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__おきて。起きて、仁ちゃん。
朧気に聞こえた声をはっきりと認識してぱっと瞼を上げると、視界いっぱいに映るのは涙目になりながら心配そうに伺う恋人の顔。
あぁ、久々にあの夢を見た。昔付き合っていた人との夢だった。
「おはよ…しゅんた、」
「うんおはよ、仁ちゃん。…なぁ、大丈夫?」
「ん?なにが」
「泣いてた、悲しそうやった」
そう言って目元を親指で優しく拭われた。
舜太はまるで自分が何かされたみたいに傷ついた表情を浮かべている。こいつは人一倍優しいから、自分事のように俺を大切にしてくれているのが伝わってくる。
「なぁ…どんな夢見てたん、」
涙の膜をだんだんと張り詰めていく舜太。
ここまで心配させてしまっていたことに申し訳なくなり、そっと手を伸ばしまだ寝癖のついた髪に触れてみた。
「それがさ、もう覚えてねえんだよな」
「え、?」
「なんか悲しかったけど、もう忘れちゃった」
「…じゃあ、もう悲しくない?大丈夫、?」
「大丈夫だよ。舜太の顔見たら元気出た」
そう言うと、よかったぁ、と安心したように抱きついてきたので、頭を優しく撫でてやる。
くふくふと幸せそうに笑うのが少しくすぐったいけど、舜太とこうして隙間なく抱きしめ合う時間は何よりも幸せで満たされた。
「俺は、仁ちゃんのこと一生大切にするから」
まるで、俺はあいつとは違う、というような口調に一瞬驚いた。
あいつが同じ言葉を言った時はどんなだったか。
たしか俺の目を見ようともせず、煙草の煙のついでに吐いたような言い方だった。
けれど舜太は、真っ直ぐに目を見つめて少し不安そうに、けれど真剣に伝えてくれている。
…そうか。俺は無意識の間にもずっとこうして過去のあいつと舜太を比べてしまっていたんだ。
朽ちた名も知らない植物も、灰皿も、煙草も、もうこの家には無い。今の俺には最愛の恋人がこうして目の前にいる。
ずっと心のどこか奥の方で忘れたくないと微かに残っていた気持ちが、ようやくゆっくりと消化されていく。
「俺も一生舜太のこと大切にする」
今までの想いが嘘だったわけもないけど、やっと心から、そう言えた。
満足気に微笑むその顔が世界で一番好きだと思って、幸せで胸がいっぱいになる。
それが伝わるように、と舜太の頬に唇を寄せると、その何十倍も甘い口付けが返ってきた。
その後、朝からふたり甘く蕩けあったことは、また別のお話。