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臨場感溢れるバトルシーンが見事です👏次々に訪れる急展開にも楽しませてもらいました☺️
9月25日。 中学三年生の深山桜(みやまさくら)は、卒業後の海外移住先をどこにするか決めかねていた。
なぜ移住するのか? 無論言うまでもなく、こんな血塗られた最低国家日本からはとっとと脱出するのが、一般的日本人のトレンドだからである。
???
深山桜
学校の帰り、学生の帰宅ラッシュでごった返す中を、桜は友達の弥生(やよい)と並んで歩く。
弥生
深山桜
弥生
深山桜
桜は胸に提げているロケットをぎゅっと握った。その中には、オーストラリアで撮影した、亡き妹との写真が収められている。
深山桜
深山桜
弥生
深山桜
弥生
深山桜
慌てて何度も頭を下げる弥生に、桜は優しく首を振った。
暴力規制の撤廃の遠因となった再生医療の革新は、5年前に発見された超万能細胞の活用から始まっている。
詩織が病死したのも5年前……万能細胞による治療が、惜しくも間に合わなかったのだ。
弥生
深山桜
詩織との思い出の数々が脳内をよぎり、懐かしさと悲しさが入り交じる。
本格的に海外移住を考え始めた頃から、自分の気持ちと、妹への想いの間で、桜はずっと揺れ動いていたのだ。
弥生
弥生は桜の前に向き直る。彼女の手を優しく握り、元気付かせるように、明るく微笑んだ。
弥生
弥生
深山桜
弥生
弥生
弥生
ブシャアアアアアア
そこまで言った所で、弥生の鎖骨から上が吹き飛び、鮮血が間欠泉のように吹き飛んだ。
桜と周囲の通行人しめて34人は揃って絶叫した。
生温い血液が桜に降りかかる。 お気に入りの血が赤黒く汚れる。 これでもう今月入って4回目である。
通行人は一斉に逃げ出す。 隣で路駐していた乗用車が一斉に走り出す。 辺りは一気に恐怖に染まる。
真っ赤な間欠泉の勢いが止まった所で、頭部が切り離された弥生の死体はグラリと前のめりに、倒れてくる。
深山桜
たった今、傷心の自分を慰めてくれた弥生を、桜は本能的恐怖から突き飛ばす。
またビュッと首から血液を噴き出して、べちゃりと後ろに倒れた。
???
倒れた遺体の向こうで、同じように血に塗れた女性が、血液でベトベトに汚れたペットボトルを勧めてきた。
乳牛を模した扇情的なコスプレをした販売員……ブランドの1つ、『WildCowrus』のメンバーだ。
片足を上げ、ウインクでポーズを決めながら、左手をお皿のようにして、最近発売された乳酸菌飲料をアピールしている。
右手には、刃渡り1メートルにも届きそうな、巨大なナタ。 刃先はべっとりと、鮮血で赤く塗られていた。
深山桜
通行人達が逃走する中、桜は完全に逃げ遅れる。
震える手で財布を取り出し、小銭をひっ掴んで差し出した。
WildCowrus社員
たった今、人の命を奪ったその販売員は、桜から受け取った小銭の額を確認すると、持っているペットボトルを彼女に
ドグシャア!!
渡そうとしたが、一の腕を斜め上方から飛来した岩石に粉砕され、取り落とした。
WildCowrus社員
深山桜
女性は絶叫する。甘い笑顔が一瞬にして悶絶の表情に変わる。 桜は恐怖に顔を引きつらせた。
シュタッ
2人から20メートル離れた所で、チャラチャラした服装の男性が上空から降り立ち、エナジードリンクを掲げた。
???
パンクファッションに身を包んだ大柄の男性だ。 格好こそ派手だが、顔は明るく人当たりの良さそうな雰囲気を醸し出している。
WildCowrus社員
WildCowrusの販売員は、営業スマイルを投げ捨て、憤怒の表情で男性に襲いかかる。
ねじ曲がった左腕を振り回し、ナタを構えて突っ込む。 ティガーラックの社員は、提げていたバールを構えて迎え撃つ。
ドガァッ!!
バキィッ!!
ガシャァッ!!
