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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで

日下部彰

ふぅー・・・

日下部彰

さっぱりしたぁー

彰は髪の毛をバスタオルで わしゃわしゃと乱雑に拭きながら 冷蔵庫から缶ビールを取り出す

日下部千里

あれ?今日は居酒屋で
飲んできたんじゃないの?

日下部千里

また飲むの?

日下部彰

あ、そうだった・・・

日下部彰

いつもの癖でつい・・・

日下部千里

はい!没収でーす

彰の手から 缶ビールを奪い取る千里

日下部彰

えー!いいじゃんかよ!
今日くらい大目に見てよ

日下部千里

ダーメ!コレは明日!

日下部彰

一本だけだから!?

日下部彰

な?な?いいだろ?

日下部千里

ダ〜メッ♫

日下部千里

飲み過ぎは
体に毒だからね

日下部彰

ちぇ!わかったよ・・

日下部千里

ふふふ

千里は缶ビールを冷蔵庫に仕舞う

すると千里は彰のスマホの LEDが点滅している事に気づく

日下部千里

あれ?彰のスマホ
なんか点滅してない?

千里は彰のスマホを指差す

日下部彰

あ、ショートメールだな

日下部彰

不在着信の通知みたいだな

日下部彰

誰からだろ?

彰はスマホを手に取り ディスプレイを確認する

日下部彰

この番号は河上くんだな

日下部千里

河上さんって確か
今日一緒に飲みに行った
後輩くんだよね?

日下部彰

ああ・・・

日下部千里

確かさっき軽い
言い合いしたって
言ってたよね?彰

日下部彰

まぁ、な・・・

日下部千里

もしかしたら
謝りたくて

日下部千里

電話してきたのかもよ?

日下部千里

折り返してあげたら?

日下部彰

そうだな・・・

日下部彰

ちょっと電話するわ

日下部千里

うん

彰はスマホを操作し 啓一に電話をかける

日下部彰

もしもし?河上くん?

河上啓一

あ、日下部さん・・・

日下部彰

悪いな!

日下部彰

電話くれたんだろ?

日下部彰

風呂入ってて
気づかなかったよ

河上啓一

いえ・・・

日下部彰

どうかしたのか?

河上啓一

あ、いや、俺・・・

河上啓一

先輩に対して
ナメた口を・・・

日下部彰

ああ、やっぱ
その電話だったのか

日下部彰

いやぁ、あれは
俺も言い過ぎたって
反省してたんだ

日下部彰

河上くんの
気持ちを無視して

日下部彰

自分の主張ばかり
しちゃってさ

日下部彰

俺の方こそごめんな?

日下部彰

ウザい先輩
だったよな(笑)

河上啓一

いえ・・そんな・・・

河上啓一

ウザいだなんて・・

日下部彰

あれからどう?

日下部彰

奥さんとは話せたか?

河上啓一

あ、いや・・・

日下部彰

奥さんも辛い筈だから

日下部彰

寄り添って
あげなきゃだぞ?

日下部彰

奥さんの力になれるのは

日下部彰

河上くんしか
居ないんだからな?

河上啓一

・・・・・

日下部彰

てか、なんか
様子おかしくないか?

日下部彰

元気ないな?

河上啓一

あ、いや・・・

日下部彰

何かあったのか?

河上啓一

それが・・その・・

日下部彰

どうしたんだ?

河上啓一

日下部さんと
別れてから

河上啓一

俺・・すぐに
家に帰ったんスよ

日下部彰

それで?

河上啓一

そしたら・・・

河上啓一

・・・・・

日下部彰

河上くん?

河上啓一

明菜が・・・

日下部彰

明菜?明菜って確か
奥さんの名前だよな?

日下部彰

奥さんに何か
あったのか?

河上啓一

・・・・・

日下部彰

河上くん?

河上啓一

実は・・明菜が・・

河上啓一

自殺しました・・・

日下部彰

は!?自殺!?なんで?

河上啓一

多分クラブのせいで・・

日下部彰

まさか・・・

日下部彰

そんな事って・・・

河上啓一

俺・・馬鹿でした

河上啓一

明菜が喜んでるなんて

河上啓一

んな訳ないのに・・・

河上啓一

明菜の気持ちを
全く考えないで・・

河上啓一

俺は・・俺は・・・

日下部彰

落ち着け!河上くん!

