テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
2,187
1,155
## 第16話:紅き翼の記憶
吹き荒れる熱風が、岩肌に刻まれた無数の傷跡を撫でていく。
メギド要塞から命からがら離脱したプロト・ウイングエックスは、赤茶けた巨岩が複雑に組み合わさった岩場――通称「嘆きの迷宮」へと逃げ込んでいた。
「ああ、クソッ! 砂が関節に入り込んでキシキシいやがる。おまけにあの『マゼンタ野郎』のせいで、システムの同期率もガタガタだ!」
ゼロ・ドラートは、不調を訴えるモニターを睨みつけながら悪態をつき続けていた。機体はガドルフによる徹底した修繕のおかげで、ゼロ・システムそのものは安定して稼働している。しかし、前回の強制遮断の衝撃は、ゼロの精神に小さくない「苛立ち」というノイズを刻んでいた。
「……ゼロ、あまり怒らないで。あの子も、きっとわざとじゃなかった……」
「わざとだろうが何だろうが、俺たちの邪魔をした事実は変わらねえ! 助けられたなんて思ったら負けだ。俺はあいつを認めねえぞ、絶対にだ!」
ウイングエックスは、狭い岩の隙間を縫うように進む。
だが、その不毛な岩場には、既に先客がいた。
突如、岩壁の頂上から無数の火線が降り注いだ。
「――待ち伏せか!?」
ゼロは即座に反応し、スロットルを蹴り込んだ。ウイングエックスは6枚の飛行ユニットを瞬時に展開。プラズマの噴射で砂塵を巻き上げ、頭上を通過するロケット弾を紙一重で回避する。
岩陰から姿を現したのは、この一帯を根城にする武装集団『デザート・ハウンド』のMS部隊だった。砂漠迷彩を施された旧式のジェニスや、重装甲のドートレスが、数に物を言わせてウイングエックスを包囲する。
「野良犬どもが……弱ってると思って舐めやがって!」
ゼロは左腕のディフェンサー・バスターシールドから光刃を展開。突き出してきたドートレスの槍を受け流し、そのまま胴体へ斬撃を見舞う。
ガドルフが直したゼロ・システムは、敵の殺気を的確に読み、ゼロの脳内へ最短の撃墜ルートを叩き出す。機体は軽やかに舞い、二機、三機と敵を沈めていくが、多勢に無勢。入り組んだ岩場では自慢の機動力が削がれ、徐々に装甲へ被弾が重なり始める。
「チッ……数が多い! ミラ、しっかり掴まってろよ!」
敵のジェニスが四方から一斉にマシンガンを掃射し、ウイングエックスが回避不能な十字砲火に捉えられた――その時。
空を切り裂くような鋭い咆哮と共に、上空から**マゼンタ色の閃光**が降り注いだ。
流線形の美しい翼をなびかせ、マゼンタ色のガンダムが戦場に乱入する。彼女は飛行機の翼に似たスリムな主翼を羽ばたかせ、驚異的な旋回性能で敵の頭上を奪うと、両腕に装備された小型ビームガンを連射。一瞬にして後方の包囲網を消し飛ばした。
「またアイツか……! 追いかけてきやがったのか!?」
驚くゼロを余所に、マゼンタの機体は無言でウイングエックスの背中を守るように着地した。
通信は繋がらない。しかし、その立ち姿は「共に戦え」と無言で促しているようだった。
「……ゼロ、あの子が言ってる。『ここは私たちが守る場所』だって」
「へっ、勝手な解釈しやがって! だが、背中を任せられるなら……今は乗ってやるよ!」
白きウイングエックスと、紅きマゼンタのガンダム。
宿命を同じくする二機のガンダムが、岩場で背中を合わせる。
ウイングエックスがバスター・サテライト・ライフルで正面の重装甲機を貫けば、マゼンタの機体は超高速の格闘戦で接近する敵を次々と沈めていく。言葉はなくとも、二機のシステムは深部で共鳴し合っているかのようだった。ゼロ・システムが算出する予測データに、マゼンタの機体の挙動が吸い込まれるように同期し、戦場の支配権を完全に入れ替えていく。
圧倒的な力の差を悟った武装集団は、数機を残して散り散りに逃走していった。
戦場に再び静寂が訪れる。
熱を帯びた大気の中で、二機のガンダムは数メートルという至近距離で対峙した。
「……おい。聞こえてんだろ、マゼンタ野郎。昨日のことも含めて、一言くらい言ったらどうだ」
ゼロは通信を開くが、返ってくるのは微かなノイズだけ。
業を煮やしたゼロが、強引にコクピット・ハッチを開けて外に飛び出した。
「降りてこいよ! 正体を見せやがれ!」
ゼロの叫びに応えるように、マゼンタ色の機体の胸部ハッチが、ゆっくりと蒸気を吹き出しながら開いた。
そこから姿を現したのは、一人の少女だった。
彼女はヘルメットを被ったままで、その表情を伺い知ることはできない。しかし、その下からは**鮮やかな赤い髪**がこぼれ、風になびいていた。彼女は無言で機体の上に立ち、ただじっとゼロを見つめている。
「……女か?」
ゼロが戸惑いの声を上げた瞬間、少女はゆっくりとヘルメットのバイザーを上げた。
意志の強さを感じさせる瞳が、ゼロの視線と真っ向からぶつかる。その顔は、過酷な運命を背負わされてきた者特有の、冷たくも美しい光を放っていた。
「……私は」
彼女が何かを言いかけた時、遠くから新たなMSの駆動音が響いた。
少女はハッとしたようにバイザーを閉じ、再びコクピットへと滑り込む。
「待ちやがれ! まだ話は終わってねえ!」
ゼロの制止を振り切り、マゼンタの機体は鋭い加速と共に大空へと舞い上がった。
残されたのは、舞い上がる砂埃と、ゼロの胸に去来する形容しがたい高鳴りだけだった。
「……赤い髪の、ガンダム乗り……」
ミラが横に並び、消えていったマゼンタの航跡を見上げる。
運命は今、二人の少年少女を、さらなる深い激動の中へと誘おうとしていた。
**次回予告**
少女が残した名もなき共鳴。
ゼロは、自らと同じ呪いを背負う者の存在を知る。
一方、メギド要塞ではルカスの魔手が、ある『計画』を進めていた。
次回、『共鳴のレゾナンス』
**「あいつ……どんな顔で、あの翼を操ってたんだ?」**