時 透 s i d e .
蝶屋敷の朝は静かだった
雨上がりの庭には水滴が光り、小さな花たちが露を抱えていた
無一郎は早朝から、庭の隅で木刀を振っていた
ただでさえ鋭い表情に、今は言葉に出来ない迷いが浮かんでいる
時 透
( ...芙梛が、鬼
確信は無い
だが、直感は何かを訴えてくる
以前、任務で遭遇した上弦の零と、芙梛の持つ何かが、どうしても重なってしまう
そしてもう一つ、心に影を落としているもの──
時 透
( どうして僕はあの人の事が、こんなに気になるんだろう
おはよう、無一郎くん
不意に背後から声を掛けられた
振り向くと、「 甘露寺蜜璃 」が小さく微笑んでいた
時 透
...おはようございます
甘 露 寺
ねぇ、最近ちょっと変じゃない?
甘 露 寺
すごく考え込んでるように見えるの
無一郎は少し口を閉ざし、暫くしてから答えた
時 透
芙梛さんの事を考えてました
甘 露 寺
ふふ
それって好きって事なんじゃない?
それって好きって事なんじゃない?
蜜璃の無邪気な言葉に、無一郎の手が一瞬止まる
時 透
え...
甘 露 寺
自分じゃ気づかない事もあるわよ?
甘 露 寺
気になる人の事考えて、
胸がモヤモヤして、
でもその人の事守りたいって思う...
胸がモヤモヤして、
でもその人の事守りたいって思う...
甘 露 寺
それ恋だと思うな〜!
蜜璃はそう言って、無一郎の肩を軽く叩いた
甘 露 寺
私もね、誰かを好きになる事って、もっと難しいものだと思ってた
甘 露 寺
でも案外、心は素直だったの
彼女の言葉に無一郎は答えない
けれど、その心の奥で何かがゆっくりと形になっていくのを感じていた
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その日の昼
芙梛と出会った縁側で、一人腰掛けて空を見上げた
無一郎は静かに呟いた
時 透
...芙梛が鬼だとしても
そこまで言いかけて、言葉を止める
時 透
...いや、違う
時 透
きっと、違う
揺らいでいるのは心ではない
揺らいでるのは、 "信じたい想い" と "疑ってしまう直感" だった







