テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「君はまた、僕を忘れるよ」
夜の庭に、その声は落ちた。
「…..え?」
振り返る。
そこにいたのは知らないはずの少年。
なのにどうしてだろう。
胸の奥が、ぎゅっと痛む。
「…..誰?」
そう聞くと、少年は少しだけ困ったように笑った。
「それ、もう何回も聞いた」
風が揺れる。
花が、かすかに音を立てた。
「初めてよ。あなたと会うのは」
はっきり言ったはずなのに、自信が持てなかった。
少年は、何も言わなかった。
ただ、少し寂しそうに目を伏せた。
目が覚める。
見慣れた天井。
見慣れた部屋。
夢…..だったのだろうか。
「おはようございます、ルナ様」
扉の向こうから、いつもの声。
何も変わらない朝。
なにの。
どこか、なにかが、ずれている気がする。
「本日のご予定でございます」
使用人が淡々と話す。
昨日も、同じことを聞いた気がした。
同じ言葉。
同じ順番。
同じ声。
…..気のせい?
夜。
ルナは、静かに庭へ向かう。
空には、欠けた月。
白く、冷たい光。
それに手を伸ばす。
細い刃が、月に触れる。
—削る。
ぱらり、と。
光が、零れた。
その瞬間。
遠くで、何かが途切れた気がした。
音もなく。
ただ、存在だけが、消えるみたいに。
ルナは手を止めた。
「…..今のは」
わからない
でもなぜか。
やってはいけないことをしたような気がした。
「…..やめた方がいいよ」
背後から、声。
振り向く。
そこにいたのは、あの少年だった。
「また会えたね」
優しくそう言う。
ルナは、息を呑む。
「…..誰?」
少年の表情が、ほんの少しだけ曇った。
「やっぱり、覚えてないか」
一歩、近づいてくる。
なぜか、逃げられなかった。
「君はさ 」
静かな声。
「大事なものから、順番に忘れていくんだ」
心臓が、強くなる。
「…..意味がわからないわ 」
そう言ったはずなのに。
その言葉すら、どこか遠い。
部屋に戻る。
机の上に日記帳。
そこにはこう書いてあった。
『今日も彼と話した』
ルナの手が止まる。
「…..彼? 」
そんな人、知らない。
知らないはずなのに。
ページの文字が、滲んで見えた。
最後のページ。
震える手で、めくる。
そこにはー
『どうか、忘れないで』
翌朝。
庭に立つ少年。
1人で、空を見上げている。
「次は…..どれくらい、覚えてくれるかな」
風が吹く。
花が揺れる。
そして、静かに
物語が始まる。
海の紅月くらげさん
#主人公最強
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!