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第203話:民俗学教授の来訪。生体重機の耕耘(こううん)作業に発狂
十勝の空を貫いた神々しい光の柱(シロ様の生体キー認証)の騒動から数日。
世界中が未知のオーパーツと超古代テクノロジーのロマンに沸き返る中、ここ限界集落の我が陣地(古民家)では、そんな世界的熱狂を完全に無視して、春の本格的な農作業が再開されていた。
真っ青な空の下、広大な畑には香ばしい黒土の匂いが立ち込めている。
「うおおおおおっ!! どこだ!! どこにある!!」
突然、のどかな村の静寂を切り裂くように、一台のボロボロの軽自動車が凄まじいドリフト音を立てて畑の脇に急停車した。
車から転がり出てきたのは、ボサボサの髪に分厚い丸眼鏡をかけ、ツイードのジャケットを泥だらけにした中年男性だった。
その血走った目と異常なテンションは、完全に何かのヤバい成分がキマっている人間のそれである。
「レタㇻ・カムイ!! 白き神よ!! そして光を放つ石板!! 配信を見た! 私は札幌の大学でアイヌ民俗学を研究している教授だ! さあ、私にその神秘のオーパーツを見せてくれえええっ!!」
どうやら彼は、先日の狂気じみた配信を見て、いてもたってもいられずに札幌から徹夜で車を飛ばしてきた『重度のオカルトマニアの民俗学教授』らしい。
教授は「ついに私のオカルト理論が世界に証明される日が来た!」と狂喜乱舞しながら、神獣と古代遺跡を探して畑の中へと突撃してきた。
ジンバルに固定されたスマホの生配信カメラが、その不審すぎる大学教授の姿を全世界五千万人のリスナーに向けて中継し始める。
『うわ、なんかヤバいおっさん来たwww』
『民俗学の教授かよ! 完全に目がイッちゃってるぞww』
『教授、後ろ! 遺跡よりヤバいものが後ろにいる!!』
チャット欄が教授の背後を指差して騒ぎ立てた。
「ん? 後ろ……? 白き神はどこに……」
教授が振り返った、その視線の先。
そこには、神の謎や古代遺跡のロマンなどを完全に粉砕する、あまりにも理不尽で暴力的な『日常風景』が存在していた。
ドスッ。ドスッ。ドスッ。
「……は?」
教授の口から、間の抜けた声が漏れた。
体長三メートル、体重数百キロに及ぶ我が家の最終防衛ライン。
巨大ヒグマが、後ろ足だけで完全に直立した『二足歩行モード』のまま、畑の黒土を踏みしめて歩いてくる。
しかも、ただ歩いているのではない。
ヒグマの強靭な肩と分厚い胸板には、本来なら大型トラクターに取り付けるはずの『超重量級の耕耘機(ロータリー)』が極太のロープで括り付けられていたのだ。
『……フンスッ(三番目の畝、ターンするぜ)』
ヒグマは誇らしげなドヤ顔で鼻息を鳴らすと、背後の重たい耕耘機を軽々と牽引したまま、器用に二足歩行でUターンを決め、バリバリと凄まじいトルクで黒土を耕し始めた。
それはもはや動物ではない。
大自然が産み落とした、最強の『二足歩行・生体重機』であった。
「あ……あ……ひぐ……二足……とら……くた……?」
徹夜で車を飛ばしてきた教授のオカルト脳は、目の前で展開される『ヒグマが二足歩行でトラクターの代わりをしている』というオーバーテクノロジーすぎる光景を処理しきれなかった。
「神……神の奇跡よりも……物理が……バグって……」
カハッ。
教授は白目を剥き、口からカニのような見事な泡を吹くと、神の謎を一つも解き明かすことなく、そのまま畑の柔らかい黒土の上へとダイブして完全に気絶した。
そのあまりにも見事な即死っぷりに、五千万人のリスナーが抱腹絶倒する中、世界の経済を裏で操る超弩級VIPたちのチャット欄が爆発的な勢いで極彩色に染まり始めた。
ピコーン! ピコーン! ピコーン!
