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映画の撮影は、ついにクライマックスに近づいていた。
仲間たちは夜遅くまで作業を続け、撮影機材のチェック、ロケ地の確認、衣装や小道具の準備に追われていた。
しかし、時間が足りなかった。
「残された時間は、あと7日。」
未来へ戻るまでのタイムリミットが、奏太には分かっていた。
過去にいられる時間は、もう残りわずかしかない。
「この映画が完成しなかったら……。」
奏太は、一瞬だけ目を閉じた。
もし、このまま撮影が間に合わなければ、未来に戻ったとき、あかりの記憶は完全に消えているかもしれない。
映画は、俺たちの「生きた証」だ。
この映画が完成しなければ、全てが消えてしまう。
「……絶対に間に合わせる。」
誰よりも強く、そう誓った。
ゼミ室に戻ると、そこには仲間たちがいた。
友、太力、富貴子、彩映、喜以、豪志――。
みんな、疲れ切った顔をしていたが、それでも誰一人として撮影を諦める素振りはなかった。
「あと7日で、絶対に撮り終える。」
奏太がそう言うと、太力がカメラを手に取りながら、ニヤリと笑った。
「お前が言うなら、やるしかねぇな。」
「大丈夫、ちゃんとスケジュールを組み直せば間に合うわ。」
喜以は冷静にノートをめくりながら言った。
「私も、やれることは全部やる。」
富貴子が、照明のリストを確認しながら頷いた。
「君たちが本気なら、私も全力で演じる。」
彩映は、脚本をぎゅっと握りしめた。
「……この映画は、みんなのものだ。絶対に完成させる。」
奏太は、全員の顔を見ながら言った。
仲間たちは、誰一人として反対しなかった。
「限界までやるぞ!」
この言葉が、映画制作のラストスパートの合図だった。
翌日、撮影が始まった。
ロケ地での撮影は順調に進み、キャストもスタッフも、全員が一丸となって動いていた。
しかし、その日、奏太は信じられない光景を目にした。
「あかりが、俺のことを完全に忘れている。」
「……えっと、ごめんなさい。」
あかりは、申し訳なさそうに言った。
「君の名前、なんだっけ?」
奏太は、胸が締めつけられるような痛みを感じた。
「俺のこと……もう、覚えてないのか?」
「うん……。」
彼女は、悲しそうに微笑んだ。
「昨日、君と話してたことも……全部、思い出せないの。」
「……。」
もう、あかりの記憶は限界なのかもしれない。
もしかすると――未来に戻ったとき、彼女は俺のことを完全に忘れてしまうかもしれない。
「俺、何のために過去に戻ったんだよ……。」
絶望に襲われた。
その夜、奏太は一人で考え続けた。
「このままじゃ、あかりの記憶は完全に消えてしまう……。」
でも、方法はある。
映画だ。
俺たちの映画が完成すれば、あかりが俺のことを忘れても、この映画を見れば思い出せるかもしれない。
「なら、やるしかねぇだろ……!」
奏太は立ち上がり、撮影のラストシーンの準備に入った。
あかりの記憶を、映画に刻み込む。
それが、俺にできる唯一のことだから。
撮影最終日。
ラストシーンは、主人公が“生きた証”を残すために最後の言葉を伝えるシーンだった。
カメラの前で、奏太はあかりを見つめた。
「カットがかかったら、俺のことを忘れるかもしれない。」
でも――。
「俺は、お前に会えてよかった。」
「……。」
あかりは、微笑んだ。
「私も……君に会えてよかった。」
「ありがとう。」
涙を流しながら、二人のシーンが撮影された。
――そして、映画が完成した。