河上啓一

日下部さん・・・

日下部彰

今どこに居る?

河上啓一

今ですか?

河上啓一

今は駅前の
霞総合病院に居ます

日下部彰

分かった!
今すぐいくから!

河上啓一

で、でも・・・

日下部彰

何言ってんだよ!水臭い!

河上啓一

すいません・・・

河上啓一

日下部さん・・・

河上啓一

俺・・もう
どうしたらいいか・・

日下部彰

わかってる!

日下部彰

とりあえず
今から行くから!

日下部彰

待っててくれ!

河上啓一

ありがとう・・・

河上啓一

ございます・・・

日下部彰

(河上くん・・・)

日下部千里

彰?どうかした?

日下部千里

なんか自殺って
聞こえてきたんだけど

日下部千里

何かあったの?

日下部彰

実は、河上くんの
奥さんが自殺したらしい

日下部千里

え!?なんで!?

日下部彰

河上くんさ・・・

日下部彰

さっき俺が千里に話した

日下部彰

Dクラブを、どうやら
利用したらしいんだ

日下部千里

Dクラブを?

日下部千里

て事は河上さんも
不妊に悩んでたって事?

日下部彰

まぁ、そうらしいんだ

日下部彰

俺も今日初めて
知ったんだよ

日下部千里

でも・・なんで
そんなクラブなんかに

日下部彰

わからない・・・

日下部彰

けど、そのせいで
奥さんが自殺
しちゃったらしくて

日下部彰

今すぐ河上くんの所に
行ってやりたいんだ!

日下部彰

行ってもいいかな?

日下部千里

ダメなんて
言わないわよ

日下部千里

すぐに行ってあげなよ

日下部彰

悪いな・・・

日下部彰

帰りはいつに
なるかは分からない

日下部千里

うん!分かった!

日下部彰

じゃあ、行ってくる

日下部千里

うん!気をつけてね

彰は手早く着替えると 啓一の待つ総合病院へ急ぐ

霞総合病院

啓一は待合室の 長椅子に腰を下ろし 両手で顔を覆っている

河上啓一

(明菜・・・)

河上啓一

(ごめん・・・)

河上啓一

(俺が馬鹿なばっかりに)

河上啓一

(本当にごめんな・・・)

啓一の目からは 絶え間なく涙が溢れ出る

そこへ彰が血相を変えて 慌てた様子で走ってくる

日下部彰

河上くんっ!!!

河上啓一

日下部さん・・・

彰を見上げる啓一の顔は 見るからに衰弱し切っていた

日下部彰

大丈夫・・・

日下部彰

な訳ないよな・・・

日下部彰

ごめん・・・

河上啓一

日下部さんが
謝る事ないっスよ

河上啓一

全部・・・

河上啓一

俺のせいなんです

日下部彰

・・・・・

河上啓一

日下部さんから
言われたように

河上啓一

もっと明菜の事を
見てあげるんだった・・

河上啓一

なんでもっと
考えてやれなかったんだろ

日下部彰

・・・・・

河上啓一

俺・・大馬鹿っスよ・・

河上啓一

愛する人を──

河上啓一

自殺するまで
追い詰めるなんて

河上啓一

俺は・・俺は・・

日下部彰

河上くん・・・

河上啓一

これから・・・
どうしたら・・・

啓一と彰はしばらくの間 言葉を交わさず長椅子に腰を下ろす

日下部彰

・・・・・

河上啓一

・・・・・

日下部彰

(こんな時・・・)

日下部彰

(何て声をかけて
やればいいんだ・・・)

日下部彰

(落ち着け・・なんて
無理な話だし)

日下部彰

(気にするな・・は
もっと無理だよな)

日下部彰

(元気出せ!も違うし)

日下部彰

(はぁ・・)

日下部彰

(後輩を元気付ける
言葉もまともに言えない
自分が不甲斐ない)

すると2人を包む静寂を 切り裂くように──

警官

少々宜しいでしょうか?

1人の警官がやって来た

日下部彰

け、警察?

警官

河上啓一さん
というのは?

河上啓一

お、俺ですけど・・・

日下部彰

河上くんに
何かご用ですか?

警官

河上さんに詳しい話を
お聞かせいただきたい

河上啓一

詳しい話って?

警官

あなたの──

日下部彰

ちょっと
待ってくださいよ!

