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💚side
翔太とサシで飲むのは初めてだし、お互いにそんなにお酒は強くないから気をつけようと思っていたのに、飲み始めたらやっぱり楽しくて思いの外酔っ払ってしまった。こんな状態で大切な話をするのは良くないと思い、少し残念な気持ちで翔太を家に送ろうと声を掛ける。
💚「翔太、大丈夫?立てる?」
会計を済ませて、肩を叩くと、翔太は顔を上げた。肌の見える首から上は真っ赤になっていて、ニコニコしている。泣き上戸とかじゃなくて良かった、と思った途端、その心の声を聞いたかのように急にさめざめと泣き始めた。
💙「う、うっ………」
💚「え?翔太、どうした?何?えっ?」
💙「阿部ちゃんち行く」
💚「え?俺んち?」
あとは泣き出して、話にならない。
こんな翔太を見るのは初めてだったから、翔太がもともと被って来ていたキャップのつばを前に思い切り引いて、華奢な翔太を抱えるようにしてタクシーに乗り込んだ。
部屋に着くと、とりあえずソファに翔太を座らせ、冷たい水を汲み、グラスを持たせた。翔太は涙と鼻水とでぐちゃぐちゃになった顔を恥ずかしそうに背けて、水を飲んだ。ティッシュを渡して、頭を撫でてやる。何があったのかを聞くのは翔太が話してくれるまで待とうと決めていた。かつてのダンスレッスンの日のことをふと思い出した。
あれから一月くらいが経つ。
翔太の悩みがますます深くなっていないといいなと思って、肩を抱き寄せ、今度は背中を摩った。
💙「ごめ……阿部ちゃん」
途切れ途切れの言葉に耳を傾ける。顔は見られたくないだろうと、敢えて見ないようにした。いつもなら他人との過度の接触を嫌がる翔太も、今日はなぜか素直に俺に身を任せている。そんな場合ではないのに無関係にいやでも胸が高鳴った。
💚「悩みがあるなら俺でよければ聞くよ?話して」
💙「………ありがと」
礼は言ってくれたものの、何も話さない。翔太は唇を噛んだまま俯いていた。
💚「ちょっと待ってて。コーヒーでも淹れる」
立ち上がろうとすると、服の裾を掴まれた。ソファに戻り、涙で濡れた翔太の顔を思わず見る。
💚「どうした?」
なるべく優しい声で話し掛けるように心掛ける。俺が、味方だと伝わるように。しかし、翔太から意図とは真逆の反応が返ってきた。
💙「優しくしないで」
💚「え?」
💙「そういうつもりがないなら、俺に優しくしないで」
翔太はそう言うと、いきなり抱きついて来た。
💚「ちょっと!まだ酔っ払ってるの?」
思わず肩を掴み、引き離す。
それを拒否と取ったのか、翔太の目に再び涙が溢れた。しまった、と思った時にはもう遅い。
翔太は、ふらつきながらも立ち上がると、自分の荷物を乱暴に掴み、止めるのも聞かずに部屋を飛び出して行こうとした。
慌てて追いかけ、玄関で捕まえる。
💙「……って!!!」
腕を掴む力が強すぎたようで、痛みに顔を歪ませた。足元は裸足だ。我慢できずに、そのまま玄関ドアに翔太を押しつけるような格好になって、衝動的にキスをした。
翔太の目が見開かれる。
上目遣いに俺を見た。
💙「阿部ちゃん?」
💚「順序が後先になってごめん………翔太のことが好きだ」
また、翔太が泣いた。
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