テラーノベル
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その日、なぜか朝一番から俺の院内PHSは鳴りっぱなしだった。
「山中さん! 小児科の外来がパンクしそう、今すぐ来て!」
「山中さん! 整形外科の処置室、ギプス固定の介助入って!」
「柔太朗くん! 救急から採血のヘルプ!」
広大な院内を、東館から西館へ、エレベーターを待つ時間すら惜しくて非常階段を二段飛ばしで駆け上がる。
小児科で泣き叫ぶ子どもをあやしながら素早く採血を済ませたと思ったら、そのまま救命救急センターへダッシュして緊急処置のルート確保。
ゼァゼァと肩で息を吐く暇もなく、次は激混みの整形外科でギプス固定の介助をこなし、合間には内科病棟からの処置の相談に応じる。
「山中さん! こっちの心電図モニター確認お願い!」
「山中くん! 採血のラベル出力お願いできる!?」
「っ、はい! 今行きます!」
水分補給すらできず、カルテの入力は移動中にタブレットで済ませる怒涛のノンストップ稼働。
足の裏は熱を帯び、ナースシューズの中がじんじんと痛むほど駆け回り続け、気づけば外の陽はすっかり傾いていた。
広大な院内を西へ東へ走り回り、階段をダッシュで駆け上がり、気づけば時計の針は夕方五時を回っている。
「……はぁ、さすがに足が限界……」
肩を落とし、自分でも分かるほど疲れ切った足取りで総合診療科の重い扉をガラガラと開けた。
まさに超ドッタンバッタンな一日を走り抜けて、ようやく戻って来れた。
扉が開く音と同時に、診察室の中にいた四人の視線がいっせいに俺へと注がれる。
「あ! 柔太朗! お疲れ!」
真っ先にバッと顔を上げて大声を出したのははやちゃんだった。
白衣の袖を捲り上げたまま、破顔一笑で俺を迎えてくれた。
「柔、お帰りっ! 今日めちゃくちゃあっちこっち呼ばれてたやんな!?」
舜太が駆け寄ってきて、心底ねぎらうような笑顔を見せる。癒し。
「ほんとお疲れ様やでー柔ちゃん! 院内走り回っとるの何回も見かけたわ!」
太ちゃんがニカッと笑いながら、すでに用意されていた椅子を引いてくれた。
“すでに用意されていた”←ここ重要。
さらに隣のデスクでは、じんちゃんがキーボードを叩く手を止め、目を優しく緩める。
「お疲れ様、柔太朗。他の科の師長さんたちから『山中くんの手際が良すぎて助かった』ってめちゃくちゃ感謝の連絡きてたよ」
「みんな……ただいま……」
俺は言われるがまま椅子に深く腰掛け、背もたれに体重を預ける。
体中の力が抜けていくような心地よさの中で、ふっと目の前に温かい湯気が立ち上る湯呑みが差し出された。
「はい、柔太朗。温かいお茶入ったよ」
そう言って湯呑みを置いてくれたのははやちゃんだった。
「俺、お菓子も用意したで〜! ほら、甘いもん食べて元だし!」
「俺もこれ、売店で買ったクッキーあげるよ!」
太ちゃんと舜太がお皿に広げたスイーツを前に、なぜかはやちゃんが嬉しそうにテーブルを囲む。
俺は温かい湯呑みを両手で包み込み、ゆっくりと一口すすった。
じんわりと身体の隅々にまで染み渡るお茶の温もりが、一日中走り回った足の痛みも疲労も、全部優しく溶かしていく。
「……ふぅ。美味しい……」
「だろ〜? 仁人も淹れたお茶、美味しいって言ってるしね」
「いや、言ってない言ってない」
「はいはい二人とも〜、柔太朗が癒やされてるんだから静かに〜!」
「お前は一体誰目線なんだよ」
賑やかに笑い合う四人の声を背景に、俺はもう一度お茶を口に含み、ふっと目元を柔らかくほころばせた。
朝からずっとドッタンバッタンで、息つく暇もない大変な一日だった。
けれど、こうやって帰ってこられる温かい場所と、自分を待っていてくれる仲間がいる。
「今日は疲れたけど……すっごくいい一日だったな」
「ん?柔太朗なんか言った?」
「んーん。なんにも」
窓の外には、やわらかな夕焼け空が広がっていた。
コメント
1件
うわあ、柔太朗ほんとお疲れさま……!朝からずっと院内フル稼働で、階段ダッシュとか見てるだけでこっちまで息切れしそうだったよ😢 でも最後に四人が「おかえり」ってあったかいお茶とお菓子で迎えてくれるシーン、じーんときた……「ただいま」って言える場所があるの、尊すぎる。忙しかったけどいい一日って思えるの、仲間のおかげだね。夕焼け空もすごくきれいだった🌇
びび
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#山中柔太朗
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