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演奏室の隣、寝室のドアをノックする。

ガチャとドアが開く。

そこには寝間着姿のルイスがいた。


「……来たか」

「うん」


ルイスは一歩引き、私を部屋に招き入れる。

この部屋は初めて入る。

壁紙、カーテン、絨毯を青系統で統一されており、それら全て薔薇の模様があった。

青は夫人が好きな色で、彼女の名前が薔薇に由来するからだ。


「豪華な部屋だよな。ここって、客間じゃないんだよな」

「クラッセル子爵と夫人の寝室だった部屋」

「だった?」

「クラッセル夫人はマリアンヌが九歳の時に病気で亡くなったの」

「……そうか」


部屋の周りをみていた私にルイスが話しかける。

客間に通されるだろうと思っていたのに、それよりも豪華な部屋に通され、戸惑っているようだった。

私はルイスに簡単にこの部屋について説明する。

悟ったルイスは、しばらく黙り込んだ。


「えーっと……」


沈黙が流れ、きまずくなったのか、ルイスは私に背を向け、ぽりぽりと顔をかいていた。

私はベッドの傍のテーブルに瓶を置く。


「今日はね、ルイスに甘えに来たの」

「お、おう……」

「どうして恥ずかしがるの?」


私はルイスの背に抱きついた。

ルイスに甘えられるのは、今日と明日。

素直な気持ちを伝えたのに、ルイスは照れていた。

いつもはルイスの方から甘えてくるのに。立場が逆転している。


「今夜ロザリーが部屋に来るとは思わなくて……」


目の厳しいクラッセル邸では、何もないだろうと油断していたみたいだ。

気持ちが落ち着いたのか、ルイスが振り向いてくれた。


「……いいのか?」


ルイスは私の顔を見つめ、合意を求める。

恋人の寝室に訪れた。

それは朝まで一緒に過ごしていいのかという確認だ。

私はコクリと頷く。


「ああ、触れられないと思った」


ルイスが私の腰に触れる。私は彼に抱き上げられ、優しくベッドに下ろされる。

私はベッドに仰向けになり、私の身体に覆いかぶさったルイスの顔を見つめる。

ルイスの手が私の寝間着のボタンを一つ、二つと外してゆく。


「ロザリー、愛してる」

「……私もよ。ルイス」


互いに愛の言葉を囁き、私とルイスは愛し合う。

一年、会えなくなる寂しさを埋めるように。

ルイスの感触を忘れないよう、一つ一つ確かめるように。



翌朝。

私とルイスは同じ時間に目覚めた。

メイドがドア越しに目覚ましのベルを鳴らしたからである。

中に入ってこなかったのは、私たちを気遣ってことだろう。


「おはよう、ルイス」


声をかけると、目覚めのキスが返ってきた。

恋人らしい朝を迎え、私は鼓動が跳ね上がった。


「ロザリー、フォルテウス城へ帰らないでくれ」

「……トキゴウ村でも聞いたわよ」


似たようなことをトキゴウ村で聞いた。

トキゴウ村では、クラッセル子爵のとの約束を優先して、誘惑を断ち切ったが、今回は私もルイスと同じ気持ちだった。

一日でも長く、ルイスと一緒に居たい。甘えたい。

フォルテウス城へ帰ったら、今年の騎士勲章授与式までルイスに会えなくなるのだから。

その期間は約一年。

それまでルイスに触れることも、声を聞くこともできない。

手紙だって、うまくいくかどうかも分からない。


「……プレゼント。楽しみにしてる」

「そうだな。早く街に出かけるために、起きなきゃな」

「うん」


今日はルイスからプレゼントが貰える。

とても楽しみな日だ。

私とルイスはベッドから起き、一緒に部屋を出た。

朝食を食べ、身支度を整え、広間へ向かうと、ルイスは玄関にいた。


「ロザリー、行ってくる」


ルイスが玄関にいるのは、街へ出掛けるため。

私とお揃いのアクセサリーを買うためだ。

私はルイスをぎゅっと抱きしめ、少しの別れを惜しんだ。


「あら? ルイス、帰ってしまうの?」


マリアンヌが私たちに声をかけてきた。彼女はウトウトしながら踊り階段を一段ずつゆっくりと降りている。

朝が弱いマリアンヌは例のごとく、朝食には現れなかった。

きっと今から食事をするのだろう。


「街へ出掛けるんだ。ロザリーのプレゼントを買いにな」

「まあ! それは素敵ね」


ルイスは用件を短くマリアンヌに伝えた。

それを聞いたマリアンヌは眠気が吹き飛んだのか、目をキラキラと輝かせ、嬉々とした表情を浮かべていた。


「一緒に行くの?」

「いいや、俺一人で。ロザリーが街に出たら行方がバレるだろ」

「あらまあ」


一緒に出掛けるのか尋ねられた。

しかし、今の私はフォルテウス城を飛び出した身。私の行方を国内の騎士や兵士たちが捜索している。クラッセル領内も例外ではない。

見つかったらすぐにフォルテウス城へ戻される。皆から引きはがされる。


「だめよ! 一緒に行った方がいいわ」

「マリアンヌ、私は――」

「大丈夫! 私にいい考えがあるの」


目が覚めたマリアンヌは、階段を駆け上がる。

行き先を目で追うと、彼女は私の部屋に入っていった。

私の部屋に何かあったかしら。

マリアンヌの行動の意図を考えても何も浮かばない。

少しして、マリアンヌが私たちの元へ戻ってきた。


「はい、これ!」

「あっ」


マリアンヌが私の部屋から持ち出したのは、金髪のカツラ。

変装した時に使っていたものだ。

目的が終わった後は、部屋のクローゼットに眠っていた。

私はマリアンヌからカツラを受け取る。

マリアンヌに変装するのだ。

そうすれば、ルイスと街へ出掛けられる。


「ルイス……、少し待っていてくれるかしら」


私はルイスに声をかける。

ルイスはこくりと頷く。


「デートするんだもの! おめかしもしないとね!!」


マリアンヌは私の背を押す。

私は再び”マリアンヌ”となり、ルイスと街へデートすることになった。

拾われ令嬢の恩返し

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