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「……ふふっ、嘘みたい。さっきまであんなに賑やかだったのに、今は祭りの余韻だけが静かに残っている。
紙灯りの明かりがまだ少し揺れていて、人の気配も遠くに残っているのに、なぜか心の奥がこんなにも穏やかで、静かなんだ。
山にいた頃は、こんな世界があるなんて想像もしなかった。
人の匂いも、声も、まぶしくて、うるさくて、それでも……あたたかかった。
誰かと笑い合う声、無邪気にはしゃぐ子供の姿、家族で並んで歩く背中……
どれも、私の知らないものだった。触れることも、感じることもできなかった。
最初はただ、少しだけ遠くから見てみたかっただけ。
でも今は……もっと近くで、生きて、感じてみたいと思うの。
喜びも、痛みも、戸惑いも——すべて、人として。
だから……この九本の尾も隠して、この尖った耳も静かに伏せて、
ただの一人の人間として、ここにいようと思う。
人の姿を借りることは、もう“仮のもの”じゃない。
この世界の空気を吸って、この足で地を踏みしめて、この手で誰かに触れて……
それを、自分のものにしてみたい。
……ねえ、きっと大丈夫だよね?
誰にも気づかれないように、ちゃんと尾をしまって……
私はここで、生きていくんだ。
この静かな夜が、朝を迎えるように、私の新しい日々も始まる。
まだ知らないことばかりだけど、怖くはない。
だって、今の私は、ここにいるから。
……さあ、明日はどんな風景が待っているんだろう?」