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※これは、二人が中学生の頃のお話。
仮入部初日。
「藤川さんって、かわいいよな。彼氏とかいるのかな」
二年生の部員、徳島がにやけた顔でそう言った。
藤川萌奈のロボ研仮入部の初日、部長の長谷川や金子から説明を受けている萌奈をみてそうつぶやいたのだ。
「そういう子じゃないと思います。すごく真面目そうな感じですから」
すでに入部していた蒼真ははっきりと言った。
「サッカーや野球のマネージャーやりそうな雰囲気だけど、ここを選んでくれたのは嬉しいよな。俺たちみたいなオタク集団にああいう女子が来てくれたら、一気に雰囲気もかわるんだろうなー」
そう言って徳島はちらちら萌奈に視線を送った。
「じゃあ、藤川さんに入部してもらえるようがんばって勧誘しましょう!」
蒼真もロボ研の存続を熱望していた一人。だから何としてでも萌奈に入部してほしかったのである。
「藤川さん、一緒に電子パーツをつけてみない?」
プログラミングやロボット制作をみて、顔が引きつっている萌奈に気が付いていた。ここは出来ることから挑戦してもらおうと蒼真は考えたのだ。
「ライトの当て方、すごく上手だったよ。影ができないように位置を調整してくれていたよね。ありがとう」
「本当? なんか嬉しい」
手伝いを褒められたた萌奈は、ぱあっと華のような笑顔を作った。
「また手伝いに来てね。できること、みんなで探して待っているから」
「う、うん」
本心では、「ロボ研は私には無理かも」と諦めていた萌奈だったけど、部員たちの温かい気遣いにまた明日も行ってみようと思えた。
「藤川さん、ちょっとこっちに来てよ。プログラミングのいい本があるんだ」
長谷川部長に声を掛けられた萌奈はふりむくと同時に、一本で結んでいたヘアゴムを取った。
そのとき蒼真の鼻孔にシャンプーの香りが届き、それがいい香りで思わず後を追ってしまった。
「藤川さん…香水つけているの?」
「ううん、学校はそういうの禁止でしょう?」
萌奈は崩れた髪を結い直しながら微笑んだ。
そして部長の元へと行ってしまった。
蒼真は萌奈の香りと笑みに頬を染めた。
※
「藤川さん、来てくれたんだね!」
部員のみんなが萌奈の登場に小躍りをして喜んだ。
「一週間は仮入部できるので今日もきました。昨日、家でもプログラミングの勉強してきました」
萌奈が気恥ずかしそうにそう言った。蒼真もそれが嬉しくて萌奈にどんどん声をかけた。
「藤川さん、偉い! じゃあ、今日は部長に頼んでさコードの書き込みやらせてもらおうよ!」
蒼真は率先して萌奈の世話を焼くのだった。
♢
一年三組 教室。
萌奈はいとこの我聞と同じクラスだった。
「萌奈、ロボ研に入部したって本当かよ⁈」
休み時間、席が前後の二人はだらだらしゃべっていた。
「まだ仮入部だよ。でも、頭のいい人に囲まれていると自分も成長してゆく感じがして、すっごく楽しい」
萌奈はにっこりと笑顔を作った。そんな萌奈の顔をみて我聞が眉間にしわを寄せた。
「オタク集団だろ?話、合うのかよ」
この会話をたまたま聞いていた、隣の席の子が話に入って来た。
「我聞くん、ロボ研はただのオタクじゃないわよ。部長の長谷川先輩は市の陸上大会で入賞しているし、二年の金子先輩は空手の黒帯。徳島先輩はスイミングスクールの記録保持者。二組の鳴海くんだって運動部を抑えて体育祭のリレー選手に選ばれている。ロボ研部は武道にも長ける超ハイスペックなオタク集団なのよ!」
その説明に圧倒された我聞の頬が吊り上がる。
「すっごいな…。逆にそんな中に入ったら萌奈が浮くんじゃないの?」
「…そうだね。でもみんな優しいんだよ。オタクっていう暗さはないし」
「ふーん。まあ、頑張れよ」
特段、我聞はそこまで興味はなかった。
※
仮入部四日目。
「野球部のエース 高坂くんをどう思う?」
工具の点検を任された萌奈の隣に徳島が張り付いて質問していた。
萌奈は不思議な質問に戸惑いながらも答える。
