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今日も、和樹あいつは花街へ繰り出す。
「じゃあ、朝には戻ってるから」
「ああ、わかってる……」
あいつはそう告げながら玄関の扉を開けた。隙間から入り込む冷たい風が髪を撫でる、上がりかけていた頬の熱が醒めていく。一歩外へ踏み出せば、和樹は見送るおれを振り返りもしない。
何も言えず佇むおれの前で、木製のドアが軋んだ音を立てて閉まった。
「わかってるよ……」
無意識にドアに伸ばしかけていた右手を握りしめて、ゆっくりと降ろす。引き止める理由もなければ、言葉も無いのに。
「わかってる」
ふたつ並んだベッドの片方、ジャンケンで奪いとった窓際に腰掛ける。すっかり陽が落ちた外を眺めようとしても、窓に映るのは不安げな表情を浮かべる犬獣人の女の子だけで。
何もすることがなくて、ベッドに横になる。夜風が窓を叩いて揺らした。それが少し怖くて、隣のベッドに視線を向ける。
今日も、和樹あいつはそこに居ない。
おれと和樹かずきは、少し前までは地球の日本と呼ばれる場所で普通の高校生をしていた。
あの女の子が可愛いなんて馬鹿な話をしたり、新作のゲームを徹夜で買いに走ったり。小学校からの腐れ縁で、一緒に居るのが当たり前になっていたんだと思う。何事も無く高校を卒業して、適当なアルバイトなんかしながら大学に通って……おれ達はそんな普通の人生を歩むと思ってた。
高校3年の休みの日だった。渓流釣りに行った先で突然の濃霧に巻き込まれた。どれだけ歩いたかわからなくなった頃、おれはひとりで見知らぬ森の中に佇んでいた。
それも、今みたいな女の子の……犬獣人の姿になって。
そこからの人生は正に激動だった。
元からそんなに力は無かったけど、この女の子の身体は男だった時よりずっとか弱くて。必死の思いで森のなかを闊歩する化け物たちから逃げまわり、運良く人里に辿り着いた頃にはもうボロボロになっていた。
そこで身寄りのないおれは、何を思ったのかゲームみたいに冒険者なんてやろうとあちこち動きまわって……最終的には商人に騙されて、奴隷として売り飛ばされた。奴隷だった頃は正直、もう思い出したくない。ただアレ以上に最悪な時間はちょっと想像出来ないくらいに酷い場所だった。
逆らえば鞭が飛んでくる、人間としての尊厳を徹底的に貶められる。
地獄の中で感情が死んでいくのを感じながら、永久にここから出れないのだと絶望していた。
そんな中、おれを助けだしてくれたのは和樹だった。
客見せ用の比較的綺麗な貫頭衣を着せられて、並べられたおれたちの前にあいつが現れた時は何の冗談かと思った。しかも登録してからたった1月で一人前と言われるCランクになった、新進気鋭の若手冒険者なんて肩書を引っさげていたのだから。
片や女になって奴隷行き、方や冒険者として成果を残している。
いくらなんでも不公平で、今の自分があまりにみじめで。こんな姿を見られたくなくて、俯いて黙っていたのに。よりにもよって、あいつはおれを選んだ。
おれの顔はお世辞抜きでも見た目が良いらしい。だから決して安くない買い物なのに、まるで当たり前のようにおれを地獄から救い上げてくれた。「一目でわかった」なんてふざけたことを言いながら。
最初はおれだって全然気付かずに、スケベな目で尻尾や胸元を見てたくせに。おれが正体をばらした瞬間、顎が外れそうになってたくせに。スケベな目的で奴隷商に来て、貯金の大半まで使ってアテを外したくせに。
なのに、「最初からそのつもりだったんだよ」なんて嘯くあいつが……なんでだろう、凄くカッコ良く見えたっけ。
「朝だぞー、起きろー!」
「うー、頭いてぇ……」
ここ暫くは目を覚ますと、あいつはいつも酔って寝ている。まだ19のくせに、こっちじゃ認められてるからって遊びに行く度に酒の匂いをさせて帰って来る。おれの仕事は外の井戸から水を汲んで来て、朝ごはんの用意をしてから和樹を起こすこと。地球とは違って電気はもちろん、水道やガスも通ってないので結構な労働だ。
「飲み過ぎなんだよ、ったく」
「いやー、駆け出しのころ世話になってたおっさんに誘われたからさぁ」
頭を押さえながら水を飲む和樹を見ながら、買い置きしておいたパンと、作っておいた野菜スープを並べる。和樹の稼ぎは同年代と比べても凄く良いけど、額として突き抜けているほどじゃない。おれを買ったせいで貯金もないから、あまり贅沢は出来ない。
「今日は仕事だろ、ちゃんとアルコール抜いとけよ」
「あー……飯食ったら井戸で頭洗って来るわ」
おれが和樹に買われてからもう半年が過ぎた。最初こそ”親友同士”から”主と奴隷”なんて奇妙な関係に変わってお互いぎくしゃくしていたものの、慣れてくれば普段通りだ。
「ほら、タオル」
「お、サンキュ」
和樹が夜遊びを覚えたのはもう2月近く前のこと。切っ掛けは駆け出しのとき世話になっていた先輩に誘われて花街へ出かけたことらしい。
若い男の悲しい性か、ガキの頃からエロスに貪欲だった和樹はあっさりと遊女に嵌まり、小遣いで頻繁に通うようになった。
タオルを渡しに近づくと、酒の匂いに混ざった香水と化粧の香りが鼻をつく。荒くれ男が集まる冒険者の街では珍しくもない、花街の娼婦の匂い。嗅ぐたびに、胸の中がざわつく匂い。
男のまま人生を楽しんでいる和樹が羨ましくて、嫉妬があった。おれはもう普通に恋愛なんて出来ないのに、彼女なんて居たこともなかったのに。夜の街で遊びを覚えて出歩く和樹を恨んで妬んだ。
今では助けられて、面倒まで見てもらってる身の上で随分な話だったと思う。同じ男として気持ちは解った。この狭い部屋だとひとりで処理するなんて出来ないし。おれも横でそんなのされたら、正直困る。
生活費とは別の自分の小遣いで通っているんだから、おれが文句を言う理由はない。おれを買い取ってから更に実力をつけた和樹は稼ぎも少しずつ良くなっている。身を持ち崩すような遊び方はしてないから、問題ない。
