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翌日、母は仕事を休み、私を発熱外来に連れて行ってくれた。鼻検査をやられて、陰性診断が出ると(色んな検査が一気に出来るタイプだった。単なる風邪だったようで良かった)私を家に送り届け、続けて和樹を病院に連れに行く為に家を出て行った。

お母さん、本当ごめん。ありがとう。

時刻は夕方。解熱剤が効いて熱も引き、ウトウトと半分眠ったような夢見心地でベッドに入っていると、来客を知らせるチャイムが鳴った。

面倒だから無視していると、二度三度と繰り返し鳴り、静かになると今度はスマホが鳴る。LINEだ。

見ると、幼馴染で同じ高校に通っている雅彦からだった。

『風邪大丈夫?プリンとプリン持って来た』

ん?と思い、私は二度見した。

来客が雅彦だという事は分かった。だけど何だこれ、プリンを2個?上がって一緒に食べるって事かな・・・。感染ると面倒いからやめた方がいいと思うけど。

どのみち出ない訳には行かないな、と思い、私は『今出る』と返信して玄関に向かった。

念の為マスクを付けて、荷物も離れて受け取ろう。玄関の叩きには父のゴルフクラブが置いてある。私は中からアイアンを一本取り出した。

少しドアを開けてこれを伸ばし、先に荷物を掛けてもらえば、無用な接触は避けられる。そもそもパジャマだ。幼馴染とは言え同じクラスの男子にこんな姿を見られたくはない。

そう思って、私はドアを少し開けた。隙間から顔だけを出し、外の様子を伺う。

すると、呼び鈴の横に立つ同じ高校の制服姿の男子生徒が目に入った。

子供の頃は私の方が大きかった背丈や体は、今ではすっかり逆転してしまった。

雅彦は特にスポーツをやっているわけでも無いのに180近い高身長で肩幅も広くガッシリしている。

もう、ケンカしても勝てないなぁ。まぁ、高一にもなって取っ組み合いのケンカも無いだろうけど。

雅彦が私に気付く。

「透子。生きてるか?」

「うん、何とか。わざわざありがとう」

銀の細いフレームの眼鏡のズレを直しながら紙袋と、コンビニのビニール袋を見せた。

「先生からのプリントと、授業のノートのコピー。俺のだから見にくいかもしれないけど。あと環からの手紙が入ってる。それと見舞いのプリンだ」

ぶっきらぼうにそう言った。

コンビニの袋の中に透けて見えるプリンは一つに見える。

そこで私は気付いた。さっきの『プリンとプリン』は、『プリントとプリン』の打ち間違いではないのか、と。

雅彦はあまりLINEとかやらないから、文字打つのが苦手なんだろうな、と思うと可愛く思えて来る。

後でLINEの画面を見て羞恥に悶えるが良い、この真面目眼鏡が。

そう思っていると、雅彦がこちらに向かって一本踏み出して来る。

「あ、待って。来ないで」

「ん?」

私はアイアンをドアの隙間から伸ばす。高く持ち上げると結構重たい。

「この先に荷物を引っ掛けて。そうすれば非接触で受け渡せる」

「えー・・・陰性だろ?そこまでしなくても・・・」

パジャマを見られたく無いのだよ。

心の中でそう言うと、雅彦は、ぶつぶつ言いながらも荷物を掛けてくれた。

けれども、アイアンだけでも十分重かったその先端に、そこそこの枚数のプリントとコンビニプリンの合わせ技は予想以上に重く、掛けられた途端に私は腕を取られて前につんのめった。

「ぅわぁ!」

「おい危ない!」

雅彦は焦った声を出して大きく一本踏み出し、私を片腕で抱いて支えてくれた。反対の腕ではアイアンの先端を持ち、荷物が落ちないように支えている。

「ゴメン、ありがとう」

顔を上げると、すぐ側に雅彦の顔がある。近い!

