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「遂に……終焉の扉が開かれたね」
エルドアーク地下宮殿にて、事の顛末を見届けるノクティスが、モニター内にて『最終段階』に到達した事を感慨深く呟いた。
エンペラーが弾き出した、レベル『400%』超が持つ、その本当の意味。
「しかし『時空障壁』フィールド外で、こうなったからには最早……。どうなりますかね、彼等は?」
霸屡の危惧からも、ただ事ではないのが伺える。
「まず全滅だろう。最早これは、闘いが成立するといった次元の話では無いからね……」
それ処か、ノクティスはあっさりと雫達の全滅を断言した。
闘いが成立しないとは、どういう事なのか。
「第三マックスオーバー。それは人が神の領域に突入した証……」
ノクティスはその訳を、ゆっくりと語り始めた。
「だが人は生み出してしまった。神をも超える、宇宙の理にも囚われぬ存在を……。それが最終第四マックスオーバー、レベル『400%』超の領域に在る者。それがユキと……」
“いや、ユキは違うか……。本当の業は――”
ノクティスは不意に口をつぐみ、意味深に微笑した。
一つだけ確かな事は、この闘いに於ける命運は完全に決したという事。
「さあ、最後まで見届けよう。彼等の出す答が如何様なものか――」
それでも平然と乱れぬ、ノクティスの瞳に宿る心境は一体何か。その金銀妖眼で何を見越しているのか――。
「了解しました……」
それを知っているのは霸屡。ノクティス同様、得体の知れぬこの人物のみ――。
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「さあ――始めよう」
エンペラーは――宙に居た。空中に浮かんでいるのだ。
「に、人間じゃねぇ……」
見上げながら時雨は思う。空へ跳躍し、停滞していると云った次元ではなく――
“神か、悪魔か……”
エンペラーの両肩からは、輝くような銀麗の大翼が。これが空を舞う事を可能にしているのだろう。
その余りの神々しさは、凡そ生体という枠を超え、見ているだけで意識を失ってしまいそうな程の神気を放っていた。
「――最終試験を……ね」
エンペラーは言いながら、ゆっくりと地へ降り立つ。それと同時に、大翼も淡く薄れて消えていく。これは物体というよりは、得体の知れない別次元の“何か”。
「くっ!」
降り立ったエンペラーを前に、誰もが後退りしようとするが――動けない上、絶対に逃げられないだろう。
“一体エンペラーとは?”
かつてと異なる、あの大翼と同様に目を惹いたのが――
“何故……瞳が、あの人と?”
彼の異彩色魔眼である銀色の両目、その変貌に。
それは銀と金が二つに別つ、狂座創始者ノクティスと同様の金銀妖眼だった。
何故エンペラーがノクティスと同じ瞳なのか。狂座の創始者で在る二人の関係性に、何か意味があるのか。
だが――それを知った所で、もう手遅れである事は分かった。
痛感していた。一つだけ確かな事は、一切の希望も見出だせない、絶対的な終焉が訪れるだろう事に――。
これより一体何が始まるのか。エンペラーから弾き出された、臨界突破最終第四マックスオーバー、レベル『400%』超の実力がどれ程のものか。
だが、それは闘わなくても分かる。恐らく雫さえも。そもそも闘う事自体が、無謀と云えるだろう事は誰もが肌で感じ取っていた。
「……いきなりの事で驚いただろう。実に済まないと思っている」
相変わらずというか、エンペラーからはそれでも闘う気が感じられない。寧ろ不本意とでも云うように、驚愕に固まっている彼等への配慮さえ感じさせた。
「だが……私は知りたくなったのだよ。君達の生体が持つ、未来の可能性を。そして幸人、君が持つ真の可能性をね」
エンペラーの言っている意味は理解出来ないが、彼は何かを試そうとしている。そして期待にそぐわなければ――“終わらせる”事を。
それは結論として、闘う事を意味していた。
「上等だ……」
エンペラーの神気に充てられて、動く事すらままならなかった雫が、何とか戦闘態勢を取った。
どの道このままでは、全滅は必然。どれ程の差が在ろうと、抗う以外無い。
「いや、そうじゃない――」
戦闘態勢を取る雫を前に、エンペラーはゆっくりと右掌を突き出した。本当にさりげなく。
その瞬間――
“えっ?”
