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#めめこじ
雫
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その声で、その言葉で、俺の身体は従順に反応する。俺の意思なんどうでもいいとでも言うように。コントローラーを他人に奪われた人形のように。
「ほら、Come。涼太」
行きたくない。それでも勝手に足は動いて、大嫌いな男の腕の中へと潜り込む。今日も俺は、あいつの言いなりなんだ。生まれたときから、そう決まっている。
◇
久々のオフ。溜まった洗濯物を洗ったり部屋の掃除をするなりしていたら、短針は右側へと身体を傾けていた。今日は簡単にパスタでも作るか、そう思いキッチンへ向かおうとした矢先スマホが短く震えた。こんな昼間に連絡だなんて、誰だろう? そう思い画面を確認すると、そこにはある男の名字が表示されていて「今日オフだよね?家遊びに行っていい?」という文字が並んでいた。俺は思わず顔をしかめる。メンバー間でスケジュールが共有されていることへの唯一の欠点だ。
俺は「いいよ」という三文字だけ返信をし、スマホを伏せてテーブルへとそっと置いた。「だめ」という方が早いというのに、どうして俺はいつもこうして許諾してしまうのか。会えばあいつだけが愉しそうで、自分は苦しくなるだけなのに。自分自身に呆れてしまい溜息をこぼしながらも、俺はもう一度それを手にとってメッセージアプリを開いた。そうして指先をフリックさせながら、冷蔵庫のあるキッチンへと振り返った。昨日帰ってくる途中で食料品の買い出しに行ったから材料は十分ある。
『昼ごはん、うちで食べる?』
嫌いなはずの男を、気がつけば食事に誘っていた。
◇
阿「ただいまぁ〜♡」
玄関の鍵を開けた俺に抱きつきながら、男は可愛い子ぶった甘ったるい声でそう言った。もちろん、同居なんてしていないし合鍵すらも渡していないけれど。……いや、俺の知らないところで合鍵なんてとっくに作っているかもしれない。そういう恐ろしい男なのだ、こいつは。
鼻先をかすめた緑茶のような爽やかな香りに胸が静かにざわめいた。近くにこの男がいると、嫌でも認識してしまう。
阿「りょーうた。Kiss?」
舘「ん……」
間もなくして互いの唇が触れて、重なる。どちらも人前に出る仕事をしているが故、丁寧に手入れされたそこは柔らかく潤んでいてた。この男は会うたびにこうしてキスを要求してくる。恋人関係……ではあるものの、俺は不満に思っている。こうして家ならまだしも、いつ誰が来るかもわからないトイレやタイミングよく二人きりなだけの楽屋でもこの男は同じようにキスを命令するのだ。地頭は俺よりよっぽどいいはずだけれど、常識的な部分は俺のが長けているみたいだな。
いつの間にか後頭部に回された男の手のひらがそっと俺の頭を撫でてくる。心地よさに身を委ねるようにそっと目を閉じると、男はふわっと笑みをこぼした。そんな些細な反応が気に入らなくて、もう満足しただろうと唇を離そうと男の胸を押し返す。すると突然ぐっと腰を抱き寄せられて再び唇は衝突した。呆気にとられているうちに隙間から男の舌が入り込み、俺の口内を無遠慮にまさぐっていく。
舘「ん゛っ……んぅ゛!」
文句を言おうにも口を塞がれているままでは言葉にもならない。抵抗しようと暴れる俺を宥めるように一定の間隔で軽く背中を叩かれることに苛立って舌でも噛んでやろうかとしたその時、
阿「Lick」
舘「んっ……ふっ、はぁっ」
短く言葉を発した男の声が脳の奥に響いてしびれた。ムカつくだとか、嫌いだとか、脳内に散らばっていた考えが急にまとまらなくなって、一心不乱に男の唇を、舌を、舐め取ることしか考えられなくなった。だめだ、これ……。徐々にふわふわと気持ちよくなっていく身体。必死に地に足を着けようとしても、目の前のこの男のせいでどんどん浮遊していってしまう。あぁ、きもち……クソ、こんなはずじゃ……。
鼻呼吸が上手くいかなくて、酸欠になった身体はじわりと目に涙を浮かべ始めた。そうしてやっと唇は解放されて、俺ははぁはぁと呼吸を繰り返した。
落ちいついてからそっと顔を上げると、そこには満足げな表情をした男がいる。
阿「ごちそうさま」
そう言って俺の頭をポンポンと優しく叩いてきた男に、少し、だけ、……ほんの少しだけ!ときめいてしまった俺は文句の一つも言えないまま、ただ洗面所へと向かう男の背中を睨みつけてやることしかできなかった。
◇