警官の言葉を遮るように 彰が割って入る

警官

どうかされましたか?

日下部彰

どうかって──

日下部彰

今、河上くんは
家族を亡くして

日下部彰

とてもじゃありませんが

日下部彰

話せる状態じゃないんです

日下部彰

ちょっとくらい──

警官

Dクラブ

日下部彰

!!!!!!!

河上啓一

!!!!!!!

警官の口から発せられた 「Dクラブ」という言葉に 目を見開く彰と啓一

警官

そう言えば
ご理解いただけますか?

日下部彰

な、何が
言いたいんです?

警官

河上啓一さんの奥さん

警官

河上明菜さんの
自殺には──

警官

Dクラブが関係
しているんですよね?

河上啓一

そ、それは・・・

日下部彰

と、どうして、そう
思われるんですか?

警官

最近巷では──

警官

不妊に悩む夫婦の
奥さんが自ら命を
絶ってしまう事件が

警官

後を絶ちません

日下部彰

・・・・・

警官

警視庁は
不妊夫婦の奥さん
のみを狙った

警官

連続殺人事件という
線で捜査をしていたところ

警官

代理出産とは名ばかりの
売春行為を秘密裏に
斡旋している

警官

Dクラブの存在を
突き止めました

河上啓一

・・・・・

日下部彰

・・・・・

警官

そして本日自殺された
河上明菜さんの夫

警官

つまり、河上啓一さん!

警官

あなたがこの
Dクラブの利用者だと
調べにより判明しました

日下部彰

だから?

日下部彰

なんなんですか?

警官

ですから河上さんには

警官

このDクラブについて
些細な事でも
構いませんので──

警官

情報提供を──

日下部彰

随分と勝手ですね・・・

警官

どういう
意味でしょうか?

日下部彰

今は河上くんは
奥さんを亡くして
憔悴してるんです

日下部彰

そんな状態で
情報提供なんて・・・

日下部彰

とてもじゃないですけど
そんな事ができる
精神状態じゃないんです

日下部彰

日を改めてからじゃ
ダメなんですか?

警官

それは分かります

警官

ですが、河上さん自身

警官

違法な代理出産を
斡旋していると知りながら

警官

このDクラブを
利用したんですよね?

河上啓一

そ、それは・・・

日下部彰

強制的に警察署へ
連行する事だって出来る
って言いたいんですか?

警官

場合によっては
実力行使も・・・

日下部彰

情状酌量って言葉は
貴方の中には無いんですか?

日下部彰

確かに河上くんは
違法なクラブを利用しました

日下部彰

そうだよな?河上くん?

河上啓一

は、はい・・・

日下部彰

それはもちろん
悪い事だし

日下部彰

法のもとで裁きを
受ける必要が
あると思います!

警官

・・・・・

日下部彰

ですが、今なんですか?

日下部彰

今すぐじゃなきゃ
ダメなんですか?

日下部彰

せめて、奥さんの
葬儀とかが終わって
一区切りついてから

日下部彰

こちらから出向く
じゃダメなんですか?

日下部彰

一刻の猶予も
ないんですか?

警官

・・・・・

警官は少し考えて──

警官

わかりました

警官

でしたら後日
警察署の方へ
ご足労願えますか?

河上啓一

は、はい・・・

河上啓一

か、必ず行きます・・・

警官

かしこまりました

警官

では私は失礼いたします

警官は軽く会釈をすると その場から立ち去った

日下部彰

お悔やみ申し上げます
くらい言えないのかよ!

彰は立ち去る警官に 静かに敵意を向けていた

ふたたび彰と啓一の 2人きりとなった待合室で 彰は先ほどの警官に対して 怒りを露わにしていた

日下部彰

警察って人間は
どこまで勝手なんだよ!

河上啓一

まぁ、俺が違法なクラブを
利用してしまったのが

河上啓一

そもそもの原因ですから

日下部彰

いや、だとしても
気遣いがなさすぎるよ

日下部彰

河上くんの気持ちを
まるで考えてない!

日下部彰

まぁ、鼠取りなんて
姑息な事を平気で
やる連中だからな

日下部彰

今回の一件だって
点数稼ぎくらいにしか
思ってないんだよ

河上啓一

日下部さん・・・

それからしばらくした頃

警官

あの・・少々
よろしいでしょうか?

またしても1人の警官がやって来た

河上啓一

け、警察!?