2人は凄まじい殺し合いを繰り広げる。 凶器と狂気のぶつかる音がひっきりなしに爆ぜる。
深山桜
桜は辺りを見回して……見つける。
ガラガラになった車道の真ん中、ゴミか何かのように転がっている、弥生の生首。
震える足に言うことを聞かせ、桜は走る。 点々と続く血の跡を追い、ほうぼうの体で弥生の元に
バキャアッ!!
深山桜
全身を衝撃が襲う。 猛スピードで逆走してきた2トントラックに跳ねられたのだ。
運転手
急ブレーキを踏んで停まったトラックの荷台がガバッと開き、馬の被り物をした筋骨隆々の男たちが次々と降りてくる。
運転手
ダークホース社員
言葉の意味を理解しているとは思えない男達が、思い思いの武器を手に走り出す。
ガンッ!! ガスッ!!
深山桜
痛みが走る全身を、ダメ押しとばかりに男たちに踏みつけられる。
そのまま社員たちは、WildCowrusとティガーラックの戦いに乱入していった。
深山桜
呼吸ができない。意識が薄れはじめる。
トラックに跳ねられ、男たちに踏みつけられ、既に立ち上がる気力はない。
背中を灼けるような痛みが走る。 恐らく背骨が折れてしまった。
すぐ近くで巻き怒っているはずの騒乱が、どこか遠く聞こえる。 もう助かる見込みはないだろう。
元より、助けてくれる人も、助けを呼んでくれる人も居ない。
ブランドの争いが法で許されている以上、奴等の闘争を咎めることはできない。 そんな状況で被害者たちに手を差し伸べてくれる人などいないのだ。
深山桜
絞り出した声も弱々しい。全身の痛みと視界が少しずつ薄れていく。
このまま死んだらどうなるのか? 再生医療によって本当に生き返るのか、それとも、意識はこのまま二度と……。
深山桜
最早発することも出来ない悲痛な叫びを胸中に残して、桜の意識はぷっつりと途絶えた。
ドガァァァァッ!!
落ちた意識を無理やり引きずりあげるように、壮絶な打撃音が響いた。
運転手
野太い悲鳴が響いた。恐らく、先程やってきたトラックの運転手の断末魔だ。
???
荒々しい男の怒声が、頭上で響く。 また新たなブランドが乗り込んできたのだろうか。 遠くで聞こえる争いの音が止まる。
WildCowrus社員
ティガーラック社員
???
ダークホース社員A
???
???
男の高笑いと同時に、ガチャガチャと金属が幾重にもぶつかる音が聞こえる。 鎧でも着込んでいるのだろうか。
WildCowrus社員
ティガーラック社員
ドドドドド
複数人の足音。 戦っていたブランドの社員達が、一斉にこちらに走ってきたのだろう。
ダークホース社員A
???
ダークホース社員B
ダークホース社員C
???
???
ガンッ!!
深山桜
脳天に走った衝撃に、桜は思わず飛び上がった。
WildCowrus社員
ティガーラック社員
ダークホース社員A
周囲に居るブランドの社員達が、口々に驚く。
深山桜
一番驚いているのは桜だった。
先程蹴られた頭を除けば、全身の怪我が消えている。
服こそぼろぼろだが、トラックに轢かれた時に負った轢傷がどこにもない。
全く気付いていなかったが、桜の身体の傷は、すっかり完治していたのだ。
深山桜
???
深山桜
突如呼びかけられた言葉に、桜は驚愕する。
声の主は……鎧武者だった。
身長は2m近くだろうか。 恐ろしげな雰囲気の甲冑に身を包み、ドクロ模した面頬(めんぼお)で顔を隠している。
全身から放たれる物々しい威圧感は、他の社員達の比ではない。
相対するだけで、濁流や大火が迫っている時のような、焦燥感を伴う恐怖を味合わされる。
こんな恐ろしい男──いや、化物が、自分をなんと呼んだのか? 桜は理解が追いつかなかった。
WildCowrus社員
だが……WildCowrusの社員が嘲るように発したその言葉で、否応がなしに理解させられる。
彼女の商品を買った時に向けられたあの笑みは、今やどこにもない。 カッと見開かれた目からは、殺意と狂気しかこもっていない。
WildCowrus社員
ティガーラック社員
深山桜
桜は必死に首を振る。 だが、2人共まるで信じてくれない。 背後に広がっているダークホースの社員たちも同じだ。
ギラッ……
光に慄く。 WildCowrusの社員が、既に元通りになった右腕で、弥生の首を落としたナタを構える。 刃先が赤く光っている。
WildCowrus社員
深山桜
襲いかかる女に成すすべもなく、桜は絶叫した。
ガッ!