「ちょっと行ってくるわ」
「おう、弁当準備しとくから……」
問題はないはずなのに。
あいつが纏う知らない人間の残り香を嗅ぐ度に、胸のざわつきがどんどん大きくなっていく。最初はチリつくような程度だったのに、ここのところまったく感情が制御出来なくなってきている。
気付けば、野菜に向かって乱暴に包丁を振り下ろしていた。やっぱり変だ。イライラが治まらない。
まるで自分が自分じゃなくなっていくみたいで、怖かった。
仕事に行く和樹に簡単に作ったサンドイッチを弁当代わりに持たせた後、首輪に外出用のタグを付けておれも部屋を出る。扉に鍵をかけて、木造の廊下を鳴らしてアパートを後にした。目的地は市場、住んでいる冒険者用のアパートを出て数分も歩けばたどり着く。
飼っている奴隷に近所で買い物をさせるのは珍しくもないので、登録タグさえ付けていれば絡まれる心配は少ない。……なんか、ほんとのペットみたいで複雑だけど。
「おっちゃん、そっちのトマトとニンジンを一包みずつ」
「あいよ、アオイちゃんは今日もお使いかい?」
安心して買える、顔見知りの野菜売りや肉売りで食材を集める。奴隷の身の上だと、珍しいからといって見知らぬ物売りのところへ行けば、どんな物言いを付けられるかわからない。これは自衛のためにも必要なことだった。
「そうだよ」
「そっか、ご主人さまによろしくな」
「……うん」
こんな何気ない会話でも、自分の立場を思い知らされる。和樹がおれを連れ歩いてくれたから、このへんは比較的安全に出歩ける。この人達の評価も、和樹が冒険者として、依頼をこなしてきて築き上げたものだ。今のおれは全部あいつにおんぶに抱っこ。
おれだってすぐに働けるようになって、購入代金に利子つけて返して……。
最初の頃はそんな風に考えていたのに、3ヶ月を過ぎても任された家事を熟すので精一杯だった。半年経った今、ようやくまともに家事を回せるようにはなったけど、それだけだ。
和樹に冒険者ギルドの教習を受けさせてもらっても、才能がないと言われた。いくら鍛えても筋肉が付かない。ガリガリだった奴隷時代と比べればマシだけど、背は伸びず腰回りや胸回りに無駄な肉が付いただけ。救いは胸が大きくなった訳じゃないことくらいだった。
このまま、この先、おれは一体どうなるんだろう。
荷物と一緒に漠然とした不安を抱えたまま歩く帰り道、視界の端に嫌なものが入った。
「では確かに、お引き受けいたします」
「ああ、また頼むぜ」
奴隷館の前で、冒険者が不要な奴隷を引き払っている。売り払われた亜人の少女は震えながら、それでも逆らえずに小間使いに連れられて奥へ……地獄へと消えていく。
不要な奴隷を引き払う、それはおかしいことでも何でもない。この世界では人間以外の種族はモノ扱いされている。それは地獄で嫌というほど思い知らされた。だから、亜人奴隷はみんな買われた先で主人に尽くそうとする。あの場所にだけは、戻りたくないから。
見ていられなくて、足早にその場を立ち去る。
何事も無く家に辿り着いて、食材を貯蔵庫にしまいこむ。
おれは助けてもらってから、和樹に対して何か返せたかな……。
不意に頭をよぎった自問自答。だけどいくら考えても、出来たことが思いつかない。不安が募っていく。
「ただいま」
「おかえり」
日が落ちる少し前に和樹が帰宅した。僅かな血と泥の匂いが漂ってくる。夕食の準備を止めて和樹を出迎える……匂いは返り血みたいで、和樹自体はピンピンしているようだった。
良かった……。
「晩飯、すぐ出来るから」
「ああ、食ったら風呂屋行こうぜ」
「おう」
話をしながら準備していたシチューと肉と野菜の焼き物を並べていく。風呂屋と言ってもこの街にある大衆浴場はサウナに近い。それでも汗も汚れも流せるからありがたいけど、たまにはたっぷりのお湯に浸かりたくなったりもする。ここにも和樹の好意でほぼ毎日行かせてもらえていた。
……ほんと、おんぶに抱っこだなぁ。
考えなおすたび、世話になりっぱなしの自分が情けなくなっていく。今日は何だか、自分でもおかしい気がする。
風呂屋から帰って来ると、和樹はそわそわしながら自分の荷物入れから菓子を取り出した。
きっと、お気に入りの子にあげる土産なんだろう。……ああ、駄目だ。今日はいつになく胸がざわつく。
「アオイ、俺ちょっと出掛けてくるから……」
「…………」
「アオイ?」
返事が出来ないおれを不審に思ったのか、和樹が振り返る。いつもどおり、いってらっしゃいって言えばいいだけなのに。言葉が出てこない。
「前から、思ってたんだけどさ」
「お、おう……」
「最近どんどん通う間隔短くなってるよな」
「いやそりゃ、男の子です、し……」
いつか和樹に身請けしたいくらい気に入った娼婦が出来たら、おれは邪魔になる。……そしたらおれ、捨てられるんじゃないか。そんな不安が溢れだして止まらない。
「いくら小遣いの範囲って言ったって、安くはねーだろ」
「まあ、確かに」
「そんなペースで通ってたら、すぐに金なくなるんじゃねーか?」
「……稼ぎも増やしてるから大丈夫だろ」
「だからって、その分使ってたらキリがねーじゃん」
「で、でもな」
歯切れの悪い、不満そうな和樹に無性に腹が立つ。そんなに娼婦がいいのかよ、よそで女と遊ぶのが楽しいのかよ。おれの気持ちも知らないで、何も出来ないまま家で待つ寂しさも知らないで!
なんで、なんで……!
「おれじゃだめなのかよ!!」
勢いに任せて吐き出した言葉に、真っ先におれが混乱した。一体何を言ってんだ。これじゃまるで……。
「……え?」
「あ、や、ち、違っ! 娼館で金使うくらいなら! おれで……いや、それでもなくて!」
頭が混乱して、自分でも何言ってるのかわからない。あれ、おれ何が言いたかったんだっけ?
