コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
『暁』は盛大な戦勝の宴を開き、シャーリィは各自の奮闘を労い臨時の報酬を約束して更に士気を高めた。同時に今回の戦いにおける反省点の洗い出しを行っていた。
「防諜に関する備えを万全にしたいが、人員が足りない。組織内から適性がありそうな奴を引き抜いても構わないか?」
館の広間で宴会が開かれている最中、ラメルは労いに来たシャーリィと話をする。
「本人の望みを最優先にしてくれるなら許可しますが、部門側と揉めるようなことはしないで下さいね?」
「それは勿論だ。本人の意思を尊重して、上司ともちゃんと話をするつもりさ。これから忙しくなるぞ」
シャーリィの許可を得たラメルは、宴会を楽しみつつも今後の課題に想いを馳せる。
「正面からの戦いだけじゃなくて破壊工作の有効性は理解していただけたと思うわ。今後も私達を使ってね?主様」
隣からマナミアも参加する。彼女は酒を飲まず、魚料理を楽しんでいる様子。
「勿論です、マナミアさん。むしろ破壊工作のプロから見た防衛手段の構築もお願いしたいところです」
「その当たりは執事さんと話し合いをしてるわ。今後の町の開発に破壊工作へ備えた機構を盛り込むつもりよ」
「セレスティンが了承してくれたのなら、私は口を挟むつもりはありません。内政に関しては一任していますから」
シャーリィはそう答え、側に控えているセレスティンに視線を向ける。
「御意のままに、お嬢様のご期待を上回る成果をご覧に入れましょう」
「期待しています。特に今回はセレスティンとマーサさんに苦労を掛けました」
「勿体無いお言葉です」
「住民に混乱はありますか?」
「ラメル殿、マナミア殿と相談しつつ戒厳令を敷いておりましたので混乱は最小限となっております」
「シャーリィが死んだって噂を鵜呑みにした幾つかの商人が取引の取り止めを通達してきたけれど、今頃後悔してるでしょうね?」
ワイングラス片手にマーサも加わる。
「マーサさん、そちらは予定通りに?」
「ええ、噂に流されずうちと取引を継続してくれた商人達を優遇するように取り計らってるわ。こんな噂に流される程度の連中だから、影響も少ないし」
「それは何よりです。しばらくは内政と防諜体制強化に取り組みつつ『血塗られた戦旗』との戦いに備えます。セレスティン、マクベスさんに警戒体制を維持するように通達してください」
「御意のままに、お嬢様」
「ボスはどうする?何か飲むか?」
「私は少し散策します。ずっと引きこもっていましたからね。皆さんは楽しんでください」
「護衛は付けなさいよ?シャーリィ」
「分かっていますよ、マーサさん」
「あれ?お嬢様?」
シャーリィはそのまま館を出ると、そこには警備兵と一緒にエーリカが居た。いつもの町娘スタイルではなく、赤い騎士服に赤いケープマントを纏っていた。
「エーリカ、見かけないと思っていましたが、ここに居たのですね。参加しないのですか?」
「私は今回何もしていませんから、警備のお手伝いをしていたんです」
シャーリィの問い掛けに笑みを浮かべて答えるエーリカ。そんな幼馴染みを見て、シャーリィも表情を和らげる。
「それなら私の護衛をお願いします。散策したい気分なので」
「ベルモンドさんは?」
「ベルは休ませていますよ。頑張ってくれましたからね。駄目ですか?」
「まさか!喜んでお供させていただきますよ」
そうシャーリィに返し、二人は並んで夕陽に照らされた黄昏の町を歩く。
抗争とは無縁な人々が行き交い、夕食前とあって『黄昏商会』のある商店街も賑わっていた。
「平和ですね」
「シェルドハーフェンでは想像も出来ないくらい安全ですから、皆笑顔ですよ。お嬢様のお陰です」