黒金の腕が、後ろから回り込む。
そのまま痛いくらいに締め上げられ、
ダッ!!
桜──そして、後ろの鎧武者は、共に宙を跳んだ。
視点が飛び上がる。 店や家々の屋根が見える。
深山桜
浮遊感に全身がすくむ。 鎧武者が後ろから桜を掴み、そのまま大ジャンプしたのだ。
ズバァッ!
ダークホース社員D
真下で悲鳴。 恐らく、WildCowrusの女が、勢い余って反対側のダークホースの社員を切り裂いた。
ひとまず危機は去った──だがどうすれば。 このままでは後ろの武者ごと、また元の場所に戻るだけだ。
どうするのよ──聞く前に向こうが答える。 野太い声で、
鎧武者
深山桜
ブゥン!!
深山桜
強烈なG。 鎧武者は空中で、三国をぶん投げたのだ。
ズザザザザァ!!
深山桜
斜め45度で地面に突っ込む。 アスファルトで全身をおろされ、電撃のような痛みが走る。
ゴシャアッ!!
『ぎゃああぁぁぁぁ!!』
全く同時に、何かが砕ける音と、誰かの悲鳴が響く。
何が起きたか──考えるまでもない。 あの巨体が激突すれば、物なら砕け、人なら叫ぶ。
深山桜
桜はよろよろと起き上がる。 さっきからまるで理解が追いついていない。
深山桜
ドガァッ!!
ティガーラック社員
鎧武者
前方から呼びかけられ、桜は顔を上げる。
鎧武者はブランド社員達を相手に、大立ち回りを繰り広げていた。
全方位から猛攻を浴びるも、全く意に介さない。
反対に、豪腕が振るわれる度に、取り囲んでいる社員の誰かが吹っ飛んでいく。
重厚な鎧を身に着けているとはいえ、余りにも一方的すぎる展開だ。
ブンブンブン!!
ダークホース社員E
情けない悲鳴。 ダークホースの社員の1人の両足を抱え、ジャイアントスイングを放ったのだ。
大男が大男を振り回し、周囲の暴漢達をなぎ倒していく。 怪獣映画の蹂躙シーンか何かを目の当たりにしているようだった。
鎧武者
ブオン!!
ダークホース社員E
振り回していた社員を、歩道の方へとふっとばす。ライナーのように地面すれすれを滑空し、
バコォン!!
頭からガードレールに激突して、動かなくなった。
深山桜
鎧武者
深山桜
桜は周りを見渡す。 だが、怪しい人はどこにも──
フッ──
上から影が走る。 反射的に跳んだ。
ガキャッ!!
深山桜
口から出た叫び。 もう何度目か分からない。
ダークホースの社員2人が、上空から飛びかかってきていた。 被り物の馬並みに長いマチェットが、桜の居た位置の地面に深々と突き刺さる。
ダークホース社員B
深山桜
マチェットを力任せに引き抜く2人に対し、桜は必死に弁明する。
深山桜
ダークホース社員C
恫喝される。 マチェットに付着した砂利を苛立たしげに振り落とし、男達……というより、馬達は吠える。
ダークホース社員C
ダークホース社員B
深山桜
ダークホース社員C
身勝手極まりない言い分を吐いて、社員達は向かってくる。
深山桜
桜は絶望する。 ただ、弥生を置いて逃げる訳にもいかない。 どうすれば──!
ヒュッ
ビシィッ!
ダークホース社員B
深山桜
一閃──突如、白い軌道が宙を駆け、ダークホース社員の顔面を殴りつける。
桜の窮地を救った一撃に、社員2人……何より桜が驚く。
閃光の発信源は、彼女の右腕。 桜は、自分でも訳がわからないまま、襲いかかってきた男を殴りつけたのだ。
ダークホース社員B
深山桜
ダークホース社員C
もう1人の社員が、桜の左側から襲いかかる。
ブンッ!
