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ろのみ🩵🫧
43
#愛され
おうか
252
街灯の下、仄かに照らされたその人は背も高く、素敵な人。
「本当そうだね……。えーっと……湊さん? 君はいいの? 」
「ええ、ハンカチを返すだけでしたので。清水部長」
そう言うと、彼はまた笑った。
「えっと……彼とは? 」
「大学の同級生です。清水部長は? 取引先の部長さんですか? 」
「そうだね、ここ」
そう言って、目の前のビルを指差した。大きな……会社の……部長さんか。
「微妙に二人に追いつくのも悪いしなぁ。電車ずらすかぁ」
なんて言うから目的が一緒だったと吹き出した。
「君も気を使ったクチ? 」
「ああ、はい。そうです」
「だよなぁ。今追いつくのは野暮だよなぁ。あ、そうだ。この後のご予定は? 湊さん」
「……ありません」
「……食事、付き合ってくれると……嬉しい」
「わ! いいんですか? 嬉しい。ちょうど、そんな気分で」
ストレートなお誘いに頷いた。吉良くんの知り合いだし、大丈夫よね。
それに……ちょっとだけ、真っ直ぐ帰りたくない気分だった。店に着くまでの間も、彼は冗談なんか言って退屈しなかった。
店に着くと、横並びの席に座った。顔を見て話すとなると、結構近い。
あれ、思ったより……若い?
「あら、さっきは暗かったから……もしかしてって思ってたんですけど……部長さん、ハンサムですね!ラッキーだわ、私」
切れ長の色気のある目。整った鼻筋、少し大きめな情の厚そうな唇。“抱かれてみたい”とか言われそうな、男らしい体格に……温厚な話し方。
モテそうな人だなぁ。そして、私も凄くタイプだ。
格好いい。吉良くんの美しい格好よさとはまた別のタイプだけれど。
新しいワンピースくらい着ておいてよかった、そう思ってしまうような人だった。……まぁ、普段よりはマシだってくらいなんだけど……。
彼はふっと表情を緩めた。
「ハンサム……って……」
「今時でしょ? でも、部チョーさんはそんな感じ。ハンサム顔! 」
大きな会社の部長ということは、お仕事もお出来になるのか。
それなりの年齢なのかな。……わかんないな。ついじっと見てしまう。
この人に、お相手が居ないわけ……ないよね。
指輪はしてないけど。しない人も多い。奥さんが居ないとしても、恋人はいるだろう。
でも、|一時《ひととき》を過ごすには問題ない。
走って行く吉良くん。その先に微笑む綺麗な人。……良かった。心からそう思う。
なのに、胸に居座る虚しさを払拭するには、有り難かった。十分すぎる人だった。
切れ長の目が、優しく私を見つめる。次々と冗談を飛ばしながら。
――……聞けば良かった。最初から。
そしたら苦しむ事も、間違う事も、なかったのに。
「褒めてんの?」
「はぁい、もちろん」
楽しく飲めたら良かった。今日だけだし。
「俺も」
そう言った彼を食事の手を止めて見つめた。
「俺もラッキーだった。綺麗な人で」
「お上手ですわ、部チョー」
分かってる。本気になんて、しませんよ。
「悪かったね、付き合って貰って」
「私も誰かと居たかったので。それが……美味しいお料理に美味しいお酒……そしてハンサムな部チョー。もうね、最高」
にっこりと笑う。
じっと、見つめてくる彼に耐えられなくなって、つい茶化してしまう。
だけど、本心だった。
「今日はもしかしたら、夢なのかしらと思う程です」
そう言って、彼の空になりそうなグラスを見てすすめる。
「次、何飲みます? もう少し、飲めるでしょ? 」
純粋に楽しかった。
今日くらいは、いいんじゃないか。別に、ただ飲んでるだけだし。つい、考えてしまう。
相手をよく見ないと、失敗する。でも、飲んでるだけ。深く考えない。
楽しすぎて、時間はあっという間だった。
時計を見ると、もう終電近い。
「そろそろ……時間が……」
遠慮しながら言うと
「明日、休みだよね?」
と含みを持たせて聞いてくる。
「……ええ」
タクシーで帰れとでも言うのかと思った。
「今日、そこのホテルに泊まるんだ」
そう言って彼が視線を走らせた先には、私には縁がないような……ホテル。
「えっと、こっちの人ではないんですか? 」
出張でこっちに?
「いや、たまたま部屋をね。もちろん、シングルじゃない」
たまたま?
そこは、たまたまで取るようなホテルではなかった。シングルではないとあれば、尚更。
誰かの為に取ったんだろうか。
予定がなくなったって事か。だから食事も誘ってくれたのか。
代わり。
それは、そうか。代わりくらいしかなれない。私は、いつも。
彼はゆっくり色っぽい目で私を見ると……私の手に触れた。しばらく、見つめ合って
「……出ようか」
言われるまま店を出ると、彼の腕に自分の腕を絡めた。
一度だけ。そう決めた。
一夜限りなんて、したこともなかった。他に相手がいると分かった上で、ついていく事も。今日は自分の意思でこの人についていくのだ。
だから……
「いい夢だわ」
彼に身体を預けるように、そう言った。
傷つける人もいるというのに。なぜだろう……何をしているのだろう、私は。わかっているのに、彼に惹き付けられて、NOと言えなかった。
ごめんなさい。意思の弱い人間で。今日で終わり。そのきっかけになるかもしれない。心の中で、誰になのか分からない言い訳を繰り返した。
どのみち、もう会うことはなくなる。この人にも、吉良くんにも……。あの会社を辞めて新境地へ行くのだから。もういっそ、本当にイタリアでもいい。
心機一転、変わってみせる。
だから、今日だけ。
今日だけは、夢の中に居させて。何も考えずに……素敵な夢の中に。
スプリングコートが少し肌寒いくらいのこの季節に、私は前に進んだのだろうか。それとも、また……。
コメント
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みぅです🤍🥀 第5話、読み終わりました……。湊さんの、自分を納得させながら進む感じ、すごく伝わってきた。彼の部屋が“シングルじゃない”って分かった瞬間の、彼女の諦めと受け入れ。代わりでもいいって思う切なさが胸に刺さったよ。最後の「いい夢だわ」っていう台詞、泣きそうになった……。前に進もうとしてるのに、また同じ場所にいるような感覚、わかる気がする。次も読みますね🌙