「私は組織を大きくしようとしているだけですよ。他人の縄張りを奪うより自分で作る方が簡単ですから」
「普通は作る方が大変なんですけどね」
何でもないように語るシャーリィに、エーリカは困ったような笑みを浮かべる。
「エーリカはどうですか?慣れましたか?」
「お陰さまで、毎日大忙しですよ。もう少し人材を頂けたらなぁと思います」
「被服関連は全て貴女に任せているつもりです。セレスティンと相談して人員を増やしても構いませんよ?私の許可は必要ありません」
「あはは……どうにも執事長は苦手で」
情けない笑みを浮かべるエーリカ。幼少期にシャーリィに振り回され、巻き添えでセレスティンに叱られた過去を持つ彼女からすれば、セレスティンには苦手意識がある。
「むぅ、それはいけませんね。分かりました、私が許可を出しますから独断で採用して良いですよ。セレスティンには私から伝えておきます」
「ありがとうございます、お嬢様!最近は剣を振るう暇もなくて身体が鈍っていましたから」
「それはいけませんね。私も暇を見つけて遊びに行きます。その時に鍛練をしましょう」
「はい!」
二人の少女は談笑しながら賑やかな町を散策する。それは次の戦いに至るまでの、ささやかな平穏であった。
だが、事態は確実に進行する。それはシャーリィにとって良いものもあれば、悪いものもあった。
~帝都 貴族街 マンダイン公爵家の屋敷~
広大で豪勢な装飾品に彩られた屋敷の一室で、背中まで流れる美しい金の髪と整いつつも気の強さを表す鋭い目を持ち、そして抜群のプロポーションを持つ令嬢が手に持った植物紙の報告書を読み身体を震わせていた。
「これは、この情報に間違いはないの……!?この情報は確実なのかしら!?」
「間違いはないかと思われます、お嬢様。『闇鴉』から直接渡された情報です」
側に控える砂色の髪を短く切り揃えた若い執事がその問いに答えた。
報告書には詳細な内容と共に珍しい写真が添えられていた。そこに写し出されていたのは、シャーリィである。
「そうよね、マルソンが間違った情報を渡す筈がないわね。なにより、この顔っ!忘れる筈もないわ!」
ギリッ!と奥歯を噛み締め、鋭い視線で写真を睨み付ける。
「シャーリィ=アーキハクトっ!まさか本当に生きているとは思いませんでしたわっ!この女の居場所は!?」
「落ち着いてください、お嬢様。記載されている通り、シェルドハーフェンかと」
「はっ!シェルドハーフェン?あんな掃き溜めに?彼女にはお似合いね!どうせ娼婦にでもなっているのでしょう?」
「いいえ、『暁』なる組織を立ち上げて町まで作りシェルドハーフェンでも一目置かれる存在なのだとか。お嬢様がお持ちのその紙も『暁』が生み出したものです」
「はぁ!?これをあの女が!?ふざけていますの!?」
「事実です。最近お嬢様お気に入りの食材も同じく『暁』から購入したものです」
「あははははっ!じゃあなに?私は知らず知らずのうちにあの女が生み出したものの恩恵を受けていたと?ふふふっ、笑えるわね」
令嬢は静かに笑う。
「如何なさいますか?」
「まあ、物に罪はありませんもの。けれど、あの女だけは確実に始末したいわ」
「はっ」
「シェルドハーフェンだったかしら。お父様に進言して、策を練ります」
「あの辺りはガウェイン辺境伯の領地ですが」
「ふんっ、落ち目の第三皇子にご執心な辺境伯に何が出来ますか!お父様にとっても悪くない話よ!あの女を始末して、そして私はナインハルト様と結ばれて憂い無く輝かしい未来を掴んで見せますわ!」
「御意」
フェルーシア=マンダイン公爵令嬢。帝位継承争いを行う第二皇子ナインハルト=フォン=ローゼンベルクの婚約者であり、シャーリィに対する嫉妬が憎悪となってあの惨劇を引き起こした黒幕と呼べる存在。
彼女はシャーリィの生存を知り、その排除に動き始めるのだった。