「アオイお前……意味解って言ってるか?」
「あ、あたりめーだろ! 馬鹿にすんな!」
意味わかってるから動揺してんだよ馬鹿!
「…………」
「きゅ、急にだまるなよ……」
反射的に返した答えを聞いた和樹は、なんでか途端に静まり返る。せめて、茶化すなり拒否るなりしてくれよ。なんだか酷く居心地が悪い。
「本当に、いいのか?」
「――え」
近づいてきた和樹が、おれの手を取る。状況の変化に頭がついていけない。心臓の音がやけに大きく聞こえる。
「暫くぶりにあったら、なんか可愛くなっててさ」
「かず、き……?」
「女になったなんて言われて、最初はうわぁ……なんて思ってたよ、正直な」
「……っ」
言われて当たり前の言葉、当然の感想になぜか、胸の奥がちくりと痛んだ。
「だけど半年も一緒に暮らしてるとさ、どう頑張っても意識しちまうんだよ。特に今のお前の見た目、モロに俺の好みなんだから」
「な、何、言ってんだよ……」
「しかもお前、なんなんだよ、無防備すぎだろ。パンツなんかしょっちゅうちらちら見えるし」
「なっ」
咄嗟に服の裾を掴んで抑える。なんで、なんで和樹にパンツ見られてたってだけなのに、恥ずかしいんだ?
「風呂あがりなんか襟元めくって仰いだりしてたり、胸が見えることも頻繁だし……なんなんだよ」
「わ、わかんねーよ! お前こそなんなんだよ! へんたい!」
捕まった手が、びくともしない。わかってはいたけど、圧倒的な力の差を目の当たりにして愕然とする。
「……意味わかってて、言ったんだよな?」
「……これ、も、奴隷の仕事、だろ」
止めるには、ここが最後のチャンスで。止めるってことはつまり、おれの居場所がなくなるってことで。
「途中で止めるって言っても、たぶん聞く余裕ないぞ?」
「元男なんて、気持ち悪いやつで良ければ、好きにしろよ」
「…………」
自暴自棄な気持ちで告げた言葉に返事はなくて、腕を引かれるようにベッドに押し倒される。仰向けで抑え込まれると、腕がピクリとも動かない。
「脱がすぞ」
逐一了承なんて取ってんじゃねーよ。
そっぽを向いたおれを暫く見ていたらしい和樹が、その手を服の裾にかけた。シンプルなワンピースはあっさりとめくられて、色気の無い白い下着と凹凸のない身体が露わになっていく。
灯り、消して貰えばよかった。なんかすげぇ恥ずかしい。
「……」
頭からするりとワンピースが脱げていく、和樹が喉を鳴らしながら、俺の身体を見下ろしていた。胸や腰回りにまとわりつく視線が熱い。
「あ、あんま、じろじろ見るんじゃねーよ……」
思わず胸を手で隠しながら抗議する。わけわかんねー、なんでこんな恥ずかしいんだ? たかが裸なのに。
「お、おう……アオイ、ほんと肌綺麗だな」
「はっ、はぁ!?」
そんなの褒められたって嬉しくもなんともない。そのはずなのに、心臓がとくんと跳ねた。今日のおれは絶対おかしい。
「お前、ほんとうに女になっちまったんだなぁ」
「っ……!」
突きつけられるしみじみとした感想に、残っているプライドが引き裂かれそうになる。けれど傷つくような男のプライドが残っている事に少しだけ安心もした。
「ひゃっ」
和樹の指がおれの身体に触れる。口から奇妙な甲高い、まるで女みたいな悲鳴が漏れた。
「か、かずき?」
「…………」
ランプの灯りを背負った和樹の顔が逆光で見えにくい、どんな表情をしているのかわからなくて怖い。無言のまま、指先がおれの身体を撫でていく。胸の周り、わきばら、臍の周り。耐え難いくすぐったさに、漏れそうになる高い声が恥ずかしくて口を手で塞ぐ。
「っ……んっ……ふぁ」
大きな、ちょっとごつごつした手が次第に力強く肌を揉み、まさぐりはじめる。指が太ももを触り、股の付根の肉の皺をなぞる。
「かず、きっ……くすぐった……ひゃぅ!?」
耐え切れず抗議しようとした時、太い指がするりと唯一履いているパンツの中に潜り込んできた。
「毛、生えてないんだな」
「う、うるせぇ!」
何もない、つるつるの丘になってしまった場所を撫でながら呟いた言葉に顔から火が出そうになる。おれだって、好きでこんな子供みたいな身体になったわけじゃない。
――くちゅり
指が更に奥に進むと強い気持ちよさを感じた、同時に耳に粘着質な音が届く。
「――お?」
「…………え」
一瞬和樹の手が止まり、もう一度動き始める。
――くちゅ、くちゅ
「あっ、ひゃぅんっ」
パンツの布が手の形に盛り上がり、何かを撫で混ぜるような動きをするたびに水音がする。
な、何? どういう。
「濡れてる?」
「っ……!?」
「……最近なんか落ち着いてないみたいだったけど、獣人だし……まさか発情期とか?」
「はっ、はあっ!?」
濡れてる、感じてる証拠。そんな言葉が頭のなかをよぎって、羞恥で顔から火を吹きそうになる。そんな風にわたわたしていると、和樹がとんでもない事を言い出した。
発情期? おれが!?
