テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
訓練場。
人が多い。とにかく多い。
タウントはいつものように軽口を叩きながら輪の中心にいる。
「だからそれじゃ遅ぇって。ほらこうやんだよ」
調子はいい。
いつも通り。
――そこへ。
「タウントさん」
静かな声。
振り向いた瞬間、空気がざわつく。
白衣姿のケアテイカーが、訓練場のど真ん中まで歩いてきている。
「え、先生きた」
「珍し」
周囲の視線が一斉に集まる。
タウントの嫌な予感センサーが全力で鳴る。
「……なに」
ぶっきらぼうに言うが、声がわずかに硬い。
ケアテイカーは少し息を整えてから、真面目な顔で言う。
「本日、無茶をなさらないとお約束いただいたはずです」
「してねぇよ」
「先ほど三メートルほど吹き飛ばされていましたが」
「ノーカンだろあれは!」
周囲から笑い声。
ケアテイカーは一歩近づく。
「怪我はございませんか」
「ねぇって」
「本当に?」
「本当」
「……嘘をついていらっしゃる顔です」
「は!?」
距離、近い。
ざわ……ざわ……
「先生ガチ確認入ってる」
「これ例のやつ?」
「やめろお前ら」
タウントの顔がじわじわ赤くなる。
ケアテイカーは周囲など気にせず、そっとタウントの腕を取る。
「じっとしてください」
「おい、ここ外!」
「診察に場所は関係ありません」
そう言って袖を少し捲る。
「ちょ、待っ……!」
周囲が盛り上がる。
「公開イチャつきだー!」
「うわタウント逃げろー!」
「逃げねぇし!!」
でも逃げない。
ケアテイカーの指先が腕をなぞる。
「……少し腫れています」
「え」
「無茶はなさらないでくださいと、申し上げました」
声は優しい。
でもほんの少しだけ、寂しそう。
「あなたが傷つくと……」
ぴたりと止まる。
周囲が静まる。
「……私は、とても心配になります」
完全沈黙。
タウント、思考停止。
「……は?」
「先日も眠れませんでした」
「ちょ」
「タウントさんが大怪我をなさる夢を見てしまいまして」
「待て待て待て」
顔、爆発寸前。
周囲。
「えぐい」
「それ好きなやつの発言」
「先生重い愛」
「違ぇ!!」
タウントが叫ぶ。
「違くねぇだろ!」
誰かが即ツッコミ。
ケアテイカーはきょとんとする。
「違うのですか?」
「違わねぇけど!!」
言ってしまった。
一瞬の静寂。
そして――
「今の聞いた!?!?」
「認めたぞ!!」
「タウント終了!!」
爆笑と歓声。
タウントは両手で顔を覆う。
「無理……帰る……」
ケアテイカーは慌てて彼の手を取る。
「お待ちください」
「触んな今!」
「ですが」
ぐい、と引き寄せられる。
予想外の力。
タウントはバランスを崩し、ケアテイカーの胸元にぶつかる。
「っ!」
周囲大歓声。
「ドラマ!?」
「やば!」
ケアテイカーは真っ赤になりながらも、しっかり支える。
「大丈夫ですか」
「大丈夫じゃねぇ!!」
タウントの声が裏返る。
「なんでお前平然としてんだよ!」
「平然ではございません」
耳、真っ赤。
でも逃げない。
「……皆様の前で申し上げるのは恥ずかしいですが」
周囲が「お?」って空気になる。
タウントが首を振る。
「言うな」
「ですが」
「言うなって!」
ケアテイカーは真剣な目で、タウントを見上げる。
「私は、あなたが大切です」
完全終了。
タウント、フリーズ。
三秒後。
「……」
四秒後。
「……帰る!!」
その場から走り去ろうとするが、手はまだ握られている。
「離してください」
「嫌です」
「なんで!?」
「逃げないでください」
周囲から拍手。
「いいぞ先生!」
「タウント捕獲成功!」
タウントはついに膝から崩れ落ちる。
「……公開処刑……」
ケアテイカーは心配そうにしゃがみ込む。
「具合が悪いのですか」
「お前のせいだ……」
「なぜですか」
「好きな相手にあんなこと言われて平常心保てるわけねぇだろ……」
また、言った。
静まり返る訓練場。
「……好き?」
ケアテイカーの声が震える。
タウントは顔を覆ったまま叫ぶ。
「聞くなぁぁぁ!!」
歓声と冷やかしの嵐。
公衆の面前で、完全敗北。
でも――
握った手だけは、最後まで離さなかった。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!