「えーっと…小さい球を早いスピードで投げるのはすごいなって思います」
「じゃ、サッカー部のエース 広瀬は?」
「えっと…ボールを蹴るのが上手いなって思います…」
徳島は学園のヒーローの名を挙げて、萌奈に感想を聞きだしていた。
正直、萌奈は学園のヒーローなどに興味はなかったので、とても答えづらそうだった。しかし、萌奈の感想を聞いた徳島が興奮して騒ぎ出した。
「藤川さんって地に足のついた観察眼を持っていて、非常にすばらしいね!!普通の女子は頬を染めて”かっこいいですぅ~”ってなるのに!!」
ドンッ
萌奈と徳島の間に学生カバンが入り込み二人を遮断した。
そのカバンをおいた張本人、蒼真がやや怒った表情で入ってくる。
「徳島先輩、そういう話は部活では関係ないですよね?」
「だって、女子ってすぐそういう話で盛り上がるだろう。でも藤川さんは一味違うなー。だから俺らみたいなオタク集団にもすんなり溶け込めるんだなきっと」
徳島が蒼真のカバンをよけて萌奈に言った。
「オタク集団?先輩たちがですか?」
萌奈が聞き返す。
「おれらはそう思われているんだろう?」
「それ勘違いですよ。むしろ逆です」
「え?」
徳島と蒼真が目を丸くして萌奈を見た。
「”文武両道スーパーハイスペック集団”してと認知されていますよ」
萌奈がひとさし指を立ててそう教えた。
「そ、そうの?」
「はい。だから、ロボ研の部員はみんなから尊敬されています!」
萌奈は力強くそう言った。
「そうなんだー。俺たちに勇気をくれるなんて、藤川さんありがとう!」
いい気分になった徳島は萌奈の手を握ってブンブンと振った。
つかさずムッとした蒼真が徳島の手を解いた。
「女の子に触るときは、事前に許可をもらわないとダメです!」
今どきっぽい理由で徳島を萌奈から離す蒼真だった。
※
仮入部最終部。
「藤川さん。来週も僕たちはここで藤川さんを待っているからね。ロボ研への入部、前向きに考えてね」
この日は金曜日。仮入部の最終日だった。
長谷川部長は萌奈に優しくそう伝えた。
「はい、ありがとうございます!」
この一週間ですっかり部の雰囲気になれた萌奈は気持ちのいい返事を返した。
「藤川さん、一緒に帰ろう」
「うん」
部員の内、蒼真と萌奈だけが裏門から帰宅だった。仮入部中、蒼真に誘われて萌奈はいつも一緒に下校していたのだ。
裏門を出るとすぐに道が左右に分かれる。
萌奈たちは左に進む。
そして200メートルほど歩くと大きな通りにぶつかる。
そこを真っすぐ過ぎて一つ目の曲がり角で蒼真と分かれる。
「入部する。私、決めたよ」
萌奈は笑顔で蒼真にそう伝えた。
「ありがとう。これでロボ研は存続決定だ!」
部活として認められる最小人数は五名。
目標を達成できた蒼真は喜んだ。
「うんっ、夏のロボコンも今から楽しみだね!」
「頑張ろうな。じゃあ…俺はこっちだから」
そう言って曲がり角で立ち止まった。
「来週からは藤川さんもロボ研の正式な部員だね。よろしく!」
蒼真が手を差し出した。萌奈は一瞬、戸惑ったが頬をポッとさせながら手を出した。
「うん。よろしくね」
二人は握手を交わした。
二人は毎日一緒に帰るようになった。
♢
ある日のこと。
自宅のリビングでTVを見ていた萌奈に遊びに来ていた我聞が訊ねた。
「萌奈は蒼真と一緒に帰ってるの?」
「うん。裏門は私たちだけだからね」
「ふーん。でも、蒼真はどうして遠回りして帰ってるんだ?」
その質問に萌奈は小首を傾げて我聞に聞き返す。
「それ、どういうこと?」
「あいつは一本手前の大通りから左折したほうが家に近いのに」
「…そうなの?」
「蒼真は変わったやつだな」
恋愛などに疎い我聞は何も気にならず、スナックを口に放った。
萌奈はTVに集中できなくなった。
スナックを頬張る我聞の横で、乙女のように頬を染めていた。
鳴海くんは私に合わせて遠回りをしてくれているのかな…
どうしよう、胸がドキドキしてきた
鳴海くん…もしかして…私のこと…
都合よく考えすぎかな
でも、ちょっと嬉しいな
ーおしまいー