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凛道桜嵐 新
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がくじゅつてき・あかげ
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わーい
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千歳がアボカドを一口分けてくれたときの「人生損過ぎる」って言葉がすごく良かった……。油断すると好きなものを遠慮しちゃう主人公に「好きに食べろ!」って言える千歳がいて、最後の「そんな人がいるんだ」でじんわりしました。小さな気遣いの積み重ねが愛おしい回でした🤍🥀
『なー、アボカドってどんな味なんだ?』
昼食の席で、千歳がいきなり聞いてきた。
『うまいのか?』
「え、そうだねえ……」
そういえば、昭和にアボカドはないか。記憶を探るが、俺もアボカドを真面目に食べた記憶ないな、そう言えば。確か、コンビニのサンドイッチにブロッコリーと一緒に挟まってるのは何度か食べたような。あの味だよな、多分。
「まあ、本当に森のバターって感じだねえ……ちょっと青臭い感じはあるけど、油! って感じでトロッとしてて……」
うん、あのサンドイッチおいしかったし、アボカド単体の味は知らないけど、けっこうおいしいものだと思う。
「何、アボカド食べたいの?」
聞いてみると、千歳は柚子ジャムトーストををかじりなら『うーん』とうなった。
『ずっとなんとなく気になってたんだけど、油すごいって聞いて、それだとお前に食わせられないから、なんかずっと買わなかったんだよな』
「そんな、俺のことなんて気にしないで食べればよかったのに」
『だって、自分ひとりのためにもう一品作るの面倒だし』
千歳はトーストの最後のひとくちををぱくりと食べ、もぐもぐしてから言った。
『でもさ、お前、脂っこいものと辛いもの少しでも食べたら死ぬってわけでもないんだからさ、どうしても食べたい時あれば、揚げ物も普通のカレーも作ってやれるぞ?』
あー、まあ、そう。確かに死ぬわけじゃない。揚げ物、辛いもの、食べたい気持ちはないわけじゃないんだけどね……千歳の作ったのだったら絶対おいしいしな……。
少し考えて、俺は口を開いた。
「うーん、なんていうかね、千歳のそういう料理もおいしそうだし、たまには気を使わないでもいいかな、とは思うんだけど、羽目外したせいで調子崩すのも怖いんだよな」
やっと体良くなって、自律神経ボロボロ腹下しまくりの病人から、体力はないながら普通の人間になれたのだ。逆戻りするようなことはしたくない。
『食べたいけど、食べるの怖いのか?』
「うん、そんな感じ」
とは言え、たまに緩めるべき時は緩めてもいいかも、と思う。俺は少し考えた。
「月に一回くらいとか、あとは外食の時は気を使わないで食べる、くらいで俺はいいかな。他の人に合わせなきゃいけないこともあるかもしれないし。でも、千歳は好きに油物でも辛いものでも何でも食べてよ」
『そんな事言うなら、ワシだけでアボカド食うぞ?』
千歳は挑発的に言ったのだが、別に俺は千歳だけでアボガドを食べたって嫉妬なんてしないし、千歳に好きに食べてほしかったので、
「どうぞどうぞ」
と答えた。
そんなわけで、翌日の昼食、千歳の食卓にはアボカドスライスとわさび醤油が並んだ。
千歳はアボカドに醤油をつけ、ほんのちょっとわさびもつけて口に運び、『うんまい……』と目を丸くした。
『確かに青臭いかもしれないけど、わさび入るとそれが飛んで完全にマグロだ……』
「よかったね、口に合って」
俺は笑った。
『これ、サラダにしても絶対うまいよなあ』
「ああ、サラダに入ってるの、よく見るね」
『お前、外食の時絶対アボカド食えよ、こんなうまいもん食えないなんて、人生損だぞ』
「じゃあ、まあ、山下公園とか行くときのお昼にあったら頼むよ」
そういえば、下調べで喫茶店とそのメニュー散々調べて、パフェがあってお昼にも良さそうなところ見つけたけど、自分で何食べるかぜんぜん考えてなかった。アボカドメニューねえ、あってもおかしくないけど、なくてもぜんぜんおかしくないな……。
千歳が『おい』と言った。
『なあ、一口だけなら、お前も大丈夫なんじゃないか?』
千歳は、小さめのアボカドスライスを一切れ俺に勧めてきた。
「いいの? 千歳全部食べなくて」
『一口ならやる、これが食えないなんて人生損過ぎる』
「それはどうも、ありがとう」
千歳のわさび醤油を借りて食べる。こってりした油、コク、その後に来るわさび。わさび醤油で食べるアボカドはマグロのトロみたいって聞いたことあるけど、俺マグロのトロ自体をちゃんと食べたことあったかな? でも、今食べてるこれがおいしいのは確かだ。
「おいしい、ありがとう」
『まあ、こんくらいなら腹壊すこともないだろ』
千歳は笑った。
「まあね、でも外食でもそんなに羽目外さないように気をつけるよ」
腹具合良くなった今だからわかるんだけど、お腹壊すとすごく体力消耗するんだよな……。
『山下公園行く時、好きなもん食わないのか?』
『うーん、アボカドメニューはなくてもおかしくないな。大丈夫、おいしそうなパフェおいてあるとこにしたから……』
そこまで言って、千歳がなんか心配そうな顔をしてるのに気づいた。
あ、俺のバカ、なんで気づかなかったんだ、千歳は俺を慮って聞いてる! 俺においしいもの食べてほしいってことを言ってる!
「いや、でも、我慢するわけじゃないよ、せっかくの外食だし、好きなもの頼むよ!」
俺はあわてて言った。そうだよ、千歳と一緒の外食だし、たまに好きにおいしいもの楽しんで食べたってバチ当たんないよな。
『うん、好きに食べろ!』
千歳は、にぱっと笑った。
あー、そうか、今、俺には、俺が好きにおいしいものを食べられると、嬉しい人がいるんだ。
こんなにすぐそばに、そんな人がいるんだ。