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雪緒は苦笑いして、


「狙った男の目の前で、その顔してその台詞言えば、すぐ叶うよ」

「そんな簡単じゃないよぉ! そもそも、まず『狙いたくなるような男』が見つからないもん! で、見つかったところで、年上で、かつ狙いたくなるような男の人なんて、彼女がいるか結婚してるかで……とっくに人のものじゃない?」

「うーん、確かにね」


どんなに腕のいい猟師だって、山に獲物がいなければ腕を発揮しようがない。


そのとき、ウェイターが両手に料理の載った皿を持ち、こちらに歩いてくるのが見えた。

雪緒は空になったグラスをテーブルの隅に動かし、


「ま、今は見つからない獲物のことは忘れて、確実に運ばれてくる美味しい料理をいただこう?」

「あ! うわー美味しそう! 美味しいものは決して裏切らない!」


二人でくすくすと笑い、一旦思うように運ばない現実のことは忘れることにした。





食事を大満足のうちに終え、店を出ると、大粒の雨が降りしきっていた。


「あー、予報当たっちゃったね」


入り口の庇の下で、穂乃里が呟く。雪緒は折り畳み傘をバッグから取り出して、夜の雨に目をやった。

吹き込む飛沫しぶきがかかって、顔をしかめる。


「朝までに晴れるといいけど」

「そうだねぇ」


店で食べた物の感想を言い合いながら、穂乃里が呼んだタクシーを一緒に待つ。


「デザートのシャインマスカットのタルト、美味しかったぁ。おかわりしたかったなぁ」


じめじめとした空気の中にいるようにはとても見えない、うっとりとした表情で穂乃里が言って、それからぺろりと舌を出す。


「でも、雪緒ちゃんの桃のタルトも捨てがたかったなぁ……ごめん、半分くらい私食べちゃったよね」

「半分はないでしょ、それに穂乃里の奢りだし」


雪緒の言葉に穂乃里は唇を尖らせ、


「ううん、それは関係ないよ、雪緒ちゃんの分は雪緒ちゃんの分でしょ。――私、昔からなんだよね、人が食べてるものって美味しそうに見えちゃって。いただきもののケーキとか、私が先に選ばせてもらったのに、お姉ちゃんが食べてるとそっちのほうが美味しそう!ってなっちゃって。よく叱られたなぁ」


ちょっとしょんぼりした様子の穂乃里の言葉に、幼いころの様子が思い浮かんで、微笑ましい。

それと同時に、どこの家も姉妹というのは似たようなものなのかなと、懐かしさのようなものがこみ上げた。



好きだったのはきみじゃない

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