テラーノベル
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第9話 Xの初登場
装甲列車の内部に、重い沈黙が落ちた。
モニターには、過去のK-Tとレイの戦闘映像が映り続けている。
若いK-Tが刀を抜く。
若いレイが大剣を振り下ろす。
二人の刃が衝突し、画面の中で火花が散った。
その前に立つ男――Xは、穏やかな笑みを浮かべていた。
「俺は、お前の二十年後だ」
K-Tは刀を構えたまま、Xから目を離さない。
「ふざけるな」
「そう言うと思っていた」
「俺に未来の姿はない」
「未来は、本人の許可を取らずに訪れる」
Xはそう言いながら、コートの襟を整えた。
金髪が、列車内の風に揺れている。
右目には、傷痕が刻まれていた。
右腕を隠すように、長いコートの右袖が垂れている。
メバルたちは、その袖の中を確認できなかった。
ただ、K-Tだけは見ていた。
Xが歩くたび、右袖が揺れている。
しかし、布の内側にあるはずの腕の重みがない。
「二十年後って、本当にKさんなの?」
メバルが尋ねた。
「顔は少し違うけど……立ち方は、確かに似てる」
「立ち方まで記録されている」
アオノがモニターを見ながら言った。
「Xは、K-Tの戦闘姿勢を完全に再現している」
「再現ではない」
Xが答える。
「俺はK-T本人だ」
レイが大剣を展開した。
刃が伸び、列車の天井すれすれまで達する。
「なら、証明しろ」
「レイは、最初に大剣を横薙ぎに振る」
Xが言った。
レイは動きを止めた。
「次に、刃を折りたたむ。短い形で間合いへ入り、右足を踏み込む」
レイの目が鋭くなる。
「過去の映像を見ているだけだ」
「そう思いたいなら、それでもいい」
レイが踏み込んだ。
大剣が横薙ぎに振られる。
Xはすでに後ろへ下がっていた。
大剣の刃先が、Xのコートをかすめる。
レイは刃を折りたたみ、短い形へ変えた。
そのまま懐へ踏み込む。
#異世界転生
K-Takasaka
141
K-Takasaka
154
K-Takasaka
65
#タイムループ
しかし、Xは右へ移動し、レイの攻撃を紙一重でかわした。
「次は、柄で左肩を狙う」
Xが言う。
レイの動きが止まった。
まるで彼女の身体が動き出す前から、すべてを知っているようだった。
「私の戦い方を知っている」
「知っているだけではない」
Xはレイの腕をつかみ、わずかに引いた。
レイの体勢が崩れる。
Xは攻撃せず、距離を取った。
「お前が何を考え、どの瞬間に迷うかも知っている」
「私が迷う?」
「お前は大剣を振り下ろす直前、必ず相手の足元を見る」
レイが一歩下がった。
その事実を、彼女自身が理解していた。
K-Tが刀を振り抜いた。
Xは、刀身を見ずに身体をひねった。
「その抜刀も知っている」
刀がXのコートの前を通り過ぎる。
K-Tは二撃目を放った。
Xは首を傾けてかわす。
三撃目。
Xは半歩だけ下がった。
四撃目。
XはK-Tの肘を押し、刀の軌道をそらした。
「右から二度。次に下段。最後に柄で打つ」
Xの言葉どおり、K-Tの攻撃は続いた。
K-Tは途中で動きを変えた。
刀を引き、左手のトンファーへ持ち替える。
トンファーがXの脇腹を狙う。
Xはすでにそこにいなかった。
背後へ回り込んだXが、K-Tの手首を蹴る。
刀が床へ落ちた。
「Kさん!」
メバルが叫んだ。
K-Tはすぐに後ろへ飛び、拳銃を抜いた。
Xがわずかに身体を沈める。
銃声。
弾丸はXの耳元を通り過ぎ、背後の壁へ突き刺さった。
「その射撃も知っている」
「なら、これはどうだ」
K-Tは二発目を撃った。
弾丸はXではなく、列車の天井に設置された照明へ向かう。
照明が破裂し、車内が暗闇に包まれた。
K-Tの姿も消える。
メバルたちには、何が起きているのか分からない。
金属音だけが、暗闇の中で続いた。
刀と何かがぶつかる。
トンファーが空気を切る。
Xの足音が一つ。
K-Tの足音が二つ。
「右!」
メバルが叫ぶ。
しかし、彼女が指した場所には誰もいなかった。
暗闇の中で、Xが笑う。
「仲間の声に反応する」
Xの声が反対側から聞こえた。
「その癖も変わっていない」
K-Tが無言で発砲する。
今度の弾丸は床へ当たり、跳ね返ってXの足元へ向かった。
Xは跳躍してかわした。
空中で身体をひねり、列車の壁を蹴る。
そのままK-Tの背後へ迫る。
K-Tは振り向かず、トンファーを後ろへ突き出した。
Xの手がトンファーを受け止める。
「その動きは、俺が教えた」
K-Tが言った。
「そうだ」
Xは答えた。
「だから知っている」
Xはトンファーを押し返し、K-Tの腕をひねった。
K-Tの右肩が大きく引かれる。
Xはそのまま肘打ちを狙った。
K-Tは身体を沈め、Xの左足を払った。
Xは倒れず、片足で着地する。
二人の距離が一瞬だけ開いた。
その隙に、アオノが列車の非常灯を復旧させた。
車内が赤い光に照らされる。
K-TとXが向かい合っていた。
K-Tの刀は、床に落ちている。
Xの左手には、いつの間にか短い刃物が握られていた。
「Kさん、刀!」
メバルが叫ぶ。
K-Tは視線を動かさず、左足で刀を蹴り上げた。
刀が宙を舞う。
K-Tは片手で柄をつかんだ。
そのまま、Xへ斬り込む。