「ふ、ふざけんな、なんで! おれが! 発情期になんか!?」
「いや、わかんないけどさ、どうなんだよ」
ど、どうって。奴隷時代に一度聞いた事があった発情期の話を思い出してみる。……獣人は発情期といっても別にエロいことがしたくなる訳じゃないんだっけ。
ただ凄く恋しやすくて、人肌恋しくなる。パートナーが居るなら、傍に居ないと不安になる。パートナーの匂いを嗅ぐと、普段より落ち着く。この時期にパートナーとえっちをすると、癖になるほど……い、いやここはどうでもいい。
――くちゅ、くちゅ
「わ、わかんねーよ、おれにも……んぅっ……と、とりあえず、手動かすの、やめろよ」
「……いや、なんか触り心地いいから」
くちゅりと音をさせながら股間を弄られてると、なんか変な気分になってくる。
「取り敢えず、脱がすか……うわ」
「な、なんだよ!?」
当たり前のように脱がそうと、おれのパンツを降ろした和樹が楽しそうな声をあげた。
「やっぱ発情期だろアオイ、糸引いてるじゃん……うっわ、エロ……」
「~~~い、いっぺん死ね!」
太ももまでずり降ろされたシンプルな白いパンツの股布がぐっしょり濡れているのが見えた。和樹は人差し指と中指を親指を合わせて、まとわりつく透明な粘液を伸ばしている。
一瞬で、羞恥が限界を振り切った。
「おっと、あぶね」
顔面を狙った蹴りは太ももを抑えるパンツに邪魔されて思うように動かず、あっさりと片手で掴み取られた。そのままパンツを脚から脱がされ、片方の足首に引っ掛けられる。……どういう趣味だよ。
「…………改めて見ると、やばいな」
「な、何が!? いいから足放せ!」
力の差が大きすぎてどうしようもない、両足を押さえられて強制的に脚を開かされる。うぅ、スースーする。
「前々から思ってたけど、お前体つきスケベすぎだろ」
「意味わかんねー言いがかりつけんな! スケベはてめぇだ! 和樹の変態!」
う、ぐ、だめだ、びくともしねえ。どんな力してんだよチートかこの野郎!
「ちびっこ幼児体型のくせになんだよこのむっちりした腰回りは、まんこもぷにぷにで柔らかいし……」
「しゃべんな変態!」
くそ、脚さえ動けばニヤニヤした顔に蹴りいれてやるのに! この変態野郎のエロ魔人が!
「ほんと、綺麗なまんこしてるな…………」
いきなり無言になった和樹が、おれの両足を抱えるように固定しながら顔を股間に近づけてくる。何する気だよ、いや、マジで何する気なんだよこいつ。
「ちょ、和樹!? 何して……んひゃぅ!?」
和樹が口をおれの股間に押し付けるなり、生暖かくぬめっとしたものが這った。ピッタリ閉じたひだを丁寧に舐めるそれが、包皮につつまれたままの陰核を強く圧す。思わず出た声は、また女みたいな……。
「か、かずき! やめっ、そこ、やめ……!」
返事の代わりに舌が這いまわる。舐められてる感覚が、だんだんくすぐったいものから気持ち良いものへと変わってくる。入り口を舐めまわし、時折舌先や舌の腹で陰核をいじめてくる。
「あっ、ひゃぅっ……やめ、やだっ、かずきっ、やだぁ!」
身体が熱くなってくる、なぜか嫌悪感より羞恥心や快感の方が大きくて。和樹に啜るような音を立てて陰核を吸われると、腰がふわふわするような気持ちよさがお腹の奥をきゅんとさせた。両手で握ったシーツを自分の方へ引っ張る。何かに捕まっていないと飛んでいってしまいそうで。かといって和樹に縋るのもなんだか抵抗があって。
「やっ、あああぁぁ……!」
腰が勝手に動く、陰核を舌で刺激されるたびにお腹の奥で熱いものが膨れ上がっていくようで。太ももがびくりと跳ねる。尻尾がシーツを弾く。
「だめ、ぇ……や、め……ひゃ、きゅぅうん♥」
舌が、陰核を包んでいた皮をずらして直に捏ね回してくる。強すぎる刺激に目の前で白い火花みたいなものが飛び散る。お腹の奥が、切なく疼く。
「なんか、なんか、くるぅ……やだ、やめ、かず、きぃ……おね、が……やえ……」
下半身に力が入る。なんだかはじけ飛んでしまいそうな感覚に、足の指を丸めて耐える。射精の時に近いような、そうでもないような。不思議な感覚。
「きゅ、ぅぅぅぅぅん♥♥」
お腹の奥底で渦巻いていたそれがとつぜんはじけた。腰が激しく跳ね上がり痙攣する。同時に身体中から力が抜けていく。
ぜんぜん、ちがう。一気に飛び出すような快感とはちがって、熱が全身に拡がって行く。目の前がちかちかして、熱が抜けない。むしろ余計昂っている気がする。
「あっ、あ……あう、ぅ♥」
口を離した和樹と目が合った。心臓の鼓動が早まる。なんで、おれ、こんなにドキドキしてるんだろう。
「かず、き……」
余裕が無さそうな和樹が、ズボンを脱いで大きく勃起したちんこを露出させる。こいつ、あんなでかかったのか……。自分の記憶にあるサイズとは明らかに違う、大人の大きさ。僅かに残っていたプライドみたいなものが、ミシミシと音を立てる。
「アオイ、いいよな……?」
おれを求める和樹に何故か胸が高鳴る。緊張と恐怖で震えるくらいなのに……嫌だっていう言葉は、出てこなかった。
枕を腰の下に置かれたせいで、おれは足を広げて下半身を強調するような体勢になっていた。正直恥ずかしい。かといってこうしないと体格的に無理なので、我慢するしかない。
……あれ、なんで我慢しなくちゃいけないんだっけ。
「アオイ、入れるぞ」
「う、うん……」
入り口に、和樹のちんこが押し当てられる。太い、大丈夫なのかほんとに。なんか入れたらブチブチと裂けそうで怖い。
「くっ……きっつ」
「っう、くぅぅ!」
おれの手をベッドに押さえ込んだ和樹が、ゆっくりと腰を進める。何となく慣れている感じがするのが、酷く複雑だった。無理矢理押し広げられるような感覚とともに、鈍い痛みが走る。血の匂いが混じった。
視線を落とすと、結合部から赤い一筋の血が流れ出ていた。
……なんとも言えない感情が胸を満たす。嫌……とかじゃなくて、嬉しいというわけでもなくて、寂しいということでもない。上手く表現できない。ただ漠然と諦めることができたような、安心したようなよくわからない感情。
「大丈夫か?」
「……う、ん」
不思議とあまり痛くはなかった。痛みはあったし血は出ているけど、意識しなければ我慢できるくらいのもので。少しばかり拍子抜けする。地球でエロ漫画とかを見ていた時は、初めては痛いものだって思っていたのに。
おれが平気そうにしていることを確認したからか。覆いかぶさる和樹がゆっくりと腰を動かしはじめる。
「我慢できなさそうなら、言えよ」
「…………」
横を向きながら無言で頷いて返す。自分でも驚くくらい平気だった。ちょっと苦しいくらいで気持よくもないけど。
でも……良かった、セックスなんて全然大したことないじゃんか。
ゆっくりと、気遣うように身体を動かす和樹をぼんやりと横目で見る。どうなってしまうのか不安で仕方なかったけど、蓋をあければただちょっと痛くてきついだけ。これならちょっとのあいだ横になって我慢すれば済む。
自分の大事な部分が壊れるんじゃないかって、漠然とした恐怖に襲われてたのが馬鹿みたいだ。おれもなんだかんだでエロ漫画とかの影響を受けていたのかもしれない。和樹のこと笑えないな……。
――こつんっ
「きゅっうぅぅん♥」
「……お?」
とつぜん可愛らしい女の子のような、甘える子犬のような鳴き声が部屋に響いた。
………………は? え、なに、いまの声。和樹のちんこがどんどん奥に入ってきて、ちょっと苦しいの我慢してたら。なんかこつんって感触があって、それで。
「な、なに、いま……ひゃぅぅん♥♥」
「…………」
困惑するおれをよそに、軽く腰を引いた和樹がまたちんこを押し込んでくる。先端がお腹の奥の、壁みたいな部分を押すと自分でもびっくりするくらい甘い声が漏れた。さっきの声、おれのだったの?
