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「何だ?何が今からあるんだ?」
男性の声は低く、威厳があった
「副社長!みんな秘書の応募に集まった人達です」
困り果てた受付嬢は専務の『増田剛』に言った
「どうなってるんだ? 俺だってつい一昨日に秘書の倖田さんが辞める話を聞いたばかりだぞ!」
増田は受付に寄り集まってきている女子社員を見渡して言った
「会長はお忙しいんだ・・・しかし・・・こんな状況では面接せざるを得ないな・・・実際困っているのは困っているからな」
キャァッと女子社員達が歓声をあげた、あきれている増田の目が、鈴子の方に向いた時、鈴子は(私こそが最高の秘書になります)という笑顔を送ったが、増田の視線は鈴子その他大勢の上を通り過ぎ、後ろの受付嬢で止まった
「それより急ぎなんだが、会長は2023年の八月号の写真雑誌の『ブリット』が欲しいそうだが、廃盤で見つからないんだ」
増田が受付嬢に言った
「キンドルタブレットを見ますと電子雑誌ならありますが・・・」
「会長は電子本をお読みにならない、目が疲れるそうなんだ、あの雑誌の特集ページを見てひらめいた事があったらしくて必死でお探しなんだ」
「そう申されましても・・・廃盤になったとしますと・・・帰りに古本屋にでも寄りましょうか?」
「いや、今すぐ必要なんだ」
少し困り顔で受付嬢は受話器を取った
「その雑誌社に電話して、在庫がないか聞いてみます」
増田が肩をすくめて言った
「それも、もう俺が電話したよ、在庫は無いそうだ、秘書の面接よりも俺は今そっちが大事なんだよ、会長もな!」
増田が受付嬢にそう言うと、また受付カウンターの奥の重役室に消えて行った
「2023年・・・「ブリット」の八月号・・・」
そう鈴子はつぶやき、踵を返してエレベーターに乗って去っていた
ボソッ
「一人脱落ね・・・」
他の女性社員達はヒソヒソと呟いた
・:.。.・:.。.
30分後・・・会長フロアの受付カウンターでは、増田の見ている前で受付嬢があちこちに電話して2023年八月号の「ブリット」を相変わらず探し回っていた、あきらかに専務の増田はイライラしている
「どうしてどこにも無いんだ!あれに大事な会長の求めている記事が書いてあるのに!廃盤といってもどこかにあるだろう?Amazonとか?楽天とか?」
「どこにもないものは仕方がありません・・・私にどうしろと?」
増田と受付嬢は軽く言い争いをしている、その時入口のエレベーターが「ポンッ」と開き、息を荒がせて汗をかいている鈴子が大急ぎで入ってきた
鈴子が胸に大事そうに両手に抱えているものは、2023年の雑誌「ブリット」の八月号だった、鈴子は面接を待っている女子社員達をかき分けて、 受付嬢と専務の前にゼーゼー言いながら小走りでやってきた
ゼ―ッ・・・ゼ―ッ・・
「あ、あのう~専務・・・お・・・お探しの雑誌は・・・これでしょうか?」
「まぁ!」
「え?」
増田は鈴子から雑誌を受け取るとパラパラめくって言った
「おおっ!!これだ!このページを会長は必要とされてるんだ!!」
すかさず増田は雑誌を鈴子から受け取ると、重役室の扉を開け、最奥の会長室に飛び込んでいった
ハァハァ胸を押えて息を整えている鈴子に、ガタンッと受付嬢が立ち上がって、ウォーターサーバーから紙コップに水を汲んで鈴子に差し出した
「大丈夫?外は熱かったでしょう?これを飲んで!さぁ!熱中症になるわよ?」
ゼーッ・・・ゼ―ッ・・・
「す・・・すいません・・・」
鈴子は受付嬢からもらった水をゴクゴク一気に飲んだ
「偉いわ!あなた」
受付嬢が鈴子を褒める
ヒソヒソ・・・
「どこで見つけて来たんだろうね・・・」
面接待ちの女子社員達が大汗をかいて、疲労困憊の鈴子を見てヒソヒソ話し込んでいた、30分ほどして奥のドアが開き、増田が受付にやってきて鈴子に手招きして言った
「君!会長室に来なさい!」
ハッと鈴子は立ち上がって、思わず受付嬢を見た、すると彼女は、満面の笑顔を鈴子に向けて親指を立てた、鈴子は小さく震えた、そして面接待ちの女子社員達の針のような視線を背中に感じながら、震える足で会長室へ向かった