「あ……、はい。多分」
……この、『来るよな?』と、行く前提で尋ねてくるのもちょっと……。
「『多分』なんて言わないでくれよ~。上村がくるの楽しみにしてるんだから。あっ、そうだ! 来月のバレンタインも楽しみにしてる!」
「係長、うちの会社は義理チョコ廃止のはずです」
恵が冷静に突っ込みを入れてくれる。助かった……。
「えー? でも女子社員同士で友チョコあげてるし、こっそり渡してる奴もいるだろ」
「だからってせびるのはナシです。経済的負担にも繋がりますし、強要するのよくないです」
恵よ、よくぞビシッと言ってくれた。
「中村は相変わらず厳しいなぁ~」
「朱里のオカンですから。はいはい、他の人にもお餅ばらまいてください」
恵が塩対応すると、係長はしぶしぶ他のデスクに向かった。
「……はぁー……。熱烈……。係長、黙ってたら爽やかイケメンで通るのに、口開いたら残念だよね……」
綾子さんが辟易として言う。
「悪い人じゃないんですけどね」
ボソッと言うと、綾子さんがポンポンと頭を撫でてきた。
「そうやってなあなあにしてると、いつか痛い目を見るからね。上村ちゃんはしっかりしてるようで、肝心なところは抜けてそうだから」
そこまで言った時、綾子さんは部長室から出てきた尊さんを見て、ワントーン高い声を上げた。
「速水部長~! これ、チョコレートどうぞぉ~!」
尊さんは野暮用があったみたいだけど、綾子さんに話しかけられて「ん?」と立ち止まっていた。
「綾子さん、今日も絶好調だなぁ……」
ボソッと呟くと、恵がクスッと笑う。
「速水部長、何気にモテるもんね。気になる?」
「ん? あ、やー……」
そう尋ねられると、現状なんとも言えず、言葉を濁すしかなくなる。
「そういや、来月バレンタインか~、早いね」
話題を変えると、恵は疑わず「そうだね」と頷いた。
「今年も気合いの入った友チョコ選ぶから」
「私も」
「そんで期間限定チョコメニューのヌン活な」
「それ」
クスクス笑いながらチラッと尊さんを見ると、綾子さんと仲のいい女性社員も集まって、彼の周りに輪ができていた。
気になるけれど、そっちばかり見ていたら「部長を気にしてる?」と思われてしまうから、努めて無視だ。
ちょっと前まで『部長なんて大嫌い』と公言していたのに、急に気にし出すなんてキャラ変はできない。
尊さんも必要最低限しか話しかけてこないし、私もできるだけツンツン対応している。
――本当は付き合っているのに、会社では嫌いなふりをしなきゃいけないって、何なんだろう?
あまりに謎すぎて、考えていると宇宙猫みたいな顔になってしまう。
そんなふうに過ごしながら、水、木曜日とバタバタするうちにすぐ金曜日になった。
その頃には母に【週末、実家に行く】と伝えていて、吉祥寺の実家に泊まる予定でいた。
それを、母から聞いたんだろうか。
「……げ」
メッセージアプリを開くと、亮平から連絡が入っていた。
【週末に家に帰るなら、ついでに迎えに行く】
亮平は港区の湾岸にあるタワマンに住んでいる。
彼はもともとゲーム好きで、ゲーム好きなら必ず知っている大手ゲーム会社に勤務し、独立したあとフリーのエンジニアになって、そこそこ稼いでいるらしい。
おまけに車はフォルクスワーゲンのティグアンだ。生意気な。
私の住まいは西日暮里で、車で迎えに来るのに二十分は掛かるのに、湾岸からわざわざ来るとか……。
というか、亮平の住まいは尊さんと物凄く近い。変わってほしいほどだ。
……というのは置いておいて。
「はぁ……」
自宅にいた私は、ベッドの上でゴロゴロしながらスマホを睨む。
亮平の事を考えるとイライラする。
ギリギリ害にならない程度で接近してくるのが、ムカつく理由の大半を占める。
そんな奴がちょっとリッチな生活をしていると思うと、さらにムカつく。
コメント
2件
亮平もけっこうなハイスペなのにね……💦 継妹への複雑な感情をこじらせて、残念な人になっちゃってるけど....😰
トッキー&アヤリンより、厄介な人が出てきた… 何かしでかしそう…😖