「――っ!!」
雫は凄まじい勢いで、後方へ吹き飛ばされていた。それも島を越えて海面にまで。
海が割れるような衝撃と、とてつもない高さの飛沫が着弾点より舞い上がった。
「なっ……」
一体何が起きたのか。時雨以下、突然の事に唖然とするしかない。
――目の前から、いきなり雫が消えた。そして背後で聞こえた着弾音。
これがようやくエンペラーに雫が攻撃されたのを理解出来たのは、彼等に暫しの時間を要した。
エンペラーが何をしたのか。雫が何をされたのか全く分からなかった、見えなかった。
“まさか? そんな……”
エンペラーは右掌を突き出しているだけ。俄には信じ難いが、掌圧だけで今の雫を吹き飛ばした事になる。
「フム……。やはり“時空障壁フィールド”外では、力の加減が難しいな。気をつけないとね」
エンペラーは自身の右掌を見詰める。彼としては軽く押した程度だったが、予想以上の衝撃に自身を戒めた。
「はっ――」
それにしても、海上まで飛ばされた雫はどうなったのだろうか。あの衝撃は、ただ事では無いのは一目瞭然。
着弾点を振り返るが、雫の姿は見当たらない。
「まさか……嘘だろ、オイ?」
「今の雫さんが、たったの一撃で?」
考えたくもないが、あの衝撃の前では誰だろうと、雫と云えど――死。
「――幸人お兄ちゃん?」
悠莉もようやく我に返った。
そのまま雫の安否が不明な事に、絶望が彼等を支配する。
不意にエンペラーが右手を翳す。今度は自分達だと、時雨達は身構えたが――違った。
背後より何かの音が。その瞬間、海面より雫が引き寄せられるように彼等の下へ。
「んなっ!?」
「幸人お兄ちゃん!!」
悠莉が雫の下へ駆け寄る。雫は――満身創痍だった。
「ぐっ……」
嗚咽しながら微動だにしない。雫は自力脱出した訳ではなかった。先程のエンペラーの行動からして、明らかに此方へと戻された。
復元する筈の雫の傷の治りが遅い。発動していない訳ではないが、それに追い付かぬ程に力が弱まっている。
これはつまり、雫とエンペラーの間に在るレベル差が、とてつもない次元で開いている事を意味していた。
「これで終わって貰ったら困るよ幸人。君には私へ、示さねばならないのだから」
エンペラーは何かを手にし、それを幸人の下へ放り投げる。それは彼の持っていた刀――菊一文字だった。
それを手にし、エンペラーは向かって来いというのだ。
「ざけ……やがって……」
雫は刀を手に、何とか立ち上がる。緩慢ではあるが、復元により傷は塞がりかけてきた。
それでもこの絶対的な差の前では、それも無意味に等しい。
「お、おいっ!?」
「雫さん……」
「幸人お兄ちゃん、駄目っ――」
勝てる訳が無い。それでも頼るは、雫以外に無いのを痛感。彼等は足を引きづりながらエンペラーへ向かっていく雫を、無力な想いで見届けるしかなかった。
「そう、それでいい」
エンペラーは雫の心意気に、安堵するような笑みを浮かべた。
彼等は再び対峙する。これより始まる、真の最終決戦。
「さて、君への最終試験だが、これは驚く程に単純だ」
否、エンペラーにとっては試験か。
「何処までも……ふざけやがって!」
苛立ちに拍車を掛けた雫は吐き捨てるが、エンペラーは気にも留めていない。
「話は最後まで聞きなさい。つまり単純に、君の真の力と可能性を示せれば、それで合格だ」
既に雫はかつてのエンペラーをも超える、とてつもない力に目覚めた。それ以上何を求めるというのか。それでも現実は、非情だったという事だが。
「出来なければ――“終わる”だけだ。全てが……ね」
エンペラーが冷酷に、非情な結末を突き付ける。そして右手を上空に翳した。
“何だっ――何を!?”
何をしようと、何が起きるというのか。エンペラーの掌に異能力が集約していき、何かが発現されようとしている――
“ラスト・フリージング・アーク”
最中、エンペラーより紡がれた言霊。そして今、宇宙の法則――摂理が変わる。
“アブソリュート・オーバーゼロ ~絶対零度超”