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第8話:マスクチェンジ
空き地に突き刺さった電柱が、煙を上げて崩れ落ちた。
ユイナは肩で息をしながら、敵の攻撃を見つめていた。
相手は、三節棍を自在に操るマスク使い――イオ。
頭には鋭角的な昆虫風のマスクをかぶり、細身の身体にはグレーと緑の格闘用スーツ。
そのマスクは「軌道補正」スキルを持ち、攻撃が自動で敵を追尾する戦闘型。
一方、ユイナは身を翻しながら後退し、手元のホルダーを確認した。
9枚目まで回収済み――次で、10。
(この戦いで、10枚目に届く)
イオが地面を蹴って突進する。
ユイナはサイトピアを起動し、視覚を切り替え、イオの動きの軌道を“先読み”する。
一撃、かわす。
二撃、誘導してコンクリ壁へ跳ばせる。
三撃目――そこに、ユイナの右手が届いた。
マスク回収コードを発動。
イオのマスクに触れた瞬間、装着者が意識を失い、仮面が光の粒へと砕ける。
10枚目、完了。
その瞬間、ユイナの背中のホルダーが振動した。
「……これが、マスクチェンジ」
脳内に“別の声”が響いた。
冷静で、効率的で、どこか鋭い――もう一人の自分。
ユイナの手元に、未知のマスクが現れる。
それは漆黒に赤いラインが走る“戦闘特化”型。
目の部分には光のないスリットがあり、感情を完全に遮断する構造。
ユイナがそれを顔に装着すると、風が一気に吹き抜ける。
視界が変わった。
動きが軽い。重力が違う。
自分の中にいる「戦うことだけを許された人格」が目を覚ましたのだ。
その時、復帰したイオが叫びながら再度突進してくる。
ユイナは腕を振る。
その一撃で、イオの三節棍が砕けた。
「戦闘ユニット“セカンド”起動。対象制圧開始」
感情のない声とともに、ユイナの動きは加速する。
サイトピアに代わるスキル“サイトスラスト”が展開され、
敵の動きを一瞬だけ鈍化させるフィールドを生成。
そのまま拳を打ち込み、カウンターからの後ろ蹴り。
イオの防御姿勢が崩れ、意識が飛ぶ。
一瞬の静寂。
そしてマスクを静かに外したユイナの目に、かすかに恐れが宿っていた。
「……これが、私の“もう一つの顔”」
戦術に幅が出た。確実に、強くなった。
だが同時に、それは“別の誰か”が自分の中に生まれたということでもあった。
彼女は知る。
これがマスクを集めるということ。
人格を拡張し、力と引き換えに“自分の輪郭”が曖昧になっていく感覚。
それでも進む。
本当の自分を取り戻すために――あるいは、新たな自分を生み出すために。