日下部彰

はぁ!?またかよ!

日下部彰

もういい加減に
してくれよ!

日下部彰

そっとしといて
やってくれってのが
理解できないのかよ!

警官

え!?

警官

ど、どういう
意味でしょうか?

日下部彰

何をしらば
っくれてんだよ

日下部彰

さっきだって話した
じゃないですか!?

警官

さっき?

日下部彰

さっきココに来た
警官に話したでしょ?

日下部彰

日を改めてから
警察署に行くからって

日下部彰

別に逃げも隠れも
しないのに

日下部彰

どうして待って
くれないんですか?

警官

ちょっと
待って下さい!

日下部彰

人の事は待たないくせに
こっちには待てと?

日下部彰

警察ってのは
どれだけ自分本位
なんですか!!!

警官

ですから、今の話は
ちょっとおかしいんです

日下部彰

はぁ?おかしい?

日下部彰

おかしいって
どういう・・・

警官

貴方は先ほど1人の
警官がやって来たと

警官

そう・・仰いましたね?

日下部彰

え、えぇ・・・

警官

それが妙なんです

河上啓一

みょ、妙って?

警官

私はこの病院からの
通報があって
駆けつけました・・

日下部彰

病院から通報?

警官

自殺者が
搬送されて来た場合は

警官

警察に通報される
様になっているんです

河上啓一

どうしてですか?

警官

それが本当に自殺なのか?

警官

他殺や事故の
可能性はないか?

警官

それらの検証や
捜査のためです

河上啓一

な、なるほど・・・

日下部彰

ですが、警官は先ほど──

警官

私は周辺を
パトロールしていた時に

警官

通報を受けた警察署から
ただちに病院へ向かう様に
指示が出されましたので

警官

私は最短ルートで
この病院に
やって来ました

河上啓一

何を言いたいんです?

警官

ですから、私が
来るまでの間に──

警官

警官が来れる
わけがないんです

日下部彰

え!?

日下部彰

でも、別の
警官がさっき・・

警官

私が向かう事は
もう決定していましたし

警官

下手に警官が押しかけて
遺族のストレスを
与えてはマズいので

警官

必ず行くと決まった
警官以外が行く事は
禁止されてるんですよ

河上啓一

え!?

河上啓一

じゃ、じゃあ・・・

河上啓一

さっきの警官は?

警官

その警官は名前を
名乗りましたか?

警官

警察手帳を見せましたか?

河上啓一

い、いえ・・・

日下部彰

一方的に話を進めて

日下部彰

河上くんを連れて
行こうとしてました

警官

怪しいですね・・・

警官

本来こう言った
通報があった場合は

警官

遺族の気持ちを
最優先にしなければ
ならないと

警官

マニュアルでもそう
決まっているんですが

日下部彰

それってつまりは
どういう事なんですか?

警官

もしかしたら
あなた方の前に
現れたというその警官

警官

なりすましの
可能性があります

河上啓一

え!?

日下部彰

な、なりすまし!?

日下部彰

偽警官って事ですか?

警官

いろいろな矛盾する
点を考えると

警官

その可能性もあるかと

河上啓一

ま、まさか・・・

河上啓一

警官になりすますなんて

日下部彰

なら、さっきのやつは
誰なんだよ・・・

ことの自体をうまく 飲み込めない輝と啓一

しかし彰はとある可能性を 示唆する様に口を開く

日下部彰

でも・・・

日下部彰

さっきの警官が
なりすましだったとして

日下部彰

あなたはどうなんです?

警官

わ、私ですか?

河上啓一

た、確かに・・・

河上啓一

偽警官が実在
するんだとするなら

河上啓一

この人だって・・・

警官

私は正真正銘
本物の警官ですよ

警官は懐から 警察手帳を取り出し 彰と啓一に見せる

警官

私は巡査部長の

満谷翼

満谷翼
(みつたにつばさ)

満谷翼

と、申します

日下部彰

疑ってるわけじゃ
ないんですが

日下部彰

署の方に身元の確認を
してもいいでしょうか?

満谷翼

偽警官なんて不安
でしかないでしょうから

満谷翼

当然です

満谷翼

署に連絡してもらって
一向に構いません

日下部彰

分かりました

日下部彰

でしたら遠慮なく
確認させてもらいます

彰は満谷の身元確認のために 警察署へ連絡する

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