眼鏡の中の目と私の目が合う。分厚い眼鏡と長めの前髪の所為で普段は分かりづらいが、雅彦はとても綺麗な目をしていた。

雅彦の顔が赤くなる。凄い力で私を持ち上げて立たせると腕を離し、急いで体を引く。そして自分の方のアイアンを高く上げた。滑り台のように荷物が私の方に滑って来て私の手の中に収まる。

そして、私に聞こえないようにボソボソ何か言った。

「・・・ノーブラパジャマはダメだろ・・・」

「ん?何か言った?」

「い、いや何も。まだ少し体熱いよ。プリン食べて良く休め」

「うん。ありがとう」

雅彦は忙しいのか、慌てたように帰って行った。


リビングでプリンを食べながら、プリント類を広げた。各種お知らせと雅彦のノートのコピーが出て来る。

コピーは、確かに字が汚くて読みにくい部分もあるが、わかりやすく図や表も記入されていて、十二分に役立ちそうだ。後でお礼のLINEを送っておこう。

そして、環からの手紙があった。可愛いディズニー柄の便箋。流石の女子力。

環というのは私の親友だ。中学時代からずっと友達。頭の良い彼女と同じ高校に入る為に、私は少し無理をして頑張った。少し?いやかなり。

中を見ると、綺麗な字で並ぶ文章が目に飛び込む。

『透子へ。

たまにはアナログに手紙も良かろう。陰性と聞いて安心した。まぁ、陽性ならば今頃全員学級閉鎖で狂喜乱舞だったのだろうが。早く治して戻っておいで。透子がいないと寂しいのは陽性でも陰性でも変わらない。授業が分からなくなったらいつでも教える。ではまた。』

短い文章に環らしさがぎゅっと詰まっていて、私は今すぐにでも彼女の元に駆け付けたい気分になる。

よし、食べたらすぐ横になって、1日も早く学校に戻れるようよく休もう。

そう思ってスプーンを持ち上げた時、再び来客を知らせるチャイムが鳴る。

あれ?雅彦何か忘れた事でもあったのかな?

私は持ち上げたスプーンを戻して玄関に向かう。そして、ドアを細く開けてそこから顔だけを出す。

「はーい・・・」

私は驚いた。てっきり雅彦だと思った来客は彼では無く、見た事も無い知らない人だった。しかも凄いイケメン。

20歳位の大人の男の人。背も雅彦と同じか少し大きいくらいに高い。茶系のお洒落なスーツを着こなして、揃いの帽子を片手で胸元に持ち、頭を下げて挨拶をして来る。

「先日はありがとうございました」

そう言って目を細めてニコッと笑う。素敵な声。笑顔が眩しい。

ありがとうと言われたものの、私には何の心当たりも無い。

「えっと、どちら様でしょう?」

私は釣られて愛想笑いを見せながらそう言う。

男の人は、笑顔を浮かべながら私の前まで進んで来た。

あ、まずい。マスクしてないや。

慌てて手で口元を覆う。

男の人は、私の前でひざまづくと、口元を覆った私の手を取って、その手に口付けを落とした。

「えっ!あの!」

私は驚いてひっくり返った声を出してしまう。

彼は、私の顔より低い位置の顔を上げて、下から覗き込むように私を見詰める。そして、嬉しそうに笑顔を見せる。

ドキっとしてしまった。近い位置で見える長いまつ毛と、ブラウンの瞳。目尻の小さな泣きぼくろがとても色っぽい。

男の人は手に持っていた帽子を被り、空いたその手で、懐から手で握れるくらいの大きさの小瓶を取り出して、私に握らせた。

小瓶の中には、シュワシュワと炭酸水のようなものが入っている。

私の両手に小瓶をしっかり握らせて、その上から包み込むように彼は自分の両手を重ねて優しく力を入れる。少し冷たい彼の体温が伝わって来た。いや、彼の手が冷たいのではなくて、私に熱があるから冷たく感じるんだ。

彼はスッと立ち上がり、軽く会釈して行ってしまった。

後に残された私は、赤くなった頬に小瓶を当ててぼうっとしてしまった。

何てカッコいい人だったんだろう・・・。


リビングに戻り、食べかけのプリンの横に小瓶を並べた。さっきと同じでシュワシュワしている。

美味しそうだな。

頬に当てた時は冷たくて気持ち良かった。

冷えてて飲み頃だな。

熱に浮かされた私は、余り考えが及ばなかったのだろう。何を疑うこともなく、その小瓶の口を開けて飲み干した。柑橘の香りと優しい炭酸が火照った体と喉に気持ちいい。


そして、そのまま、意識を失った。

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しゅわしゅわの液体の入った小瓶...魔法瓶みたいでいいですね。どんなお話になるのだろうとわくわくします🤭

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