彩葉
スタート!
日野田里美
優亜やめな
逢沢優亜
里ちゃん……
私を制したのは里ちゃんだった。
私の前の席に回り込むと、里ちゃんは険しい表情を浮かべた。
日野田里美
ダメだよ。ここで動いちゃ絶対ダメ
逢沢優亜
だけど……
日野田里美
言ったでしょ?あの3人には心がないんだって。今、ここで柴村さんの事を助けようとしたら、あの3人のターゲットが優亜になるかもしれないんだよ?
逢沢優亜
でも、あんな酷い事されているのに見て見ぬ振りなんてできないよ。
日野田里美
優亜。よく聞いて?優亜が下手な正義感を振りかざしたら、柴村さんだってこれ以上の攻撃を受けるかもしれないんだよ?
逢沢優亜
柴村さんが……?
日野田里美
そうだよ。私が知る限り、あの3人は1人をずっと虐めるような事はしない。違うターゲットを見つけたら、その人を虐めるし、いじめ自体に飽きて他の事に興味が移ることもある。だから、今は事を荒立たない方がいいの。下手に庇ったりしたらいじめがエスカレートするかもしれないよ
里ちゃんの言葉に言い返すことができない。
里ちゃんの言葉が的を射ていたから。
逢沢優亜
でも……このままなんて……そんなの柴村さんが可哀想すぎるよ
柴村さんは今もなお3人に囲まれて顔を歪めている。
日野田里美
分かった。今は私がなんとかするから
里ちゃんは私の肩をポンッと叩くと、優しく微笑んで柴村さん達の元へ向かった。
里ちゃん、大丈夫かな……。
心配している私とは裏腹に、里ちゃんは身振り手振りで何かを綾香に伝えている。
少しすると、綾香の顔がパッと明るくなった。
柴村さんの前髪から手を離して里ちゃんとにこやかに言葉を交わしている。
その様子をつまらなそうな表情で聞いているマミとみやび。
柴村さんはその隙にスッと立ち上がり、教室から出て行った。
逢沢優亜
よかった……
安堵のため息が出る。
しばらくして戻ってきた里ちゃんは私の前にやってくるとニッと笑って親指を立てた。
逢沢優亜
里ちゃん、凄いよ。どうやって綾香ちゃんの気を引いたの?
コソッと里ちゃんに尋ねる。
里ちゃんは声をひそめながらも得意げになって答えた。
日野田里美
綾香ちゃんってピアノが得意なの。将来はピアニストになって、メディアに取り上げられて有名になりたいってよく言ってた
逢沢優亜
うんうん。それで?
日野田里美
でね、今度隣町でピアノのコンクールが開催されるって教えてあげたの。そこに来るゲストも豪華だって話をしたら食いついてきてさ
ぺろっと舌を出していたずらっ子っぽい笑みを浮かべる里ちゃん。
逢沢優亜
コンクールがあるって話は本当なの?
日野田里美
本当に決まってるじゃん!そんなすぐにバレる嘘つかないって
逢沢優亜
そっか……。そうだよね
日野田里美
で、綾香ちゃんはピアノが上手いしチャンスだよ〜っておだてたらノリノリになっちゃってさ。しばらく機嫌いいんじゃない?
逢沢優亜
そっか。そうだといいね
里ちゃんの言葉に大きく頷いて同意する。
これでしばらく柴村さんから気が逸れるといいんだけど。
私は心の中で願わずにはいられなかった。