Xは短い刃で受けた。
刀と短刃が噛み合う。
「お前は、俺の未来じゃない」
K-Tが押し込みながら言う。
「なぜそう思う」
「俺は、そんなふうに笑わない」
「未来では笑えるようになった」
「嘘だ」
「なら、他の記憶を話そう」
Xは刃を押し返した。
「二十年前、お前は仲間を守るため、一人で任務へ向かった」
K-Tの動きが止まる。
「帰還予定は午前二時。だが、お前は午前四時まで戻らなかった」
「……」
「仲間たちは、お前が死んだと思った」
「その話を、どこで知った」
「俺が経験した」
Xは静かに言った。
「その後も、お前は何度も一人で戦った。仲間を危険に巻き込みたくないという理由でな」
メバルたちは、K-Tを見た。
K-Tは何も答えない。
「そして、最後には仲間を守るために――」
「黙れ」
K-Tが刀を振り抜いた。
Xは初めて、大きく後ろへ退いた。
刀身がXのコートを切り裂く。
右袖の布が裂けた。
中から、何かが落ちることはなかった。
袖は空っぽだった。
しかし、赤い非常灯の影が、Xの右側を覆っていた。
メバルたちには、Xの右腕がないことが見えない。
K-Tだけが気づいた。
Xの右袖の中には、腕がない。
K-Tは刀を下ろさなかった。
「右腕は」
Xは、わずかに顔をしかめた。
「今、それを聞くか」
「答えろ」
「未来の傷を知ったところで、現在の戦いには関係ない」
「俺の右腕なのか」
「そうなる可能性がある」
「なぜ失った」
Xは答えず、短い刃物をコートの内側へ戻した。
「過去を知ったところで、未来は変わらない」
K-Tが一歩進む。
「それを決めるのは、お前じゃない」
Xの背後で、列車の奥の扉が開いた。
その向こうに、青白い光を放つ装置が見える。
転送装置だった。
アオノが端末を確認する。
「空間転送装置。出力が上昇している」
「逃げるつもり?」
メバルが剣を構えた。
「今の俺では、まだお前たちを倒せない」
Xが言う。
「まだ?」
「記憶が足りない」
XはK-Tを見つめた。
「お前たちが戦うほど、俺は多くを思い出す」
「何を思い出す?」
「お前が何を失い、なぜ俺になったのか」
Xが転送装置へ下がる。
K-Tは追おうとした。
しかし、装置の周囲から衝撃波が放たれた。
メバルたちは腕で顔を覆う。
Xの姿が青白い光に包まれていく。
「待て!」
K-Tが叫ぶ。
Xは最後に、長いコートの右袖を揺らした。
「次に会うときは、俺の知らない動きを見せてみろ」
「次は逃がさない」
「それは、俺も知っている」
光が弾けた。
Xの姿が消える。
列車の内部には、静寂だけが残った。
転送装置は停止している。
床には、Xが残した小さな金属片が落ちていた。
アオノが拾い上げる。
「記録媒体だ」
「Xの?」
「おそらく」
K-Tは刀を鞘へ戻した。
その表情は、いつもより硬い。
レイが彼の横に立つ。
「本当に、あれはお前の二十年後なのか」
「分からない」
「だが、記憶は一致している」
「それだけでは証拠にならない」
「右腕のことは?」
K-Tは答えなかった。
メバルが心配そうに見上げる。
「Kさん、何か知ってるの?」
「知らない」
「でも、Xの袖を見たとき、何か気づいてたよね?」
K-Tは、暗い列車の窓を見つめた。
「右腕がない」
全員が振り返る。
「え?」
カキが聞き返した。
「Xの右腕だ」
「ないって、どういうこと?」
「コートの中に腕がなかった」
アオノが記録媒体を調べる。
「映像を確認する」
しかし、保存されていた映像では、Xの右側だけが強く黒く塗りつぶされていた。
意図的な加工だった。
アオノが画面を見つめる。
「誰かが右腕の映像だけを隠している」
K-Tは、Xが消えた場所を見ていた。
地下駅の遠くで、停止していた列車が再び動き始める。
線路の先には、さらに深い地下空間が続いている。
そこから、機械音声が響いた。
『未来転送を確認』
『Xの記憶、第一段階を更新』
『次の接触まで、残り六時間』
K-Tが刀の柄を握る。
レイは大剣を折りたたんだ。
「追うか」
「今は戻る」
K-Tが答える。
「仲間を鍛える必要がある」
メバルは驚いた。
「Xと戦うために?」
「そうだ」
K-Tは、列車の奥に残された暗闇を見つめる。
「次は、全員で戦う」
その言葉を聞いた瞬間、列車の最後尾にあるモニターが点灯した。
そこには、Xの顔が映っていた。
録画映像だった。
Xは画面越しに、K-Tを見つめている。
「お前たちは、まだ何も知らない」
映像のXが静かに告げる。
「この町が、何のために作られたのかも」
画面が暗転する。
列車の奥で、別の扉が開いた。
その先には、五つの巨大な封印装置が並んでいた。
コメント
1件
第9話、一気に読んじゃったよ…!!Xの登場シーン、もう最初から緊張感やばくない?!「俺は、お前の二十年後だ」って台詞だけで鳥肌立ったよ😭💕未来の自分が敵として現れるって設定、めっちゃエモいし、何よりK-Tの動きを全部読んでる感じがもう最強キャラ感あって震えた!! でも個人的に一番グッときたのは、Xの右腕がないって気づいたときのK-Tの反応。未来で何があったんだろう…って考え始めたら止まんないよ…!戦闘シーンもすごく丁寧で、二人の動きが目に浮かぶようだった🌟次の話が待ち遠しすぎる!!続き楽しみにしてるね🌸