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A2視点
砂漠地帯を抜けて私はパスカル村へと戻ろうとしていた
砂嵐が強く、数メートル先は何も見えない
尚且つ砂に足を取られて思うようにも進めない
腕で目に砂が入らないように歩いていると岩陰が見えてきた
このまま歩き続けても砂嵐が止む気配もなさそうだし私はひとまず目の前にある岩陰で休むことにした
岩陰に入るとそこが大きな空間になっていることに初めて気がついた
どうやら岩陰のように見えていたこの場所は砂嵐の影響を受けない岩場の中の油田だったようだ
臭いは最悪だが先程の環境よりは多少マシだ
ふと油田を覗き見る
油田を覗きそこに蔓延る真っ黒な水のような液体を見て思い出した
この場所はいつかの2Bと9Sが電子ドラッグを研究するときに使っていた場所じゃないか
油田の崖上には電子ドラッグ中毒のヨルハが2人いる
私は油田の周囲に目を配った
アクセスポイントがある
やはりここは私の…いや2Bの記憶にある場所と合致する
私はアクセスポイントの側まで行くとバックアップを取ろうとした
がその手を寸前で止めた
よくよく考えると今の私は未来と違って現在進行形で追われている身
脱走兵だ
未来ではバンカーが堕ち脱走兵もクソもなかったが……今ここでのアクセスはバンカー、司令部に筒抜けになる
それはまずい…
私はアクセスポイントに寄りかかり座り込む
砂嵐が止まない今は機械生命体もヨルハもまともに動けないだろう
ならこれから動くことを考えて少しでも休むべきだ
私はゆっくりと瞼を閉じた
数秒と経たずに気味の悪い笑い声が耳に響いた
A2「…」
私は瞼をうっすらと開く
目の前に電子ドラッグ中毒のヨルハが2人、武器を持って笑っていた
A2「……」
動きから察するに2人は私に気がついていなさそうだ
電子ドラッグの効果は主に2つ
1つは一部の機体機能を向上させるというものだ
この効果だけで言えばそこらにある強力なチップよりも高い効果を短時間で得られる薬品だ
だが問題は2つ目の効果だ
精神の異常、視界機能のノイズ、判断力の低下……あげればキリがない
とても強力な薬ではあるが、簡単に言って仕舞えば諸刃の剣
しかも副作用に中毒性があるときた
使用しているアンドロイドは多くはないが少ないともいえない
つまり、目の前にいるヨルハ2人は電子ドラッグの2つ目の効果の視界機能のノイズのせいで私のことを認識できていないんだろう
逃げるなら今がチャンス
だが外は砂嵐で視界が悪すぎる
ゴーグルを着けていない私には最悪の環境だ
さて…どうしたもんかな……
笑い声が急に止み2人はギロリとこちらに向いた
その動きはぎこちがなく、壊れたゼンマイ人形のようだった
私は彼女らと対峙する形ですぐさま戦闘体制に入る
四○式戦術刀を片手に相手を見据える
ヨルハの2人は尋常じゃないスピードで切り掛かってくる
私は攻撃を回避してすぐさま距離を取る
電子ドラッグの影響だろうか、2人は本来の機体の性能じゃ到底動くことができなような軌道で刃を向けてくる
だが、動きは単調で予測するのが容易い
私は当たったら相当な損傷になるであろう攻撃を軽々と避け続ける
相手が刀を振り下ろし再び振るまでの瞬間は刹那といえど、私にとっては攻撃のチャンスだ
しかし、反撃をしたところでもう1人が私の攻撃を受け流す
こんな連携をされているからか単純な攻撃じゃ一切歯が立たない
昔の私なら相当苦労して戦っていただろう
だが、今の私は違う
今までの攻撃パターンを変えフェイクを混ぜてみる
相手の首を狙うように見せて足を薙ぎ払う
刀術だけでなく、格闘も混ぜることで多種多様な戦闘スタイルにすることができるのだ
すると、案の定相手のペースを崩すことができた
薙ぎ払いバランスを崩した相手の首筋に蹴りを加える
1人は私に蹴られた反動で油田の中へと吹っ飛んでいく
もう1人はというと、仲間がやられたことで怒っているのかムキになっている
怒りに任せ武器を振るうだけ
ふと、その姿を見て9Sを思い出した
彼2Bを殺された怒りで我を忘れていたな…
でも、9Sと目の前のヨルハじゃ圧倒的な戦闘センスの違いがある
いつも側でE型である2Bの補佐をして、攻撃を見てきた9SはS型とは思えない戦闘スキルがあった…自身の機体スペックを理解し、並外れた頭脳で私たちのような戦闘モデルをも凌駕する戦いぶりで正直見惚れてしまうほどだった
彼と対峙した私が他人事のように言うのはおかしな話だとは思う
そんな風に昔のことを考えていたら自然と目の前に立ちはだかる2人に同情心が生まれてきた
全くもっておかしな話だ
ヨルハを恨む私が、離反した私が…
恨むどころか敵である彼女らに同情しているのだから
A2「私も大概だな…」
刀を両手で持ち大きく振りかぶった相手の攻撃をカウンターで弾く
そしてガラ空きとなった胴体に膝蹴りを入れた
彼女ら2人を倒した私は彼女らをアクセスポイントの側に寝かせておくことにした
そうすれば他の部隊員が来た時にでも彼女たちをメンテナンスや、バンカーへ送ってくれると考えたからだ
出口を見るとタイミングよく砂嵐が止んでいた
そして私は油田を後にした