレイドじゃ、頼りにならないかなー。」
「なんだと!」
そう言って、二人は人の少なくなった車両で笑い合った。外はもう、深い青色になっていた。
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