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デート「ねぇ柊くん、エイム今日悪すぎじゃない?どうしたの?ちゃんと寝てる?」
「あ〜、ちょっと喧嘩して右手痛めたんだ。」
「えぇ、喧嘩?」
「そうだよ。……まあ、ぼこぼこにしたけどね。」
呼吸をするみたいに、平気で嘘を吐く。
こんな自分が嫌いだ。
でも、好きな子の前では少しでもかっこつけたかった。
「ふふ、意外と強いんだね。」
「意外とって……」
「そういえば今日ね、美味しそうなカフェ見つけたんだ。」
「へぇ、どこ?」
「Milky Cloverってお店。サイト送るね。すごくおしゃれだったの。」
「うん……あれ、ノワって東京?」
「そうだよ。柊くんも?」
「うん。なんか近いんだなって思って。」
「そっか……。じゃあさ、二人で行ってみない?このままゲームだけで終わるのも、もったいないし。」
「え……」
「……ほら、ここまで仲良くなったし、会ったらもっと話しやすいかなって。」
「全然いいよ。嬉しい。」
「よかった。あ、そうだ、年齢だけ教えて?」
「17。」
「同い年だね。なんとなくそんな気はしてた。」
「ノワ、俺と同い年なんだ。もっと年下かと思ってた。」
「声が幼いってよく言われる。」
「あ、俺も予定あるから落ちるね。」
「うん。また連絡するね。」
「うん。」
ヘッドフォンを外すと、心臓が耳の奥でうるさく鳴っていた。
本当に会うなんて、夢みたいだ。
服を買うべきだろうか。
それとも筋トレ?
携帯を手に取って、焦ったように「初めてのデート 準備」と検索をかける。
ピコンと通知が鳴る。
ノワからだ。
「ねえ、明日って急すぎる?」
目を見開く。
急だけど、断る理由なんてない。
「大丈夫。何も予定ないから。」
「よかった。何時がいい?」
「いつでも。」
「じゃあ10時に駅前ね。」
「うん。」
「楽しみにしてる。」
「俺も。」
指先が震えてうまく文字が打てなかった。
頭が真っ白になるくらい嬉しかった。
**
当日。
駅前は休日の朝のわりに人が多かった。
太陽を隠すように、一本の飛行機雲がのびている。
「……柊くんですか?」
振り返ると、小柄な女の子が立っていた。
白いワンピースが風に揺れて、少し寂しそうに笑っていた。
「あ……うん、ノワ?」
「うん、会えて嬉しい!」
「……うん。」
「柊くん緊張してる?」
「え……まぁ、ちょっと。」
「かわいいね、じゃあ、行こ?」
ノワが自然に俺の腕に触れた。
とっさに、喉が詰まったように息が止まる。
「痛かった?」
「え……」
触れられたところが、少しだけひりついた。
白い包帯の下に隠した、深い赤の線。
「あ、いや、大丈夫。」
「そっか、大丈夫なの?」
「……うん。喧嘩っていうか、ちょっと色々あって。」
「ふふ、無理しないでよね」
小さな声でそう言うと、ノワは笑った。
まるで全部知っているような顔で、でも何も知らないんだろうとも思った。
胸の奥が、変にざわざわする。
でも、そんなことを考える余裕なんてなかった。
今日はきっと、人生で一番特別な日だと思ったから。
「う〜ん、柊くんは何頼む? 」
「え、パンケーキにしようかな、」
「いいね、じゃあ私も同じやつにしよ〜」
「実はね、今日誘ったのも色々話したいことあるんだよね〜」
「え、、なに?」
「ふふ、1つ目、私はあと半年しか生きられません、」
「…え?」
「びっくりした?」
「びっくりって言うか、なんで??」
「世界に数人しかいない難病にかかっちゃったんだ。」
「それって、、?」
「薄明症候群、細胞のエネルギーがどんどん透明になって、体が透明になっちゃうんだって」
「じゃあ、もう長く生きられないってこと?」
「そう、もう泣いたところで元気になるわけじゃないから私も泣かないし、柊くんも泣かないでね?」
「なんで諦めるんだよ、もっと治療とか出来ないのか?」
「無理だよ。」
今まで柔らかかった彼女の声が鋭く冷たい声になる
「…わたしにはもう先がないんだって、」
「俺…」
「ん?」
「ノワのこと…」
心臓がうるさい。
『好き』
柔らかい声と自分の声が被る。
「え?」
「本当に好き、柊くんのこと。
あ、あと私の名前は透花。雪村 透花」
「透花…」
「うん。」
「透花が好きだ」
「…うれしい」
彼女は大粒で綺麗な涙を流した。