12 ◇因果応報
そんな日はいつも可愛がってる息子にイライラをぶつけるのだ。
ある日も里香子はそんなに怒るほどの悪いこともしてない弟の頭を
叩いてストレスをぶつけていた。
可哀想に弟は泣いて2階の私の部屋まで来て泣いていた。
あんたがしたことを今の秘書にやられてるだけだろうが、と
心の中で悪態をつきながら、私は4才になったばかりの弟を慰めた。
母がまだこの家に居た頃から、家に関わることはほとんど家政婦の冨さんが
やってくれているのだけれど、継母の里香子はストレス発散のために洗濯物を
2階のベランダに干すことがあり、その日も弟が泣きながら私の2階にある部屋に来てから
15分ほどして、いつものように彼女が洗濯物を干しに2階に上がって来ていた。
私は継母が洗濯物を干し終えて踊り場に立つ頃合いを見計らって
やさしく弟に言った。
「たっくん、おかあさんにごめんしようか」
「うんっ」
私が呟くと何も悪くはなかったのに弟は母親からやさしくされたかったのか
素直に頷いた。
卓也は母親に駆け寄り謝った。
「おかあさぁ~ん」と里香子の脚に飛びつき「ごめんなさい」と。
ちょうど踊り場に立ち、階下に降りるところだった継母は、バランスを
崩して下へ真っ逆さまに……悲鳴を上げて転げ落ちて行った。
どうなるかな? と心配していた卓也は継母と一緒に落ちてはいかなかった
ようで、母親が落下してゆく姿を驚いた様子で見送っていた。
ドンマイ。
まぁ別に弟も一緒に落ちたら落ちたで別によかったんだけどさ。
ほらっ、坊主憎けりゃ袈裟まで憎いっていうじゃない?
まっ、でも弟の卓也が無事で良かった!
継母の里香子は手術とリハビリで何とか歩けるようにはなったものの、
夫婦生活に支障をきたすようになり―――。
父親は今までよりもより一層頻繁に新しい女である秘書と会うようになり、
しかももうそれを隠さず公然と付き合うようになっていった。
それまでは、まがりなりにも妻の目を気にして何とか隠して付き合って
いたのだけれど、継母が妻の務めを果たせないことをいいことに
隠すことなく公然と付き合うようになった。
元々社交的だった継母なのに、その後家からほとんど出なくなって
しまった。
夫に見放され少し身体が不自由になったことで、今までガン無視していた
私にも継母は媚を売るようになっていった。
自分の地位が……立ち位置が危ういからね、分るよその気持ち!
その後弟が中学生になった時、それとなく当時のことについて探りを
入れてみたんたけど、母親が怪我したことを自分のせいだとは思ってなくて……
弟があの日のことを覚えてなかったことは、私の中でプチ修羅場だった。
いや記憶の中から消えていたことは幸いだとは思うけどね。
私は知ってた。
弟が小さかった頃、母親に何か言う時は、かなりの確率で
まず『おかあさん』って言いながら駆け寄り、母親の脚にしがみ付くことを!
私は脚にしがみ付けとは弟に一言も言ってないからね。
万が一弟が思い出してもNo Problem。
まぁ弟が覚えてても覚えてなくてもどっちでもいいけど、
あんなに上手くいくとは思わなかったなぁ~。
継母に対してはあの時のことで少しは気が晴れたかな。
まだまだ許し足りないけど、父親の今の愛人なのか、はたまた先で付き合う
新しい女性なのかは分からないけれど、その女が妻の座を欲した時
継母は私が直に手を下さなくとも父親から捨てられるという不運に見舞われる
だろうからその日を楽しみにしている。
◇マリリン
実家へ帰って来た。
勿論母親の体調不良は|《うっそ》。
久しぶりに帰省した私を両親は喜んで迎えてくれた。
まだ今のままでは、両親に離婚を考えているなんてことは言えない。
かと言って気持ちのなくなってしまった冬也のいる我が家へも
帰りたくないというのが本音。
どうすりゃいいのさぁ~、しぃあ~ぁんばしぃ~っ♪
青江三奈の長崎ブルースの一節だ。
実に古い歌になる。
世代的に全然(断然)離れてるんだけど私はこの長崎ブルースが好きだ。
もうあんな個性的な歌手はこの先当分出てこないだろうなぁ。
男と女の恋心~♪か!
今思うと、笑っちゃうほど結構夫の冬也とは大恋愛だったんだけどなぁ~。
年月は恐ろしく人の気持ちを変えられるものなのだと実感。
本気で心変わりされるのもきついだろうけど、浮気もかなりきついものがある。
冬也のはどちらなんだろう?
どちらにしても、私以外の|女性とマジキスするような輩とは
この先夫婦としてやっていける気がしない。
帰宅して両親とひとしきり会話に花を咲かせた後、独身時代に使ってた
自分の部屋に篭り一息ついたところで、はて……日曜まではここに
いられるとして、月曜からどうしよう? となった。
まだ今の段階で両親に離婚の意思が有ることを知られたくないので、
あくまでも骨休めで1~2日実家に帰って来たというシチュエーションに
していたかった。
少し身体を横たえて、身体を休めていたけれど、寝ることも
できずくさくさしてきたので、散歩に出た。
おっぉ―っ!
何と天は我に味方したようだ。
実家では暮らしてないはずの男が、奴の実家方面からこちらに向かって
歩いてくるのが遠目に見えるじゃないか、ジャマイカ!
私はその男に大きく手を振った。
「マリリぃ~ン~!」
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