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涼太が空きスタジオを飛び出した後のことは良く覚えていない。
自分がしてしまったことへの罪悪感と止まらない後悔、拒絶されてしまったのかもしれないという絶望感ばかりが体中を駆け巡った。
呆然としたままとぼとぼと楽屋へ戻り、帰り支度を始めた。
「佐久間、大丈夫だったか?急に走ってどっかいくから心配したんだぜ?」
深澤が声をかけてくれる。まだいたのか。
あぁ、そうか。涼太を探しにいくって深澤に伝えたっきりだったもんな…。
楽屋には俺と深澤だけ。…もしかして俺が帰ってくるまで待ってた?
「っぁあ、だいしょーぶだいじょーぶ!!! ごめんごめん!!急にいなくなったりして!」
気取られたくなくて、無駄に大きい声で答える。大丈夫、大丈夫。俺は大丈夫。
自分のことより、涼太のことが心配で仕方なかった。俺のせいとはいえ、きっと彼を傷つけてしまったのだから。
決して、下心があったわけではない。ただただ、涼太に泣いて欲しくなかっただけだった。
しかし、頭ではなく本能で動いてしまった自分の身体は、どんな気持ちだったんだろうと思うと、それは断言できない気がした。
自分にいい聞かせるように唱えた「大丈夫」という言葉に納得していない様子の深澤は、訝しげな目で俺を見ていた。居心地の悪い空気に耐えられず、苦し紛れに口を開いた。
「そういえば、涼太は!? 俺結局見つけられなくてさ」
嘘。言えなかった。言えるわけなかった。後ろめたくて咄嗟に隠した。
「………。走って戻ってきたかと思ったら、荷物まとめてすぐに帰っちゃったよ。俺らのこと見えてないのかなってレベルで支度してた。相当急いでたみたいだけど、どこ行ってたんだろうね。顔真っ赤だったから、風邪ひいてたりしてないといいけど…。」
深澤は俺を横目で見ながら答えた。その目には猜疑の色が浮かんでいる気がした。
「…そっか。心配だね。」俺はぼんやりとした頭で空っぽの言葉を吐いた。
そうだよね、嫌だったよね。じゃなかったら、いつもあんなに冷静な涼太が、慌てて出ていくなんてことしないもん。
完全にやっちゃったな、、俺。
「お前、本当はだてさん見つけただろ」
深澤の言葉に体が固まる。見抜かれている。
「…っ」
「お前嘘つけないの何回言ったらわかるんだよ」カラカラと深澤は笑った。
「…ぁ、いや…ごめん…」
「別にいいよ、そこについては全く気にしてないから。隠したい何かがだてさんとあったんだろ?2人の様子見てればわかるよ。」
「…うん」
「んまぁ、俺から言えるのは、もっと自信持てってことだけかな」
深澤は突然俺に不思議なアドバイスをくれた。
明日も仕事があるからと、深澤と楽屋を後にし、タクシーに乗り込んだ。
だてさんを探してくると言って、走り出していった佐久間は、帰ってきたかと思うと明らかに様子が変だった。
戻ってくる気配も無く、心配になった俺は、佐久間が戻ってくるまで最近力を入れているゲームに勤しんで暇を潰していた。
次々に解散し帰路に向かうメンバーを見送っていると、30分ほど経って、楽屋のドアが勢いよく開いた。
佐久間とだてさん、翔太以外の面々が全員帰った後だったこともあり、何事かと音のする方に目を向けると、そこには息を切らしただてさんがいた。
「…どしたの」声をかけてみるが反応がない。どうやら聞こえていないようだ。
だてさんは、自分の荷物を片っ端から鞄に投げ入れていた。普段のだてさんらしくない光景に違和感を覚えた。
ぐちゃぐちゃの鞄を引っ掴んで、部屋を出ようとするだてさんに翔太が声をかけると、彼は苦しそうな顔で笑った。
その後すぐに翔太も帰り、楽屋には俺だけ。
なかなか佐久間は帰ってこない。ゲームもキリの良いところまで進み、休憩していると 今度は静かに楽屋のドアが開いた。俯いた佐久間がちまちまとした足取りで入ってきた。
…絶対だてさんとなんかあったじゃん………。
