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船を操船しながら、これからの釣りについて、マシューさんは俺に説明を始める。
「まずはリロー岬とエムル岬の両方がちょうど真横に見える場所へ行く。大体30分くらいの距離だ。ここで1時間くらい、エサ用と小遣い稼ぎ用にカラマロを釣る。魚より身が千切れにくいから餌として優秀だし、他に獲る漁師がいないからそこそこ高く売れる。
ただ今回は、また現役に戻ったという挨拶で、関係先に配るつもりだ。これを生きたままタレにつけたものが絶品でな。もちろんエイダンにも持って帰ってもらうつもりだ。バラモの分も、ついでに持って帰ってくれるとありがたい」
カラマロか。
似たような釣りものとして、前世でセッピアは聞いたことがある。
あれは深さのある磯で、思い切り投げて釣るのだっただろうか。
けれどカラマロを釣るというのは、聞いたことがない。
というかカラマロは、少なくとも前世では釣りの対象でも漁業の対象でもなかった。
沖の海の深いところにいると、魔法を使った調査で学者が調べてわかっただけだ。
「面白そうですね」
「カラマロは商売として釣るから、普通の釣り道具よりもっと数釣りできる魔道具を使う。使う船の脇に大きな滑車がついた魔道具があるだろう。あれだ。今は港に接岸できるように上に向けて立てているが、釣るときには横に向ける。
船側から見ると、魔法で糸を巻き上げたり出したりするドラムがあって、そこから下にカラマロ受け台が沖に向かって出ていて、受け台の一番沖側にローラーがある。このドラムから仕掛けを伸ばし、沖にあるローラーを通して海に落とすという仕組みだ。
エサはいらない。仕掛けに疑似餌と針がついている。集魚用の灯火魔道具をつけて、小魚やカラマロが集まっている中に仕掛けを落とせば、釣れる仕組みだ」
つまり巨大なリールと竿と考えればいいのだろう。
でも微妙に形状に納得がいかないので、聞いてみた。
「カラマロ受け台の幅が広くて、船側に向かって下り傾斜がついているのはなぜですか」
「この仕掛けは、糸に直接疑似餌がついている。そして疑似餌の針には返しがない。だからローラーから手前まで来て針が下向きになると、引っかかっていたカラマロが受け台に落ちる。そうして落ちたカラマロが受け台の傾斜で滑って、受け台の手前に置いてある桶に入るという仕組みだ。これなら竿とリールで釣るより、よっぽど早い」
「それでは、釣るときに針が外れやすくないですか」
「ああ。だから釣り上げるときは巻き上げる速度を落とさず、一気に揚げなきゃならねえ。手作業だとそれがしんどいが、魔道具なら巻き上げると意識しておきゃそれで済む。巻き上げ終われば自動で止まるしな」
なるほど、そうやって釣り竿とリールより早く効率的にカラマロを釣るわけか。
こんな魔道具があるとは知らなかった。
釣り関係については、前世で本を読みまくっていたつもりだったのだけれど。
「この魔道具は、マシューさんの師匠のオリジナルですか」
「ああ」
マシューさんは頷いた。
「これに似た道具を使う漁師は、少なくとも儂は他に知らない。この船もそうだが、師匠は他にも見たことのない魔道具をいくつも自作していた。師匠が言うには、遠い遠い世界にあった道具だそうだ。具体的にどこだとは、教えてもらえないままだったがな」
遠い遠い世界か。
俺の記憶にある世界と同じようなものだろうか。
なら俺のいた世界と同じだろうか、それともまた別の世界なのだろうか。
もはや確かめる術はないのだけれど、ついそんなことを考えてしまう。
さらに実際にどうやって釣るか、魔道具はどう操作するか、さらにはその後のインガンダ・ルマ釣りはどうやるか。
そんなことを話しながら約1時間経過した。
完全に日が暮れて、周囲が暗くなったところで、マシューさんは船を止めた。
「ちょうど暗くなってきて、カラマロ釣りにいい時間だ。それじゃまず、この魔道具を準備する」
マシューさんは、釣り魔道具二つの間にある銀製の取っ手を右手で握る。
こちら側の二か所についているカラマロ釣り魔道具がゆっくり動き、受け台のローラーがついている先端側がゆっくり下りていった。
受け台の角度が、水平からこちらが30度くらい下がるくらいのところで、動きが止まる。
動いている最中の魔力の動きを確認。
銀製の取っ手は、船の右側面四か所にある銅製の台座的な部分と、船の操縦桿につながっている魔力導線に、ミスリル製魔力導線でつながっている。
そして、その台座のうち二か所には、今はカラマロ釣り魔道具が設置されている。
今はそこに向かって魔力が流れ、台座に設置されたカラマロ釣り魔道具を操作するという状態だ。
台座が四つということは、同じ型のカラマロ釣り魔道具を片側に四つ設置して、操作が可能ということだろう。
操縦桿からの魔力導線にもつながっているから、船本体の操作も可能。
でも一応、ここで確認しておこう。
「この船は、本来は片側四か所にこの魔道具を設置できるということですか」
「ああ。儂一人で漁をする場合は、こっち側四か所にこの魔道具をつけて、一気に操って釣っている。しかし今日はエイダンがいる。だから向こう側の二つのカラマロ釣り魔道具は、エイダンに操ってもらうつもりだ」
予想外の言葉が出てきた。
思わず、こう聞いてしまう。
「俺もこの魔道具を使って釣っていいんですか」
「もちろんだ」
マシューさんは頷いて、さらに続ける。
「こっちで儂のやり方を見て、理解してからだがな。そうやってエイダンが自分で釣ったカラマロのうち、インガンダ・ルマ釣りで使わなかった分は、エイダンに持って帰ってもらおうと思っている。もちろんエイダンがそれを嫌でなかったらだが。どうだ、やってみるか」
「もちろんです!」
どうやらインガンダ・ルマ釣りだけでなく、知らない魔道具で珍しい釣りができそうだ。
これはやるしかないだろう。
※ この話は、写真や図を見ないと仕掛けや魔道具が想像しにくいと思います。
鳥取県のWebページの図が一番わかりやすいと思いますので、URLを書いておきます。
鳥取県水産試験場 スルメイカ釣(網代)
https://www.pref.tottori.lg.jp/73584.htm
実際にどういう感じで釣っているかは、『全自動イカ釣り機』で動画を探してみてください。
※ 釣っている対象はカラマロと記載されていますが、日本のヤリイカとは種類が異なります。そもそも異世界ですから。
なので釣り方が日本のヤリイカ釣りとは少し異なりますが、『この異世界には日本のスルメイカっぽい釣り方で釣るヤリイカがいるんだなあ』と思っていただけると幸いです。