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おかえりなさい。遅かったですね。
いや、あのシジマさんにつかまってこの数時間で帰って来られたのはラッキーとでもいいましょうか。
次は…どこでしたっけ。
そうだ、音楽室ですね。
音楽室…
君は好きですか?
私は…正直、学生の頃からずっと、あまり好きな場所ではないですね。
音楽とは、不思議なものです。
言葉に出さなくても、人に何かを伝えることができる。
だから、 でしょうか。
ここには、伝わらなかったものも多く残留するようで。
そこの楽器、触ってみて下さい。
いや、いきなりじゃなくて。
ちゃんと楽器に敬意を表してからですよ。
はい、おっけーです。
楽器に喉笛噛みちぎられたくなかったら普段から大切に扱ったほうがいいですよ。
鳴らない、ですか。
そうですね。ここの楽器は鳴らないんです。
ごくたまに、鳴ることもありますけど。
楽器も人を選ぶってことですね。
…なんで知ってるか?
そんなのどうでもよくないですか?
どうでもよくない、と。
昔鳴らしたことがあるからです。
上手かったか?
さぁ、どうでしょう。
いや、鳴ったから上手いってわけでもないんじゃないですか。
あ、そのピアノは触らないほうが…。
あなた、 本当に人の話を聞かないですよね。
平和に呼ぶ方法もあったのに。
…どうも。お久しぶりです。
はい。こちらが今回ピアノを鳴らした人間です。
はは。私じゃないですよ、 何言ってるんです?
…それは昔の話でしょ。なんで知ってるんですか。
ああ、そうだ。紹介します。
この方は、七不思議3番。音無しの音楽室の主、シノノメさんです。
『音無しの音楽室』自体、結構新しい怪談なんですよね。
動くベートーベンの肖像画、とかひとりでに鳴るピアノ、とかと比べると。
ただ…聞いて欲しいって欲望が、世界中のピアノに少しずつ蓄積し続けた結果、それがこの学校に集まってここが生まれたので、力は古参勢に負けず劣らずなんですよねぇ…
そして、普通怪異というものは原因となった場所や感情が限定されます。
例えば、学校の教室、とか、廊下、とか。
ですが彼の場合、世界中の音に関する感情が混ざっています。
なので、何をきっかけに機嫌を損ねるか、正確な判断が難しいんですよねぇ。
ま、簡潔に言うと管理がしにくいってことですね。
比較的新しい怪異なのに、私を知ってるって。
羽海汐遠
11,882
雪凛❄️🎨
44
#狂気
金華にょこ
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央雅
102
あなたは一体…
…そうでした。今は案内人ですよね。
この方、シノノメさんについて説明しておきますね。
彼は、たしかに音楽室に残った怪異です。
ただし、音楽室そのものから生まれたわけではありません。
人は昔から、音を使って何かを伝えてきました。
言葉にできない感情。
届かなかった想い。
誰にも聞かれなかった演奏。
そういう「伝えたかったのに届かなかった音」が、長い時間をかけて少しずつ積み重なった。
それが、シノノメさんです。
だから彼は、音を鳴らしてほしがる。
鳴らした誰かに聞いてほしいんですよ。
ずっと、待っていたから。
だからと言って、私のことをぺらぺらと話していい理由にはなりませんよ。シノノメさん。
私は案内人。
暴かれる側じゃない。
昔は、そうですね。ピアノに触れたことはありますけど。
…もうそろそろ、よろしいですか。
私を案内する時間じゃないんです。
はい、何でしょう。
…私が何者か?
また同じことを聞くんですね。
人間さん、よく聞いて下さい。
それはあなたが外に出るために必要ないことです。
故に、私に答える義務はありません。
もう一度言います。
この時間は、私の時間ではない。
『音無しの音楽室』の時間です。
シノノメさんも。
笑ってないで真面目にやってもらえますか。
いくら私の過去を少しばかり知っているからといって、今の私を知っているわけではないでしょう。
にやにやしてないで。
今優先するのは、この人間があなたを知ること。
私のことはどうでもいいんです。
私のすべてを知ったような発言は謹んで下さい。
…あなたはそんなこと言わない人だった?
そうですかそうですか。昔はもっと素直だったかもしれませんね。
ただ…。
私は『管理者』なので、心苦しいですがあなたを消すこともできるんですよ。
…まぁするつもりは今のところないですけど。
もう昔とは違う。
そこだけ、ご理解下さい。
では、改めて、『音無しの音楽室』について説明します。
ん、なんですか、人間さん。
ピアノ?私ですか?
弾けますよ、一応。
弾いてみてほしいんですか?
やめといたほうがいいんじゃないですかね。
少なくとも、私もシノノメさんも君の世界のモノじゃないのでね。
…シノノメさん。
私は弾きませんよ。
…覚えてる?何を?
私の、音ですか。
昔の私は一曲、真剣に弾いていた?
それは…あなたを呼び出すためですから。
今の私は、あの音を出せない、なんて当たり前でしょ。
人は変わるから…ではありませんよ。
昔の私と今の私は、生物的にも精神的にも違うものですから。
あなたは、同じ、だと思っているんですね。
これだから困るんです。
私は、音楽を捨てたんじゃないし、 音楽から完全に離れたわけでもない。
昔は誰かに届けようとしていた音が、今は案内人として人間を案内する言葉になっているだけです。
……失礼しました。
すっかり私の話になっていましたね。
君に説明している途中でした。
彼は、音を求めています。
ただ、演奏を聞きたいわけではありません。
上手い音も、綺麗な音も、彼にとっては重要ではない。
彼が探しているのは――
「誰かに届いた音」です。
鳴りませんか?
…あら。
嫌われましたね。
シノノメさんは、誰でもいいわけではありません。
音を届けたい相手を選んでいるんです。
何か、弾きますか?
…きらきら星、ですか。
懐かしいような。そうでもないような。
弾き終わったんですか?
ちゃんと鳴ってましたよ。
…だから弾かないって。
1音だけ?
はいはい。
…変わりました?当然です。
音は不思議なものです。
消えたあとも、残ることがあります。
誰かの記憶に。
誰かの心に。
そして、時には怪異として。
皆さんも、鳴らないピアノを見つけた時は注意して下さい。
近くに、 背の高い男の人が いたなら。
それはもう、あなたの知る世界ではないかもしれません。
それから…楽器は丁寧に扱うこと。
何をされるか、分かりませんよ。