中沢慎一
新たな成功に、乾杯

河村健
俺たちの成功に、乾杯

立花冴子
果てしない夢の為に、乾杯

富樫英一郎
旅立った魂に、乾杯

河村健

河村健
おいおい、富樫さんよ

河村健
俺たちにそんな文句は不必要だぜ

富樫英一郎
なにを言うか

富樫英一郎
依頼とはいえ、殺したのはごく平凡な人間なんだぞ

中沢慎一
富樫さん、僕たちは身も心も完全な殺し屋ですよ

中沢慎一
殺しを家業にする以上、変な感情は捨てるべきです

中沢慎一
…と言ったところで、意固地のあなたには意味ないか(笑)

立花冴子
そうよ

立花冴子
私たちに相手を思いやる気持ちなんて必要ない

立花冴子
それを持ち合わせていたらこの仕事は成り立たないわ

河村健
そうそう

河村健
全員、富樫のおっちゃんの綺麗事は聞き飽きたんだよ

村上康男

村上康男
おや?

村上康男
既に皆さん始められていましたか(笑)

河村健
誰だあんた?

河村健
依頼主の声よりか随分若い気がするのは俺の気のせいかな?

村上康男
さすが河村さま

村上康男
私は御主人、つまりあなた方の依頼主の秘書、村上でございます

村上康男
御主人も今回の晩餐会に出席されるおつもりだったのですが

村上康男
突然体調を崩されてしまい不参加すると申されたのです

河村健
まぁ声を聞いた限りだと

河村健
かなりの高齢みたいだったし無理もないのかな

依頼主の秘書・村上の登場後、ようやく晩餐の席に料理が運ばれた。
中沢たち四人の殺し屋たちは互いの仕事ぶりを話しながら料理に箸をついた。
秘書の村上康男は終始、にこやかに晩餐の様子を伺っていた。
河村健
それにしても富樫のおっちゃんに同意する訳じゃないが

河村健
依頼主はなんだってあんな地味な人間の暗殺を俺たちに頼んだんだろ?

河村健
村上さんよ

河村健
あんたそこのところの事情は知らないのかい?

村上康男
………

富樫英一郎
よければ教えてくれないかね?

富樫英一郎
これまで何人も人間を殺してきたが

富樫英一郎
ほとんどは殺されても文句の言えない連中ばかりだった

富樫英一郎
だが今回の殺しだけはどうも心が落ち着かなくてね

富樫英一郎
もしあの男がそれそうの悪事か罪を犯していたと知ることが出来れば

富樫英一郎
私も多少気が楽になれる

村上康男

村上康男
皆さんが今回暗殺した男の名前はご存知ですか?

中沢慎一
依頼主から名前は聞いていません

河村健
そうさ

河村健
依頼主は俺たちに標的の顔写真だけ寄越しただけだから

河村健
詳しい名前までは分からん

村上康男
では教えましょう

村上康男
名前は村上です

村上康男
私と同じ

中沢たちはじっと村上を凝視したが富樫だけは居たたまれない様子で項垂れた。
村上康男
御主人が皆さんに殺しを命令した相手は私の実の弟です

立花冴子
…そういえば微かに写真の男と顔の輪郭が似てるわね

中沢慎一
あなたの弟は依頼主に恨まれることでもしたのですか?

村上康男
違います

村上康男
弟はこの血生臭い世界から足を洗うよう私を説得しに来たのです

村上康男
しかし御主人はそれを許さなかった

村上康男
自分でいうのもなんですが

村上康男
私が足を洗うと御主人にとって痛手が大きかったのです

村上康男
弟は正義感の強い人間でした

村上康男
だから御主人に大金を積まれて諦めるよう言われても拒否しました

村上康男
それで強硬手段としてあなた方に殺しを依頼したのです

中沢慎一

中沢慎一
それで結局、あなたはどういう気持ちで今ここにいるのですか?

すると、村上はフッと片方の口角を上げて不気味な苦笑いを浮かべた。
村上康男
実の弟を殺した人たちが目の前に座って事も無げに構えているんですよ

中沢慎一
同情されたいのですか?

村上康男
弟を殺した人たちに同情などされるつもりはありません

村上康男
その代わり頼みがあります

立花冴子
頼み…?

村上康男
あの世で弟に懺悔して下さい

河村健
何を言い出すかと思えば…(笑)

村上康男
御主人は既に懺悔してる筈です

中沢慎一
なんですって?

富樫英一郎
村上さん、あなたもしや…

立花冴子
ちょっと待って

立花冴子
…この料理、なにか変だわ

中沢慎一

中沢慎一
これはトマトじゃない…

中沢慎一
血だ!

富樫英一郎
ゴァァァッ

最年長の富樫英一郎が噎せた後、激しく嘔吐しその場で背中から床に倒れた。
中沢慎一
富樫さん!

立花冴子
ア…ガァァッ…

続いて立花冴子も、グロテスクな血と眼球と思しき丸い物体を吐き出すと、ドサッと富樫同様背中から倒れた。
突然の出来事に慌てて立ち上がった中沢と河村も苦し気に喉元を掻きむしると、ゆっくりとくずおれた。
村上康男
御主人の肉はお気に召しましたか?

村上康男
毒のワイン、人肉料理

村上康男
そしてそれを食す殺し屋たち

村上康男
これが私の考えた血の晩餐会です

村上康男
ククク…では…

凄惨な現場を背に、村上康男は扉へとゆっくり足を進めた。
河村健
傑作だ(笑)

村上康男
?!

中沢慎一
とんだ余興でしたね

ハッと振り向いた村上の目に、床の血で服が赤く染まった中沢と河村が立っていた。
中沢慎一
村上さん、忘れてはいけませんよ

河村健
そう、俺たちは殺し屋

河村健
常に命懸けで仕事してるんだ

中沢慎一
依頼主が欠席したと分かった時点で私と彼は警戒していたのです

中沢慎一
立花さんと富樫さんは残念ながらあなたの策略に掛かってしまいましたがね

河村健
この二人は殺し屋になりきれてなかったんだ

中沢慎一
…さて、本来殺し屋には殺しの標的以外は殺さない掟がありますが

中沢慎一
今回は例外ということで…

一見紳士的でとても人殺しなどしそうにない中沢慎一の瞳に、