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俺だって、琴子が苦労もせず世間を知らずに育ってきたとは思っていない。

それなりの苦労もしてきただろうし、恋愛経験だってないわけはないだろう。

それでも、琴子の告白は俺にとって衝撃だった。

いつも控えめで、おとなしい琴子の本当の姿を見た気がした。

きっとこれが素の琴子なのだろうとも感じた。

そして、こんな私を愛せるのかと挑んでくる態度に腹が立った。


大人からきちんと愛され守られることなく育ってしまった琴子の現実を思い知らされた。

だからこそ俺が、愛してやりたいと思った。

衝動的にとってしまった行動が正しいのかは、俺にも分からない。

でも・・・気がついたら抱きしめていた。

俺は自分が止められなかった。


***


「ぅーん」


俺に強く抱きしめられ、琴子がもがいている。

それでも、俺は力を緩める気はない。

今手を離せば、琴子はどこかに行ってしまうようで怖かった。


歯を食いしばって、必死に我慢する琴子。

うっすらと涙がにじんだ顔を見て、俺は少しだけ力を抜いた。


「琴子、いい加減に降参しろ」

少し体を起こし、琴子を見下ろす。


誰よりも罪の意識を感じているくせに強い言葉を口にする琴子は、きっと引くに引けなくて強がっているだけだとわかってはいる。

育ってきた環境の中ではそういう方法しかなかったのだろと、理解もできる。

だからこそ悪いことは悪いことと認めさせた上で、これからは俺が守ってやると言いたかった。


それまで我慢していた琴子の目から、涙がこぼれた。

流れたその涙を、俺は指でなぞる。


「ごめんなさい」

小さな小さな、声だった。


「2度と自分を粗末にする様なことはするな。いいな」


コクンと、琴子は素直に頷いた。


俺は腕の力を緩め、そっと優しく抱きしめた。

そして、ゆっくりと唇を重ねた。


琴子の唇から伝わる息遣いを、俺は感じ取る。

この暖かさも、感覚も、決して誰にも渡さない。

それは、ずっと以前から心に決めていたことだ。


***


俺が琴子を初めて知ったのは中一の頃だった。

お母さんを亡くし一人泣き続ける当時4歳の琴子が、愛おしくてたまらなかった。

父さんも母さんもそのまま家に引き取りたがったが、琴子のお母さんとの約束で、二十歳までは陰から援助することとなった。


それからは、事あるごとに琴子の様子を見に出かけた。

いつも陰から、そっと成長を見守ってきた。

琴子自身に記憶はないだろうが、俺は小学生の琴子も中学生の琴子も知っている。


おとなしいくせに芯が強くて、頑張り屋の琴子。

多少ぐれた時期があったことも承知しているが、陰から見守る約束もあって表立って動くことはできなかった。

もちろん、警察沙汰になるようだったり、学校に行けないほどのことがあれば出て行くつもりだったが、琴子はちゃんと成長してくれた。

そもそも、反抗期の時でさえ俺にとってはかわいい琴子でしかなかった。

そして、大学を卒業し家にやって来た琴子をもう手放さないと決めたんだ。


***


翌朝。

同じベットの上で寝込んだ俺は、早い時間に起きてしまった。

かわいいなと思いながら寝顔をじっと見ていたら、琴子が目を覚ました。


「おはよう」

「おはようございます」

目を合わせると、琴子が顔を赤くする。


「さすがに、母さんには話せないね」

「え?」

凄く意外そうな顔。


「2人でホテルに泊まったなんて、母さんには言えないだろ?」

もちろん、それも計算ずくだ。


「ずるい」

琴子は口を尖らせた。



自宅には、昨日のうちに「仕事で遅くなったからホテルをとった」と連絡を入れた。

母さんは不満そうだったが、俺が許したんだと納得させた。

そして史也にも電話をして、「警察に拘留中の田中浩二の身元を調べて、2度と琴子に近づかないよう処理してくれ」と依頼した。

これでひとまず問題ないだろう。

それでもさらに脅してくるようなら、平石の力を思い知らせてやるだけだ。

史也も厳しいけれど信用できる奴だから、秘密を外に漏らすこともないはずだ。


***


「賢介さん。朝食どうしますか?」

すっかり起き出して、着替えを終えた琴子が聞いてきた。


ここも一流のホテルだから、レストランへ行けば美味しい食事が食べられるはずだ。

しかし・・・

俺は琴子の姿をもう一度見直して、首を傾げてしまった


「琴子、その服で会社へ行くの?」

「いけませんか?」

不思議そうな顔。


「それって、昨日と同じ服だろ?」

「ええ。でも、どうせ制服に着替えるんだから、いいですよ」


いや、普通女の子にとってそこは気にするところだろう。

まるで気にしてないところが琴子らしいし、俺としては琴子に男がいるって噂が流れた方がありがたいが・・・

昨日と同じ服での出勤はさせたくないな。

だからと言って、一旦自宅に帰れば母さんがうるさそうだ。


「そうだ、行きつけの店があるから寄るか」

知り合いの店だから、連絡をしておけば開けてくれるだろう。


「本当に、平気ですから」

何度も遠慮する琴子。


「俺が嫌なんだよ。ほら、ご飯に行くぞ」


荷物をまとめキーを持って、俺は琴子と部屋を後にした。


***


琴子にもちゃんと話をして、「2度と危ないことはするな」と念を押し、何かあったらまず俺に話すと約束させた。

もし、約束を破ったら2度と仕事には行かせない。家からも出さないと伝えた。

これだけ脅しておけば、きっと大丈夫だろう。



なあ琴子。

本当は昨日のうちにお前のすべてを奪ってしまいたかった。

でも、弱みにつけ込んでいるようで出来なかった。

いつか、お前が心から俺を求めてくれる時までは待つよ。

その時には、お前がどんな男を虜にしたのか教えてやる。

もう、逃がさないからな。


運命なんて信じない

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