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「えっ?りょうちゃん、もうそこまで出来るようになったの?」
「この曲は、まだ自信ないかな。フットペダルの使い方が難しくて。」
久しぶりのスタジオ練習には、五人が揃った。
あやかは向こうでステック回してるし、高野はアンプの調整してる。
『どれだけ出来るようになったか』の確認作業中。
「こりゃ負けてらんねーな。」
「たかしは本職じゃん。僕、キーボード初めて触ったんだから。このバンドに入って。」
「…は?」
初めて触って、そこまで弾ける?
「ピアノの経験はあるけどさぁ、やっぱり違うもん。」
なんだ、ピアノの経験あるのか。
鍵盤は一緒なんだし、そりゃ弾けるわ。
「ではここで、オレから発表がありまーす!」
「はーい!」
「メジャーデビュー、決まりました!拍手!」
「おっ、すげぇ。」
「じゃあ、今日は食事会!」
どこからとこもなく、そんな声が上がった。
「いいね!行こう!」
「大人組の奢りだよね?」
「お前らと稼ぎは一緒じゃーい!」
わーわー、ギャーギャー。
それが、俺らの日常。
「それでね、どこのメーカーのがいいかなって…。」
俺の前を行くヤツは、あやかとの話に夢中になってる。
「そうだなぁ…。」
前の信号は、赤。
みんな立ち止まったのに、そいつだけは一歩を踏み出そうとした。
「バッカ!」
「ちょっ、りょーちゃん!」
思わず腕を掴んで引き止める。
尻もちをついたそいつの数十センチ先を、車が走り抜けて行く。
「…びっ、くりしたぁ…。」
「前見て歩いて下さいよ、藤澤さん。」
これで、年上とか。
本当に大丈夫なんか?
「ごめんねぇ、ありがと。」
道に座り込んだまま俺を見上げて、そいつはへらっと笑った。
「あやちゃんも、びっくりさせちゃったね、ごめんね。」
服についた砂を払いながら、そいつは立ち上がる。
「もー、本当に寿命が縮んだ!」
「大丈夫、あやかの寿命なら多少縮んでも。」
「なんだとぅ!」
「りょうちゃん、若井の馬鹿力でケガしてない?」
「うん、大丈夫だよ?」
「誰が馬鹿力だって?」
信号が青に変わる。
みんなで渡り出す。
さっき轢かれそうになってたヤツだけ、ワンテンポ遅れてた。
練習やリハやなんやかんやで会う度、そいつは何かしらやらかしてた。
楽譜をぶちまける、ケーブルに引っ掛かってコケる、座ってるイスごとひっくり返る…。
そのたびにびっくりした顔をして、その後に困った顔になる。
手を貸すと、必ず笑って、『ありがとう』って言う。
「若井だけ、未だに『藤澤さん』なんだな。」
「俺、まだ認めてねぇもん。」
あんなのが年上で、大人だなんて。
「所属レーベルの忘年会って、未成年も参加するもんなの?」
「上が言うんじゃ、仕方ないんじゃない?」
そんな話をしながら、指定された会場へ向かう。
高野とアイツは、何かを話し合ってた。
流石に轢かれそうになることは、なかった。