ダークホース社員C
再び閃光──桜の攻撃が走る。 真横から繰り出された左のミドルキックを、警戒していたのか、社員は間一髪で避けた。
深山桜
主の指示なしに、桜の手足は勝手に動く。 今までの人生で振るったこともない、鋭敏に研ぎ澄まされた『暴力』を、身体が嬉々としてこなしていく。
深山桜
???
深山桜
透き通るような女性の声が、どこかから……いや、脳内に響く。 相対する社員達には聞こえていない。
???
ヒュッ……
その言葉を皮切りに、桜の肉体はいよいよ暴走を始める。
右足が動いたかと思うと、少し離れた所で出方を伺っていた2人に、桜は一息で近付く。 1人の懐に飛び込むと、
ドゴッ!
ダークホース社員B
被り物の頭があるであろう部分に右フック。
ダークホース社員C
ブンッ!
もう1人が振るったマチェットを、しゃがみこんで避ける。 そのまま地面に手を突いて、
ガガッ!
ダークホース社員C
ダークホース社員B
低い位置から一回転するように回し蹴りを繰り出し、二人をまとめて蹴転ばす。
素早く立ち上がり、地面をのたうつ2人の顔面に対し、
ゴン!!
ダークホース社員B
ガッ!!
ダークホース社員
右足を掲げ、躊躇なくストンピングを叩き込む。 足裏に味わったことのない衝撃が広がった。
ダークホース社員B
ダークホース社員C
潰れた顔面で地面を転がる社員達。
桜の肉体はまたもや勝手に動く。 地面へ手を伸ばし、2人が取り落としたマチェットを拾い上げた。
タタタッ
???
深山桜
???
桜は鎧武者の方を見やる。
確かに……満足気に胸を張る鎧武者の周りで、ほとんどの社員達がぐったりと倒れ込んでいた。
桜は足を動かす。 握った──というより握らされた、マチェット2本のずっしりとした重みが、妙に恐ろしかった。
地面に転がる、ボロ雑巾のような状態の社員達を恐る恐るまたいで、桜は鎧武者に近寄る。
深山桜
鎧武者
声をかけた途端にどやしつけられる。
深山桜
鎧武者
深山桜
スッ
鎧武者
深山桜
鎧武者は、桜に弥生の生首を差し出した。彼は小脇に彼女の胴体を抱えている。
深山桜
マチェットを手渡し、代わりに弥生の頭を受け取る。
とうに事切れて入るが、幸い首の切断以外に目立った外傷はなさそうだ。 これも『強化骨格』のお陰か。
鎧武者
深山桜
鎧武者はガシャガシャと大股で歩き始める。 桜は一瞬迷ったものの、早足でついていく。
言動も魂胆も意味不明だが、助けてくれた以上は悪い人ではない……と信じたい。
どのみち弥生の身体を取られている以上、逆らうことも出来ないのだが……。
WildCowrus社員
金切り声が響く。
振り返ると、ボコボコに顔が膨れ上がったWildCowrusの社員が、必死に起き上がろうとしていた。
だが、まだ再生が済んでいないのか、上半身を起こすことしか出来ない。
WildCowrus社員
鎧武者
鎧武者
鎧武者
WildCowrus社員
WildCowrus社員
WildCowrus社員
ヒュッ──
WildCowrus社員
ザンッ!!
WildCowrus社員
深山桜
鬼の形相で吠える社員の首が、一息で切断された。
地面に張っていた彼女の顔を切り落としたのは、
???
和風の鎧に身を包んだ女性。手に持っていた日本刀が、深々と社員の首に突き刺さっていた。
深山桜
なぜか直感的に分かった。先程自分の体を操っていたのは、あの人だと。
浄海入道
???
カチャ
女性は日本刀を仕舞い、小走りでこちらまでやってくる。
あの女性も、この男のブランド……轟ノ雷鳴の1人なのだろう。
そこまで考えた所で、桜はようやく思い出し──愕然とする。
鎧武者こと、浄海入道が……見ず知らずの自分を、勝手に『相棒』だと言ったこと。
今のWildCowrusの社員が、『テメェ等』と、複数人の呼称を使っていたことを……。
浄海入道
浄海入道
深山桜
絶望で顔が歪み、目尻に涙が溜まってくる。
元からブランド達の暴虐で歪んでいた彼女の日常だったが、ここからは本格的に、ねじれて千切れ、墜ちていくことになる。