なんか、頭がぼーっとして、お腹の深いところがジンジンとしびれたように疼く。
なんだこれ、なんだよ、これ。
「アオイ、お前……まさか」
「な、なに? かずき、おれに、なにした……んだよぉ」
驚いた顔をする和樹を睨もうとするものの、なんか変だ。こいつ、こんなにカッコ良かったっけ? 確かに顔立ちは整ってたけど、こんなにかっこ良くなかったような。
「ふぁっ♥ く、くぅぅぅん♥」
「うわぁ、マジかよ」
体重をかけて、奥をぐりぐりとされる。手で口を抑えても、声が止まらない。暖かくて幸せな気持ちがじんわりと広がってくる。わけわかんねー、おれの身体いったいどうしちゃったんだよ。
「アオイ、まさか初めてなのにポルチオで感じてるのか?」
「ぽ、ぽる……?」
「子宮の入り口の所だよ」
「し、しきゅ……!?」
え、なんだよそれ。おれ、さっきからそんな所小突かれてたの? 普通もっと痛かったり苦しかったりするんじゃ……。
「その見た目で性感帯が子宮とか、エロすぎだろお前」
「わ、わけわかんな……ひゃぃぅぅ♥」
ま、待って、そこやだ、そこ、ぐりぐりしないで。頭がぼんやりして、足の先が痙攣したみたいに震える。耳がぴくぴくと動いて、尻尾が左右に動いてしまう。自分の意思とは裏腹に身体が勝手に反応するのが、怖い。
「か、かじゅき、や、だ、おれ、そこ、やだぁ……♥」
「そんなトロけた顔で言われてもなぁ……」
全身から汗が噴き出す。なんだか五感も鋭くなってきていた。全身を血が巡る音がハッキリと聞こえて、ふたり分の心音が耳を打つ。部屋に満ちる男と女の匂いに混じった和樹の香りをはっきりと感じる。
……え?
「ひぅ、や、やだぁ……かじゅき、おねが、とまって、おれ、だめ、やだ、それ……!」
「正直、俺的には結構もどかしいんだけど」
唐突な恐怖が襲ってくる。さっきから強く薫る、”女の匂い”の出処に気付いてしまったから。このまま行くとどうなるか、わかってしまった気がしたから。
「かじゅ、きっ、ほかのは、いいか、らっ! おねが、い、そこはっ、そこだけは、やめて……そ、それ以上、されたら……お、おれ」
「これ以上したら……?」
聞き返してくる和樹は小刻みな動きを止めようともしない。コツコツと入り口をノックされる度に、おれの中に未知の感覚が産まれてくる。知らずにいられればよかったのに、どうしてかこんな時だけ、おれは察しがいいみたいだった。
「……お、おれ、かずきのこと、すきに、なっちゃう……かずきの、女になりたく、なっちゃうから……だから、も、やめて……」
奥に、奥に、この身体になった時から無意識に閉じ込めていた、女の子の部分が無理矢理引きずり出されそうになっている。
絶望のなかで諦めてたおれを救い出してくれた。その後も役に立たないおれを置いて、面倒を見てくれた。友達だったから、それだけの理由で変わり果てたおれを気遣ってくれた。命がけで稼いだ金で、おれを守ってくれた。
おれが女だったら、好きにならずにいられる自信がない。
「そしたら、おれ、かずきのこと、独り占めしたくなっちゃう、から……、おれみたいな、中途半端な、男女おとこおんな、より……他の娘のほうが、いいから……!」
好きになったら、和樹が他の女と遊ぶのなんてきっと耐えられない。今までだって、ずっとイライラしてたくらいなのに。
和樹ならもっと可愛くて、良い女の子が見つかるはずだから。見た目だけのおれじゃ、ダメだから。
だから。
「おねがい、かずき、これ、以上は」
「……悪い、アオイ」
突然、和樹がピタリと動きを止めた。ようやく解ってくれたのかと安堵する。胸の奥で暴れる悲しい気持ちと寂しい気持ちをねじ伏せて安心する。これでいいんだ、これで。
「かずき、ありが……」
「俺、自分で思ってたよりずっと変態なのかもしんねぇ」
両腕を掴まれて、顔の横に押さえつけられる。和樹の顔がおれに近づいてきた。わずかな汗の匂い、和樹の匂いが近づいてきて心が落ち着く。
「は、え……んんっ」
和樹の唇が、おれの唇をふさいだ。突然のことに混乱していると、唇を割り開いて舌が入り込んでくる。
「んむっ、んぅ!?」
「っはあ……」
たっぷり数十秒かけて口の中をねぶったあと、和樹が口を離した。唇を銀色の糸が結ぶ。
「可愛すぎるんだよ……色々反則だろ」
「かず、き……?」
「あのな……こっちは2か月くらい前から、とっくにアオイのこと女として見てたんだよ……だから」
ギラギラとした視線が、おれを射抜いた。まるで肉食の獣に睨まれたみたいに、圧倒的な強者の気配に身体がすくんで動かなくなる。なのに、子宮だけが異常に熱い。
「アオイ……俺の女になれ」
「ぴゃ、ぅう!?♥」
強く、腰が打ち付けられた。とろけるような快感が、背筋から脳天へと突き抜ける。さっきまでの、試すように動いているのとは違う。本気でおれを堕とそうとしてるのがわかるような、力強い突き上げ。男の時とは全然違う快楽。熱いマグマをお腹の中から全身に流されているみたいだった。
これ、ずるいだろ。
身体じゃなくて、心が満たされる感じ。射精みたいに一気に来るんじゃなくて、じわじわと全身に広がっていく感じ。だんだん思考に白い靄がかかっていく。
「アオイっ……」
「やっ、あぁ♥ かずきっ、かじゅき、だめ、らめぇ♥」
頭の中身がどろどろに溶けたみたいに、何も考えられなくなる。和樹のものになりたい。子宮だけが異様に熱くて、おれのじゃない、おれの声が聞こえる。