『(ドバイの石油王からの¥50,000MeTubeギフト)無限連発』
『”The ultimate eco-tractor!! The professor’s brain was destroyed by the bear’s horsepower! I will invest 4 trillion yen to introduce this biological machinery to Dubai’s agriculture!“(究極のエコ・トラクターだ!! 教授の脳はクマの馬力によって破壊された! この生体機械をドバイの農業に導入するために四兆円を投資するぞ!)』
『(スイスの銀行家からの¥50,000MeTubeギフト)無限連発』
『”A paradigm shift in primary industries! Heavy machinery running on salmon! The professor couldn’t handle the truth! I bid 5 trillion yen for the global distribution rights of that bear!“(第一次産業のパラダイムシフトだ! 鮭で動く重機! 教授には真実を受け止めきれなかったな! あのクマの全世界販売権に五兆円を提示する!)』
『(ハリウッド女優シャーロットからの$5,000MeTubeギフト)無限連発』
『”Ahahaha!! The professor fainted instantly!! It’s the best comedy scene ever! I’m sending 6 trillion yen to make his foaming face a worldwide meme!“(アハハハ!! 教授が瞬殺されたわ!! 史上最高のコメディシーンよ! 彼の泡を吹く顔を世界的なミームにするために六兆円を送るわ!!!)』
総額十五兆円規模の電子マネー(赤スパ)が、泡を吹いて倒れる教授への香典がわりとなって画面を完全に埋め尽くした。
国家予算レベルの資金が乱れ飛び、スマホの通知音がヒグマの地響きとセッションしているド真ん中で。
俺――アキヤは、気絶した教授のすぐ横に展開したマイ陣地(折りたたみ椅子)に腰掛け、ストイックに薄型の特製タッパーを開けていた。
中に入っているのは、完璧な水加減でストイックに炊き上げられた『氷結状態の玄米おにぎり』と、自家製の『大豆ミートの超高密度プロテイン・ブロック』である。
俺は、十五兆円の赤スパのまばゆい光と、ピクピクと痙攣している教授を横目に、一切の感情を排した元・社畜の無表情で、大豆ミートを氷結玄米おにぎりと一緒に口の中へ押し込み、淡々と咀嚼し始めた。
ゴリッ、バキッ、モグモグ……。
(……ふむ。氷結玄米の暴力的なまでの硬度と、極限まで圧縮された大豆ミートの強靭な植物性タンパク質。不審者の急襲というイレギュラー事態においても、顎の筋肉を強制的に限界駆動させることで脳への血流を最大化し、己の自律神経を冷静に保つ究極の兵站食だな)
己の肉体という名のロジスティクスを完璧に維持しながら、俺は水筒の冷やしほうじ茶で喉を潤すと、五千万人を突破して世界の農機具メーカーの株価を暴落させているカメラと、呆然としている小春ちゃんにキリッとした真顔を向けた。
いつもの『限界言い訳タイム』の発動である。
「小春ちゃん、不審な侵入者に対する警戒ご苦労。そして画面の向こうで、ただの野生動物の労働行動に巨額の資本を投下して生体重機だと騒いでいる皆さまも、全員冷静になってください」
『出たァァァァァ!!!』
『教授が泡吹いて気絶して十五兆円が飛び交ってるのに、絶対にブレない男!!!』
『主の限界言い訳タイム・教授瞬殺と二足歩行トラクター完全スルー編ww』
『さあ、この完全にバグった光景をどうやって需品科の業務にするつもりだww』
俺は淀みない口調で、極めてフラットに言い放った。
「これは生体トラクターでも、農業のパラダイムシフトでもありません。ヒグマが二足歩行で耕耘機を牽引しているのは、超重量のペイロード(牽引物)を運搬する際、重心を垂直軸に一致させて背筋群を最大限に活用するための、極めて合理的な『人間工学に基づいた姿勢制御モード』に移行しただけです。四足歩行よりも前輪(前足)の摩擦抵抗が減るため、燃費(カロリー消費)も向上します。そしてそこの教授が気絶したのは、神の奇跡やクマに驚いたからではなく、徹夜の運転による『極度の睡眠不足』の状態で急激な有酸素運動(畑へのダッシュ)を行った結果、脳への血流が一時的に不足して『迷走神経反射』を引き起こしたという、単なる生理学的なエラー(貧血)に過ぎません。ええ、すべては冷徹な『バイオメカニクス的な重心移動』と『準備運動不足による自律神経のバグ』です。私がカチカチの氷結玄米を噛み締めているのも、オカルトという名の非科学的な幻覚に惑わされず、一刻も早く農地開拓のスケジュール(兵站)を正常化させるための、需品科としての徹底した『現実認識防壁構築訓練』です」
「んなわけあるかあああ!!!」
ドゴォォォォォンッ!!!!