サーモンとほうれん草のクリームパスタを作ってやったところ、男は目を輝かせて喜んでくれた。頑張って綺麗に盛り付けたそれを、何枚も写真を撮ってくれた。今までの仕事で培ってきたであろう食リポ能力を存分に発揮して感想を伝えてくれるのが嬉しくて俺はそっと顔をほころばせたものの、「ねぇ、これブログにアップしていい?」なんて言うもんだから必死に止めた。そんなの……、もしバレたらどうするんだよ、とは言えなかった。
食事を終えて、俺が椅子から立ち上がっただけで男は「俺がお皿洗うね」と言いながらニコリと微笑んで一人でキッチンへと向かっていった。こうやってすぐに察して動いてくれるところを見ると、なんだか……か、彼氏なんだな、と思えて気恥ずかしくなる。まぁ、いつかはちゃんと、常々そう思ってるって伝えてもいいのかな。
戻ってきた男に「ありがとう」と礼を言うと「大好きな彼氏に家事させっぱなしじゃいられないからね」と頭を撫でられ、ムカついた。前言撤回。絶対に本人には伝えないことにした。
日が陰ってきて部屋も暗くなり始めたから電気を着け、そのままお風呂を洗ってしまおうと廊下へ向かうと、ふと背中に声をかけられた。男から名前を呼ばれる度に不覚にも胸がぎゅっとなる。冷静さを取り戻してから振り向いて「なに?」と問うと、男はわざわざソファから立ち上がりゆっくりとこちらへ向かってきた。な、なに。ある程度の距離まで来たのに男は一向に足を止めない。後ろが壁というわけでもないのだから俺も逃げるなり後ずさるなりすればいいのに、と脳内の片隅で思った。やばい、……近い。その場で立ち尽くしたままきゅっと目を閉じ、何かが起こるのを待っていると男の指先が優しく俺の頬に触れてそのまま顎へと滑っていった。所謂、顎クイ。よくもそんなクサい真似ができるな、と言ってやりたかったが、俺のほうが年上だし。まぁこいつもカッコつけたいか、と思い黙ってやることにした。余裕を浮かべて目を開けた数秒後、男は俺の耳に吹き込むように言った。
阿「今夜、抱かせて」
じわじわと爪先から熱が込み上げてきて途端に顔が熱くなる。俺は馬鹿なのかもしれない。この男が一人で俺の家へとやってきて抱かれなかった日なんて一度もないのに、毎回こうして初心な反応をしてしまう。断じて、俺がこの男との行為が好きだとかそういうわけではないのに、どうしてなんだろうか。
俺は逃げるように脱衣所へと駆け込んで急いで扉を締めた。ふぅと一息ついたのもつかの間、俺の身体の準備をするための道具たちが入ったダークブラウンの箱を見つけてしまい、心拍はさらに駆け出し始めた。
◇
阿部が風呂から出てくるのを待っている間、俺はベッドルームにローションやゴムの用意をしてベッドに腰掛けていた。バスローブの袖口を意味もなくつまんだり、黒いシーツのシワを寄せて綺麗にしたりして心を落ち着かせていた。行為の前はいつもソワソワとしてしまい落ち着かない。それは自分が受け入れる側だからか、それとも生まれ持った性のせいか。
脱衣所から微かに聞こえていたドライヤーの音が鳴り止み、緊張が徐々に高まっていくのを感じる。スマホをベッドサイドのテーブルに移していると、男がドアをノックする軽い音が響いた。そういう、律儀なとこ……あるよな。「入っていいよ」と声をかけると、ドアは開かれる。電気を消しているせいで薄暗いベッドルームから見た男は廊下の照明が後ろから差しているせいでなのか、やけに色っぽく見えた。
阿「おまたせ」
舘「別に、待ってないよ」
阿「んふ、そっか」
男が俺の右隣に座り込んでマットレスが沈み込む。背中側から腕を回されていることに気がついても、俺は避けなかった。嫌いだけど、……嫌いじゃなから。そっと優しく、だけれど強引に肩を抱き寄せられて男は俺の耳にキスをした。
阿「じゃあ、シよっか」
頷きも逃げもしない。もうここから、俺はこいつのものだから。
コメント
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良い意味で生々しくてちょっとダークなところも好みです…(投稿ありがとうございます!待ってました!)
うわあああ第11話も最高だった……!!😭💕 阿部くんの「ごちそうさま」からのポンポン頭ポン、あれ絶対ズルいでしょ!!涼太がときめいちゃうのめっちゃわかる〜〜!!🙈💘 それにしても「今夜、抱かせて」を耳元で言うとか反則すぎるんだが??顔から火が出る凉太の反応が愛おしすぎてこっちまで照れるわ…/// 大好きなのに認めたくないツンデレ具合と、無意識に構ってしまう甘やかしがたまらん一話でした!続きも楽しみにしてます🔥