「ふぁっ、あぅぅ♥」
大きな手が脇腹をなでて、親指が乳首に触れる。くすぐったかっただけのはずなのに、ビリっとした気持ちよさが背中を跳ねさせる。和樹に触れられた場所だけが熱い。
「だめっ、だめ! やだ、やだぁ!」
女の快楽を刻み込まれて、おれの中にある男の部分が白くふわふわした甘い感覚に食いつぶされていく。だめだ、このままじゃほんとに和樹を好きになる、戻れなくなる。わかっているのに、それが嫌じゃないおれがいる。
おれは元の男だった時に帰りたいはずなのに。このまま和樹のものになりたい、そんな気持ちが首をもたげはじめる。
「おね、がっ、やだぁ、おれ、おれ女の子になっちゃ……」
「なれよ、ちゃんと受け入れてやるから」
「やめ、て、よぉ……」
腰を打ち付けられるたび、和樹がおれを中から蹂躙する。こっちはもう限界なのに、人の気も知らないで。
「アオイ……アオイ!」
「かず、きぃ……♥」
目をそらしてたのに、知らないふりをしていたかったのに。そんなに必死に求められたら、おれ、もう。
「……ちゅー、して♥」
「んっ」
出た声は、自分で考えていたよりもずっと甘い声だった。間髪入れずに唇を塞がれる。舌が口の中に入り込んできて……今度はおれからも、舌を絡め合う。ぞくぞくとした快感が背中を這いまわる。尻尾が勝手に左右に動いた。
キスってこんなに気持ちよかったんだ……。
「ぷあっ♥ ん、ちゅ♥」
「はぁ、んく……」
静かな部屋の中で、聞こえるのはお互いの吐息と鼓動。それから舌を絡め唾液が混ざり合う音と、和樹のものがおれの中をかき回すいやらしい音だけ。
「アオイ、ごめん」
「ふぁっ!?♥」
口を離した和樹が耳元でささやく。くすぐったさと恥ずかしさで、悶えそうになる。
「もう限界、中に出していいか?」
「――!? だ、だめにきまって、ひんっ!? ぴゃぅ!! やっ、やだぁ♥」
ぬ、抜かないといけないのに!
強く抱きしめられて腰をガンガン振られて、気持ちよすぎて逃げ出せない。力づくで抑えこまれて、中出しされそうになってるのに。なんでか凄い興奮している自分がいる。尻尾が動きまわり、ぱふぱふとシーツを叩く音が聞こえる。
こうなるまでは想像もつかなかったけど、子宮が性感帯になるって思ったよりずっと厄介なことみたいだ。
和樹に女にされちゃってるのに、嬉しくて仕方ない。和樹の女になれるのが、幸せで仕方ない。
「アオイ……ッ!」
苦しそうな和樹の物が、今まででいちばん強く最奥まで押し込まれた。おれは脚で和樹の腰を挟みこむようにしながら、両腕で首元にすがりつく。力強い腕が痛いくらいに抱きしめてくれて、しっとりと汗で濡れた肌が密着する。
同時に、熱くてどろどろした物が流し込まれるのを感じる。
「んぁぁっ、くぅぅぅぅん♥」
下腹部から強烈な感覚がきた。まだ全然慣れない女の絶頂。まるで身体が風船のように飛んでいってしまいそうな、高いところから落ちるような不思議な感覚。
イっちゃった、初めてで、しかも一番奥に中出しされながら。
「はっ……はっ♥」
まだふわふわする。和樹の手がピクピク震える耳を揉むように頭を撫でてきた。
「しっぽ動いてる」
「うる、せぇ……」
誰のせいだと思ってんだ。お前に中出しされて、幸せで胸がいっぱいで。嬉しくてたまらないんだよバカやろー。
……あ、ダメだ。おれぜったいおかしくなってる。無意識に耳の後ろを和樹の首元に擦り付けていたのを止めて、睨みつける。
「せきにん、とれよな……」
「解ってるって」
まだ余韻が残ってるせいで、和樹が無駄にかっこ良く見えて仕方ない。落ち着くようないい匂いもするし、なんかもう頭がぐちゃぐちゃだ。
「……あれだけ出しておいて、まだ、おったててんのかよ」
入りっぱなしの異物が、ピクピク動くのを感じる。呆れたことにもう回復してきたらしい。
「仕方ないだろ、アオイがエロすぎなんだって」
「ふざけんな、変態すけべやろー……」
ぺちぺちと胸板を叩いても乾いた音が響くだけ。まったく効いている様子がなくて、がくりと肩を落とす。ほんと力がなくて泣けて来る。
「なあ」
「ん?」
抱きしめた手が背中を撫でる。尻尾の毛を指で梳かれるのがくすぐったくて気持ちいい。
「本当に、おれでよかったのかよ」
「今更だなぁ……」
呆れた声が耳を打った。そりゃそうだけど、気になるものは仕方ないんだよ。
「おれ、元男だぞ、言葉だってがさつだぞ……奴隷なのに生意気で、独占欲つよいんだぞ」
「ま、そう言われると属性が溢れんばかりだよなぁ」
正直、自分でもとんでも無い地雷だと思ってる。今更奴隷らしい振る舞いなんて出来ないし、いきなり女らしくなんてなれないし。
「安心しろ、知っての通り俺って結構な変態だからな……そういうのもひっくるめて、今のアオイが好きになっちゃったんだよ」
優しく重ねるように唇を塞がれる。柄にもなく視界が滲んだ。くそう、和樹のくせに。
「おれ、も……おれも、かずきのこと……すき♥」
自分の気持を口に出すだけなのに、頬が熱くなってきたせいで最後の方はささやくような声になった。
「……あー」
「ふゃあん!?♥」
なぜか顔を赤くした和樹が、また腰を動かし始めた。また口から甘い声が漏れる。イったばかりで敏感になってるせいか、さっきよりも気持ちいい。
「なんか、急に気恥ずかしくなってきた」
「おまっ、ごまかしかた、最悪だろ!? きゃぅん♥」
滅茶苦茶恥ずかしいのに、こんな誤魔化し方されるおれの気持ちにもなれよ馬鹿!