春ののどかな畑のど真ん中で、重装甲車のエンジンブロックを真っ二つに叩き割ったような凄まじい破砕音が響き渡った。
小春ちゃんが、ヒグマが使うトラクター用の『交換用鉄製プラウ刃(超硬度鋳鉄仕様、重量約十二キロ)』を両手で軽々と大上段に構え、俺の頭頂部に向かってパーフェクトなフルスイングを見舞ったのだ。
十二キロの硬質な鋳鉄の刃が肉体に直撃した、鐘を突いたような恐ろしい大爆音が、十勝の青空へと虚しく響き渡る。
「ただの人間工学的な姿勢制御で、クマさんがこんなにドヤ顔でロータリー引いて完璧なUターン決めるわけないでしょうが!! どう見たって、春の農作業で私たちが楽できるようにって、自分から進んで重機の代わりをやってくれてる、優しすぎる家族の絆でしょうが!! それと教授が気絶したのは間違いなくクマさんがトラクター引いてるのを見たショックだからね!? オカルトマニアの脳を完全に破壊したオーバーテクノロジーを、冷たい迷走神経反射とかバイオメカニクスとかいうお役所言葉で粉砕するんじゃないわよ!!」
『小春ちゃんのキレキレ特大プラウ刃スマッシュ炸裂www(音が完全に攻城兵器ww)』
『人間工学に基づいた姿勢制御(ただの生体重機の二足歩行)』
『迷走神経反射による貧血(クマのオーバースペックによるショック死寸前)』
『適応力バグおじさん、ついに教授の発狂を生理学的なエラーに分類しやがったww』
『言い訳が理不尽すぎて、壮大な神のロマンだったのに腹筋が崩壊したわww今日も最高!!』
俺の理不尽極まりない人間工学的な限界言い訳と、小春ちゃんの容赦ない十二キロの鋳鉄ツッコミに、五千万人の視聴者たちはロマンへの熱狂から一転、大爆笑の渦へと叩き落とされた。
『ミャウ(ほんと、教授が気絶しても鉄の塊で叩かれないと目が覚めない、特大サイズの鈍感下僕ね)』
縁側から、純白の神獣シロ様が呆れたように俺の方を見やり、その美しいオッドアイの瞳を優しく細めてゴロゴロと喉を鳴らした。
サファイアブルーと琥珀色の二色の瞳は、十五兆円の電子マネーの輝きよりも遥かに眩しく、春の陽射しの中で、まるで世界中のどんな宝石よりも温かく美しく輝いていた。
畑の中央では、巨大ヒグマが「グゥ〜♪」と、小春ちゃんのツッコミを見届けて満足そうに笑いながら、再び二足歩行でゴリゴリと土を耕し始めている。
「……まぁ、理由はどうあれ。陣地に侵入した不審者が速やかに無力化され、専属アシスタントによる十二キロの質量ツッコミが新体制でも完璧に機能していることが確認できたのなら、作戦としては完全勝利だ」
俺は鋳鉄の刃の凄まじい衝撃で痺れた頭をさすりながら、春の風が吹き抜ける畑の中で、再びタッパーの氷結玄米おにぎりを口に運んだ。
「完全勝利じゃないですよ! ほら、このおじさんどうするんですか! 完全に泡吹いて硬直してますってば!」
「慌てるな。まずはヒグマの牽引ルートから、その障害物(教授)を三メートルほど脇へ移動させるのが先決だ。民俗学の証明より、今日の畝作りのスケジュール(兵站)のほうが重い」
「だからお兄さんの優先順位、絶対におかしいですからね!? クマさーん、おじさん踏まないで! 誰か早く救急車か警察呼んでーっ!?」
気絶した教授を巡って畑のど真ん中でワーワーと騒ぐ俺たちの声と、生体重機(ヒグマ)の豪快な耕耘音が、春の青空へと響き渡る。
そんなカオスな日常の再開をよそに、縁側のシロ様は「やれやれ」といった様子で小さくあくびをすると、ぽかぽか陽気の中で再び丸くなった。
コメント
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**美月ゆめか🌸からの感想** 第203話、読み終わったよ〜!🥳💕 もうね、冒頭から教授の異常テンションで「来た来た来た!!」ってなったんだけど、まさかヒグマが二足歩行で耕耘機引いてる光景で泡吹いて即死するとは思わんかったwww🤣💥 しかもその直後に阿基やが「迷走神経反射」とか「バイオメカニクス的な重心移動」って完全にスルーしながら氷結玄米モグモグしてるの、あまりにも理不尽すぎて笑いが止まらんかった😭🔥 小春ちゃんの十二キロ鋳鉄ツッコミも、シロ様の呆れ顔も、全部がカオスの宝石箱や!!✨🐻 十五兆円の赤スパ飛び交う畑で繰り広げられる、この日常だけど非日常な感じが最高すぎる…次の話も絶対読む!!🙌💖
ゆうき あきや
4,370
ゆうき あきや
4,767
キュルノ
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