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ルシナさんとおれは、ルタットの町に入ってすぐにバヴァルを抱えながら町を出ることが出来た。
スキュラがその様子を苦々しく見ていたが、
「……何でもありませんわ。どうぞ、お気になさらず」
気分が優れないのか、その言葉を最後にスキュラは口出しをしてこなかった。バヴァルとの戦いで受けた魔石の影響が今になって響いているのかもしれない。そんなスキュラの様子に気付き、今はルティが彼女に寄り添ってくれている。おれと一緒に現れたルシナさんを見たことで何かに気付いたのかも。
「ルシナさんお一人で平気ですか? おれも一緒に行きますよ」
「いいえ、アックさんはすぐにレザンスへ移動を! きっと真実が待ち受けているはずです」
「真実ですか?」
「魔法国に行けば分かると思います。それから、ルティのことをよろしくお願いいたします」
レザンスのこともすでに何か知っていそうな口ぶりだ。
「ルティのことは……まぁ」
「もし真実を解けずたどり着けなかった際は、魔石に聞いてみるのもありかもしれません」
「……? よく分かりませんが魔石ですね?」
ルシナさんはロキュンテから助っ人を呼び、バヴァルを安静にさせながら町の中へ連れて行った。相変わらず謎の母親だが、バヴァルを保護してくれたことには感謝しか無い。
「じゃあ、最初だけおれに掴まって」
ルシナさんに聞いた通り、転送士《テレポーター》としてレザンスに向かうことにした。
「えーと、魔法国レザンス《メモリア》!」
毎度のことながら詠唱するのは面倒だ。しかし、記憶させることによって同時にスキルも上がるのは正直でかい。
「ケホッ……アック様、ほこりだらけです~! クモの巣もすごいです~」
「……わらわ、汚れたくない~!!」
「うん? ――ってことは着いたのか?」
「アック、狭くて暗いのだ! 早く外に出たいのだ!」
どこに着くか不明だったが、人けのない小屋にでも着いてしまったか?
「アックさま。先を急ぎませんか?」
「そうしたいところだけど少し待ってくれないか? 君はすぐにでも神殿洞門に行きたいだろうが、おれはレザンスに用があるんだ」
「……承知しましたわ」
ルタットの町にいた時よりも口調がはっきりしている気がする。海に近いせいもあって少しは回復した感じか。何にしてもいつものスキュラに戻ってるようで安心だ。とはいえ、やはり水棲の彼女は陸続きの旅は厳しいかもしれない。
「アック様! どこかに行くなら急ぎましょう!! そうじゃないとわたしまた勘違いされそうで怖いです~!」
「そういやそうだったな」
船でここへ初めて来た時、ルティは大変な目に遭っていた。最初の頃は大きい樽を持っていたので行商人と思われていたらしい。それはともかく、小屋を出ると昼間の陽射しが照りつけるレザンスがおれたちを出迎える。
「ウニャ~人間がたくさんなのだ! 大きな水たまりも見えるのだ~」
「シーニャ、あれは海っていうんだ」
「海? 入れるのか?」
「入れないことは無いが、うかつに入ったら駄目だぞ?」
「アックが言うならそうするのだ」
初めて訪れた時は落ち着いて周りを見られなかった。しかしこうして落ち着いて眺めると、シーニャの言うように魔法国というよりは港町のような活気さがある。
着いた場所が物置小屋だったのは仕方ないとしても。
「マスタァ、どこ行くの?」
「そうだな……」
まずは魔法ギルドに行ってみるか?
それが目的でもあるし確かめたい場所でもある。だがバヴァルが関係していたところにスキュラを連れて行くとなると、避けたい気持ちが強い。
「日が沈むまで自由行動で!」
「えぇ? アック様どちらに行かれるんですか? わたしもご一緒に!」
「いや、ルティはスキュラに付いてやってくれ」
「ほええっ!? ここに来て倦怠期が!?」
何だよ、倦怠期って。
「そうじゃなくて、ルティ。頼むよ」
お互い鈍いし勘は良くないが、察してもらいたい。
「むむっ!? か、かしこまりましたっ! そういうことなら!」
「……あぁ、頼む」
万が一ということもあるし、ルティならスキュラに抵抗出来る。それにスキュラはルティに甘い部分があるから強く出られないはず。
「シーニャとフィーサは、おれと一緒に来てくれ」
「言われずとも、シーニャはアックを守るのだ!」
「え、わらわも?」
「ずっと人化していただろうし、鞘に戻って休みたいだろ?」
「分かりましたなの」
シーニャは結構目立つし、厄介な奴が声をかけて来ないとも限らない。ここでの目的はギルドの確認だ。魔法ギルドにもう一度行って確かめなければ。
「ウニャ! アック、行く! 早く行くのだ!!」
「分かった。じゃあ行こう」