「アオイ、好きだ」
「――っ!」
おれの眼を見つめながら言う、和樹の真剣な声。胸の奥がきゅんっとうずいた。
「おれも、すき……だから、かずきのすきなだけ、していいから……」
懇願するように、言葉を返す。おれ、もうお前がいなくちゃダメになっちゃったみたいだ。受け入れられて嬉しくて、男だったプライドだとかそういうのが根っこから崩れかけてる。
「かずきの好きなこと、なんでも、ぜんぶ、うけいれるから……もう、他の雌おんなの匂い、つけないで……」
胸元にすがりつくように、ぐりぐりと耳を押し付ける。こうすると、おれの匂いがちょっとだけ和樹に混ざる。涙で滲んだ視界を上に向けると、おれを見下ろして唾を飲み込む和樹の顔が見えた。
「嬉しいけど……無理なことはちゃんと言えよ?」
「うん……」
どちらからともなく顔が近づいて、また唇が重なる。
名実ともに、おれが女になった日。おれたちはランプの灯りだけを頼りに、朝日が昇るまでお互いの身体を貪り合っていた。
もう1月も経つのかぁ……。
遠い目をしながら、おれは軽い後悔と共にはじめての日を思い出していた。今にして思えば、おれはなんであんな事を口走ったのか……本当に馬鹿だったと思う。
「うん、いい感じ」
「この変態ドスケベクソヤローが……」
ベッドの上に座ったおれを、満足そうに見下ろす和樹を睨みつける。おれの威圧なんてどこ吹く風で、和樹はニヤニヤ笑いを崩さない。
「俺のお願いは受け入れてくれるって、約束だろ?」
「う、ぐぐぐぐぐるる……」
少し前の、初めて肉体関係を持った日の話を持ち出すこいつは何故か活き活きしている。軽く唸ってみるものの、そもそも力じゃ絶対に勝てないのだから威嚇効果はないみたいだった。
「アオイには是非、可愛くおねだりして欲しいなあっていう俺の些細な願いをだな」
「ここまでさせてそっちが約束やぶったら……かみちぎってやる……」
どこで手に入れてきたのか、おれはやたら小さい黒のビキニを着せられていた。殆ど紐に近くて、乳首や股間をギリギリ覆う程度の布の量。ヘタすると裸より恥ずかしい……そんな格好のまま四つん這いになって、和樹にお尻を突き出す。尻尾が勝手に揺れるのは、条件反射なのだと思いたい。
「何度見てもエロい尻だな……」
「っ……」
セクハラ全開の視線に耐えながらお尻を高く突き上げると、指でお……おまんこを割り開く。ちょっとすーすーして、めちゃくちゃ恥ずかしい。でも今からこれの10倍は恥ずかしいこと言わされるんだよな……。
「アオイ?」
「わ、わかってるよ!!」
意を決して、口を開く。出来るだけ甘えるような声色を意識して、一息に声を出す。
「あ……あおいが、えっちなわんわんになれるように……ごしゅ、ごしゅじんさまの……おちんちんでっ、いっぱい、いっぱい……しつけして、ください♥」
……だめだ、顔から火が出る。シーツを手繰り寄せて頭を埋める。なんでおれがこんな変態プレイに付き合わなきゃいけないんだ、死ぬ、恥ずかしくて死ぬ。涙出てきた。
「うん、やっぱロマンだよな……よし」
「ひゃう♥」
満足そうなしゃべり方をしながら、和樹の手がぺちりと軽い音を立てお尻を弾く。痛くはないけど、突然されるとびっくりする。暫くおれの尻を撫で回していた手が突然尻尾を掴むと、後ろの方に引っ張り寄せられた。硬くて太くて長いものが、入り口に押し当てられる。
「入れるぞ」
「~~♥♥」
ずぶり、そんな音を立てそうな勢いで和樹のちんちんがねじ込まれる。勝手に動き回るしっぽを捕らえた手の親指が、付け根の裏側を握りこむように揉みはじめる。敏感な場所を触られる寒気にも似た感覚が気持よくて、切なくて。胸の先っちょや蹂躙されているおまんこがきゅんきゅんとうずき始める。
「アオイ……可愛いよ、大好きだ」
「ひゃぅ、くぅぅぅん♥」
耳元で囁かれる甘い言葉に、おれはまた簡単にイかされてしまう。
「アオイ、イった時はなんて言うんだっけ?」
「っ……♥ ひゃっ、きゃぅん♥」
や、やめて、耳の内側を指でくすぐらないで。息吹きかけないで、なんか変になりそうだ。
「アオイ?」
「…………ッ♥ あおい、ご主人さまのおちんちんで、イっちゃい、ました……♥」
元高校生のくせに……エロゲーのやり過ぎなんだよ、この変態やろー。
「よーしよし、ちゃんと言えたな、アオイは良い子だなぁ」
「きゃふっ、くぅぅん♥ やめっ♥ やめ、ろよぉ♥」
ナデナデしながら子宮こんこんしないで。嬉しさと気持ちよさで掴まれた尻尾がバタバタ暴れて、子宮がキュウっと激しく疼く。頭が真っ白にそまっていって、和樹とせっくすする事しか考えられなくなる。中で暴れる和樹が少しずつ硬さが増していく、腰が激しくぶつかり、ノックの間隔が短くなる。
何度もされて、身体に覚え込まされた射精の予兆。
胸の奥から悶えたくなるような炎が噴き上がる。おれの男のプライドを溶かして、身も心も雌に変えてしまう猛毒なのに欲しくてたまらない。
「っ……どこに欲しい?」
「あっ♥ きゃふ♥ くぅん♥」
ダメだと思っているのに、甘い誘惑から逃げられない。欲しい、欲しい、欲しい欲しい欲しい欲しい。
