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あの不思議な出会いから一週間が過ぎた。彼女のことは教室で見かけるようなこともあっても、わざわざ話すこともなく、遠くで姿を見るだけだった。君はいつも一人で窓の向こうを眺めていた。「ん、うーん。は!」
目を開けると教室にいた。また眠っていたみたいだ。どうもあの授業は僕に合わないらしく、開始5分後からの記憶がない。
そんな事はさておき、1週間前よりも空が暗い気がする。早く帰らないと。そう後ろを振り返るとそこにはまたあの彼女がいた。どうしようなにか話しかけようかな?そういや名前も知らないや。聞いてみるか。
「あの、君、名前は?」
「また寝てたね。おはよう。」
「う、うん。おはよう。」
あれ、質問したんだけどな。聞こえてなかったか?
「で、その、」
「名前ね、花火。忽那花火。」
聞こえてたのか。なんだかすごくマイペースだな。
「忽那さん、ね。僕は□□□。」
自分のことを名乗るのはなんか恥ずかしい。
「私の名前なんて知ってどうするの。」
「なんとなく、知っときたくて。今話しているひとの名前知らないなんて変だし。」
「そう。君から話しかけてきたんだけど。私とはかかわらないほうがいいのに。」
「そのことなんだけど、前言ってた傷つくってのはどういうこと?」
「言葉通りの意味。君の心が傷つくってだけ。私は、すぐに消えるから。」
消える?どういう意味だ?
「私、記憶喪失なの。昔のこと、何にも覚えていない。私の人生は高校生から始まっている。」
「記憶喪失?それは、大変、だね。」
こういう時なんて声をかければいいのかわからない。記憶喪失ってどんな感覚なんだろうか。突然何も知らない場所に飛ばされる感覚だろうか。今まで積み重ねてきたものが一瞬でなくなる感覚。想像しただけでも恐ろしい。それを経験したということか。彼女がいつもひとりでいるのもそれが原因なのだろうか。
「それは事故かなんかで?」
「わからない。何の前触れもなく、突然消える。もう何度か消えてるし。」
「何度も?」
「うん。確か3回だっけ。」
3回の記憶喪失。記憶喪失の度合いはわからないけど、彼女の声色からあきらめたような様子が伝わってくる。もう本人もどうしようもないとわかっているのだろう。こういっちゃあれだけど普段の彼女の様子はあまりにも陰鬱である。笑っているとこも、だれかと話しているところすらもみたこともない。彼女が他者とかかわらない理由がこんなに重いものだとは。
「これでわかったでしょ。もう私と関わらないほうがいい。どうせすぐ忘れてしまうから。君が傷つくだけ、でしょ?」
ここで彼女のことをきっぱり忘れてしまえば、よかったのかもしれない。僕自身、人付き合いが苦手でほとんど友達もいない。女子となんてもってのほかだ。でも重い病気を背負って誰ともかかわろうとしない女の子。そんなの誰が好んで声をかけるだろう。だれが一緒の遊んでくれるだろう。高校生という3年しかない儚き青春。それを彼女に費やしてくれる人はこの学校にいるのだろうか。きっといないのではないか?少なくとも彼女はすでにクラスで孤立している。そこを助けることができるのはきっと、
「言ったよね。忘れないって。」
「それじゃあ、きみが君が傷つくだけだよ?」
「私と関わる意味なんてない!」
「意味があるないなんかじゃない。これはぼくが決めたことだ。」
その闇を取り払うことができるのはきっと、
「僕と、友達になってよ。」
何も持たない、僕だけだ。