ちょっと探ってみようかな。
正直、佐久間がだてさんに惚れてることなんて、ずっと前から全員知ってる。
知らないのはだてさんだけ。どこまで鈍感なんだと、佐久間とだてさん以外のメンバーは毎日頭を抱えている。
それに、だてさんが佐久間に惹かれてることだって、ずっと前から知ってる。
知らないのは佐久間だけ。面倒だから同じことは何度も言わない。皆頭抱えてる。
佐久間は隠そうとしたが、いなくなっただてさんを見つけて何かあったことは明らかだった。嘘つくの下手くそだな。だから人狼ゲーム弱いんだよお前。
何があったのかは知らない。別にそこに興味はない。
ただ、2人が幸せになってくれたらいいなとは思う。しかし、あんまり助言しすぎるのも野暮だ。俺は自信を持てとだけ伝えて、ゲーム機を鞄に仕舞い込んだ。
佐久間を先にタクシーに乗せ、角を曲がるまで見届けてからタクシーアプリを開いた。
スマホを操作しながら、
「見てるこっちがじれったいわ。早くくっつけっての。」
と1人呟いた。
自宅に辿り着き、重い足取りでリビングへと向かう。
着替える気力もなく、ソファーに頭から突っ込む。
ぽすんと軽い音が2つ鳴って、愛猫たちが俺の帰りを喜んで迎えてくれる。
「…ただいまぁ〜………。」
みゃおみゃおと小さく声をかけてくれる。優しいなぁ。
職業柄安定した時間に帰って来ることは難しいので、自動でご飯が出てくるように設定できるものでこの子達のご飯はもう済ませてもらっている。
今日起きた涼太とのことが、頭の中を高速で何度も蘇ってくる。
どうすればよかったんだろう。何度考えても答えは出なくて、足をバタつかせた。
俺は、上品にソファーの上に座り首を傾げる愛猫たちに問いかけた。
「つなぁ〜、しゃちぃ〜……、俺どうしたらよかったと思う?」
にぁ??とツナが応え、シャチは俺の顔に自分の顔を擦り付けた。
シャチを見て、ツナは俺の顔を舐めた。慰めてくれてるのかな、と思い優しい気持ちになる一方、この行動に覚えがあってはっとする。
ぁあ、そうか。
やっぱり俺も涼太を励ましたかったんだ。
そのことだけでも確証を持てたのは幸いだった。
長年拗らせたこの想いは、年を重ねるごとに暗い色も混じるようになってしまっていたから。そんな色で涼太のことは触れないと思っていた。綺麗じゃないから。
そんな気持ちで触れてしまったら、涼太が汚れてしまう。絶対にそれだけは嫌だった。
だから、純粋に宥めたいと思って取った行動だったと思えて少し安心した。
しかし、問題は何も解決していないのだ。
俺はうつ伏せ状態から起き上がり、腕を組んで明後日の方向を見つめながら思索に耽った。
まず、涼太には好きな人がいる。切なそうな顔で誰かを想って歌っていた。
声をかけると涼太は急に泣き出した。そして、俺は涼太に好きだと言われた。
そんで、き、きすしちゃったら涼太が走ってどこかに行っちゃった……。
なんで泣いた?俺が優しいからって言ってたけど、、、。うん、保留。わかんない。
なんで走って逃げちゃった?やっぱり拒否られた??
だとしたら、涼太の好きってなに???
友達としての好きって意味だったらそりゃ逃げるよね。。。友達にいきなりキスされたら怖いよね。うあぁぁぁぁぁぁ……、やっちゃったなぁぁぁぁぁぁ…………。
何度考えても、俺には、涼太が想っている人のこと、涼太が泣いていた理由、涼太の好きの意味、涼太が走り去った時の気持ち、その全てがわからなかった。
唯一、謝ろうということだけは結論が出たが、それ以外についてはお手上げだ。
今日のところは諦めて、風呂へ入った。
髪色維持のために使用しているカラートリートメントを頭に撫で付けている時に詩が浮かんだので、投稿してから眠りについた。
きらきらと 貴方の気持ちは この雫
薄明かりではわからない
知りたい 教えて 聞かせてよ
貴方の気持ちがわかるなら
伸ばす指 大きな宝石受け止めて
こぼれないでと 飲み干した