「な、かぁ♥ いちばん、おくが、いぃ♥」
一滴残さず、おまんこの奥に。子宮に全部注ぎ込んで欲しい。いつもみたいに、子宮を突き破るくらい深く突いてもらいたい。
「オーケー……んっ、くぅ」
「ひゃぅぅぅ♥ くぁぁん♥ きゃぅぅぅん♥」
おねだり通りに、熱くてドロドロしたものが中を満たしていく。それに伴うように、ふわふわとした甘い快楽が全身に広がる。まるで和樹に「おまえは俺のものだ」って言われてるみたいだった。
おれはもう男なんかじゃなくて、か弱いただの女の子だって。好きな男に抱かれて喜んでる、ただの女だって。ご主人さまに、獣みたいに種付けされて悦ぶただの雌犬だって。
力づくで本能に刻み込まれる。全身だけじゃなく、心まで雌として屈服させられる。
いつも味合わされるその感覚がめちゃくちゃ悔しくて、苦しくて、悲しくて。
だけどそれ以上に嬉しくて、幸せで、大好きで。
「――く、ふぅぅ」
「はあっ♥ はぁ……♥」
ずるり、そんな音を立てながらおれの胎内を蹂躙していた暴虐の化身が抜けた。和樹の手を借りずに身体を支えきれなくて、ベッドの上にへたり込む。
「アオイ」
「ふぁ……♥」
横に回り込んだ和樹が、硬さを保ったままのちんこをおれの眼前につきだした。濃密な雄の匂いが嗅覚を刺激する。それに混ざるように発情しきった雌の匂いもまとわりついていた。
舌を伸ばして、汚れを舐めとっていく。カリ首を舌の腹で刺激して、竿の裏筋は舌先で優しく。汚れをとったら、ぶら下がっている玉袋にちゅっちゅと何度もキスをしてから唇で食む。大きくて口にはいらないから、歯を立てないように気をつけながら舌と唇でマッサージする。
「上手くなったな」
「――♥」
大きな手で耳を揉むように、頭の先から顎の下まで優しく撫でられる。まるで犬を撫でるみたいな扱いに、子宮がきゅんと切なく疼く。
――ぱふ、ぱふ
「……アオイ」
「んぅ?♥」
耳ごと頭を撫でられながらコリコリとした食感の玉を舌で転がしていると、なんだかちょっと楽しくなってくる。
――ぱふ、ぽふ
「しっぽ動いてる」
「…………」
言われなくても解ってるよ、馬鹿……。抗議がてら玉袋の真ん中の筋に沿って一気に鈴口まで舐めあげて、ストローみたいに尿道に残った精液を吸い出す。濃厚な雄の味が舌の上に広がる。こんなのを美味しいと思うようになるなんて、前のおれに言ったら絶対信じないだろうな。
「うっ、ぉ……」
舌先で執拗に鈴口を舐めていたら、和樹がうめき声をあげて腰を引いた。ちょっと顔が赤いあたり、けっこう効いたみたいだ。逃がさないように追いかけて、先っちょをしゃぶる。
「いますっげーエロい顔してるぞ、アオイ」
「……うっせー」
誰のせいでこんなになったと思ってるんだよ、こいつは。
一頻り綺麗になったところでゆっくり口を離す。唇についた先走りを舐めとって、胸に飛び込むように抱きついた。ふたりでベッドに横になると、和樹の手がおれの尻尾を優しく梳きはじめた。
「すっかりエロエロわんこになっちゃったなぁ」
「……誰のせいだと思ってんだよ」
奉仕の仕方も、腰の振り方も、甘え方も。おれを抱いた日から約束を盾にお前が教えこんだんだろうが。そのせいでこうやって抱きしめられてるだけで、発情しそうになる身体になっちゃってるし。どうしてくれんだよ、ほんとに。
「アオイがエロいせい? ……いただだ、わかった、わかりました、俺のせいです!」
からかうように唇をぷにぷにと押す親指に歯を立てる。犬獣人の顎は結構強い、あっさりと白旗をあげた和樹の指をそのまましゃぶる。
「おれのこと、こんなエロ犬にしといて責任取らずに逃げるとか、なしだからな……」
「こんな可愛いわんこを捨てるとか、出来るわけないだろ?」
「…………ばか」
ちゅぱちゅぱと音を立てて親指を舐めながら、すっかり硬さを取り戻した和樹のちんこを掴んでしごく。
「ランクも上がったし、もっと稼がないとなぁ」
「なんで急に」
「湯船に浸かれる風呂付きの家が欲しい」
尻尾を撫でる和樹の手が、いやらしく揉むような動きに変わる。
「……うわぁ」
「風呂でイチャイチャとかロマンだろ」
「風呂はおれも、入りたいけどさ」
風呂でもされるんだろうなぁ、エロいこと。
「いい物件はいくつか見繕ってるから、今度一緒に見に行こう」
「……わかった」
首元にすがりついて、きゅうきゅうと甘えたように喉を鳴らしながら顔を擦り付ける。やっぱだめだ、和樹の匂い嗅ぎながら尻尾いじられると、すぐに身体が反応しちゃう。
「……どうする?」
「……前から、ぎゅうっていいこいいこされるのがいい」
ぎゅっと抱きしめられながら、腰を密着させられる。両手両足でしっかりしがみつくと、ちんこがまたおれの中にゆっくり入ってくる。頭を撫でる大きな手に導かれるように、おれは和樹に身体を任せた。
まだ暗くなったばかり……夜はまだまだ長くなりそうだった。
……本当に、これまで辛いことも苦しいことも色々あったけど。
おれはこの世界で女の子として……たぶん、幸せに暮らしてる。