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注文の多いチェーン店【全六章+a】

注文の多いチェーン店【全六章+a】

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注文の多いチェーン店【ED2 蛮勇の選択】

♥

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2020年09月06日

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私は………

もう…何も思い付かない

しかし 何としても帰らなければならない

そうだ、私は今死ぬ訳にはいかない

憧れのモン・サン・ミッシェルにまだ行ったことないし

京都でさえ修学旅行でちょっと回っただけで、名物の食べ歩きだってしたいのだ

ふっ とあの香りが和らぐ

何気ないことだって 生きる気力には他ならない

馬鹿でも阿保でも呼べばいい

どこからか澄みきった香りがした

私はこぶしを握りしめる

とにかくこんな真っ暗なところで死ぬ気は更々ない

何も…しないよりはマシだ

最後に一発、人も殴ったことないけど あの化け猫にお見舞いしてやる

私は自分を奮い立たせて 立ち上がる

深呼吸して 一気に化け猫へと駆け出す

ひ弱な腕を振り上げて、化け猫の鼻めがけて拳を落とした

バチッッ――

聞いたこともないような衝突音が暗闇に響いた

………

闇に隠れている猫たちが はっ と息をのむ音が聞こえる

隣の灰色猫は口をあんぐりと開けて、まんまるな目をさらに丸くした

志織

………

化け猫は微動だにしない

緊張して その顔を凝視する

黄金に光る目をカッと見開いたまま固まっている

と――

ぐわっと大きな歯をぎらつかせ、大口が開く

だめだ……全く効いてない…

私は崩れ落ちて 尻餅をつく

化け猫の表情が読み取れない

起き上がれないまま ずるずると後ずさる

………

ゆらりと無表情の化け猫が動いた

そのまま

ゆっくりと私たちの前へと

倒れ込んだ

巨体の衝撃で ズシンと空間が揺れる

『………』

志織

………

理彩

………

……………

暗闇から猫たちが一斉に姿を現す

瞬間、後ろ楯を失った猫たちがパニックになった

押し合いへし合いで四方八方へと逃げていく

しかし…

何故か何も音が聞こえなかった

活動写真の映画のようにまったくの無音で、猫たちがパニックになっているのを私たちは見つめていた

側近の部下らしき猫たちが化け猫の周りに集まっている

こちらの視線に気づくとペコリと頭を下げて、そそくさと担いで逃げるように姿を消した

そして…

何もいなくなった

完全な静寂

ただふたりだけが闇に取り残されていた

遥か上空で星が瞬いている

気づけば、私たちふたりは砂漠へと通じる道に倒れていた

ロッカーに直したと思っていた荷物もそこら辺の木々の枝にひっかけてあった

ベンチも 壺も 奇妙な貼り紙もなくなっていた

店は跡形もなく消滅していた

あの香りはもうどこにもなく、代わりに蜜柑の香りが漂っていた

その後 私たちは茫然と道を彷徨っているのを警察に保護され

その日はやっと眠りにつくことができた

次の日も伊豆大島で休暇を楽しむつもりだったが、朝一のフェリーに乗って本島へと戻った

ひとつだけ以前と変わったことがある

リサはあの日の記憶を失くしていた

一緒に砂漠を歩いたことも

ダイエットの約束をしたことも

そして、あの店のことも…

理彩

ねえ 志織

志織

何?

志織

こんな朝早くに…

理彩

開店前から並ばないと買えないの

志織

最後尾でもいいから もう少し寝させ――

理彩

ダメ!

理彩

それじゃあ、たい焼きモンブランパフェが売り切れちゃう!!

帰ってからも私たちは、以前と変わらず 休日には一緒に人気店に並び

限定スイーツを食べに出掛けている

私は未だ真実を隠し続けている

言葉にしてしまえば またあの店へと誘われてしまうような気がするから

………

最近は、あの日の出来事は夢だったんじゃないかと思えてきている

だけど…

やはり あれは夢じゃなかったんだと思い知らされる

あのとき……店が消えてしまったとき

私の財布には、入れた覚えのない紙きれが挟んであった

そこには、こう書かれてあった

【領収書】 大人 2名 志織 様 理彩 様 合計    ¥0 またのご来店をお待ちしております

注文の多いチェーン店【全六章+a】

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