TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

 特別研究室に入ると、水槽の中の生物がみな死んでいた。

 水槽の中で食い散らかされて、無残に血が飛び散っている。

北原 風香

「見て」

 風香がなにかを発見して近寄ると、金田のネームプレートが落ちていた。  血で汚れている。  最初の犠牲者は金田だったのか、と陽斗はようやく理解した。

葛城 陽斗

「このデスクのファイルにあの物体のことが記録されている。あんたはこっちを、俺はこっちを確認する」

 二人でファイルを読み漁りあの物体、試験体609について調べた。

 ファイルを読んでいると、陽斗は複雑な気持ちになった。

 読めば読むほど星夜がどれほどの思いでこの研究に取り組んでいたかがわかるからだ。

 どの資料も事細かに整理され記録を残してある。どの分析結果も大事にしていることがよくわかった。

 この資料は、星夜の形見だ。

 陽斗は夢中になって読みふけっていた。

北原 風香

「ねえ、ちょっと。ねえってば」

葛城 陽斗

「え? あ、悪い。読むのに夢中になってた」

北原 風香

「ごめんなさい、私にはちょっと難しすぎるかも。専門用語が多すぎて何が何だかわからないわ」

葛城 陽斗

「ああ、気にするな。あんたは警戒しててくれ」

 風香に周囲の警戒を任せ、陽斗は再び文字を追い始める。

北原 風香

「ねえ、あなたと葛城所長ってどんな兄弟だったの?」

葛城 陽斗

「んー? どこにでもいる普通の兄弟さ」

北原 風香

「普通の兄弟なら、なんであなたは弟の会社で設備管理なんてやってるのよ」

葛城 陽斗

「俺は生き方にはこだわらない。生きることが目的だからだ」

北原 風香

「はぐらかさないで、ちゃんと答えて」

葛城 陽斗

「……負い目だ」

北原 風香

「負い目?」

 陽斗は煙草を口にくわえて、次のファイルに手を伸ばした。

葛城 陽斗

「星夜があんなもんをつくっちまったのは、あいつに勉強を教えた俺のせいだ。俺が学ぶことの楽しさをあいつに教えてから、あいつはおかしくなっちまった。俺には、あいつを近くで見守る責任があったんだ」

北原 風香

「そうだったの……でも、それはあなたの責任じゃないと思うけど。だってあなたはあなたで、弟さんは弟さんなわけでしょ? 兄弟とは言え二人とも違う人間なんだから、だれがどんな生き方をするかはその人の自由だわ」

葛城 陽斗

「そう、自由だ。だから俺は、弟の近くにいることを選んだんだよ。たとえその動機が負い目でもな」

北原 風香

「そういう……ものなのかしら」

 それきり風香は黙って周囲を警戒し始めた。

 お互いどんな思いがあったとしても、少なくとも陽斗は、自分の生き方に後悔はしていない。

 自分にとって最適な環境が偶然弟の会社の設備管理員だったにすぎないだけだ。

 人はみんな自分の居場所を求めてる。いくら探しても見つからず転職を繰り返す人だっている。居場所が見つけられただけでも、むしろ自分は幸運な方だと思っているくらいだった。

 それも今日までだが。

 陽斗は集中して資料を読み漁った。

 どの資料も様々な姿に形を変えることや熱や冷気、電気に弱いことなど、すでに二人が知っている情報ばかり記載されている。

 けれど陽斗は見つけ出した。あの物体から切り離した組織にパラコートを浴びせることで、異常な速度で細胞が死滅することを。

 あの物体は最初から細胞膜が破壊されているため薬の浸透が早い。さらにパラコートはタンパク質を分解しDNAを損傷させる劇薬だ。人間でさえ15mlで致死量になる。

 これこそまさにあの物体に対する最終兵器だ。

葛城 陽斗

「パラコートだ! パラコートを使えば倒せる!」

北原 風香

「パラコートって、古いミステリー小説なんかで使われている、あの毒薬のこと?」

葛城 陽斗

「ああそうだ! だが本当の使い道は枯葉剤! この遺伝子研究所にもたんまりあるぞ!」

 この遺伝子研究所では資金調達のために植物の品種改良や枯葉剤の開発も行っている。

 手に入れるのはそう難しくないことだろう。

 パラコートは三階の保管庫か、一階の用務員室にあるはずだ。

 ここからなら三階が近い。

 陽斗はファイルを閉じて、早速向かおうとした。

 特別研究室の扉に手をかけたその時、突如扉から鋼鉄製の槍が飛び出してきてのけぞった。

葛城 陽斗

「なにいいいいいい!?」

 間一髪のところで躱すことができたが、いまのがあの物体の攻撃であることは明白だった。

北原 風香

「気を付けて! また入り込んでくるかも!」

 二人で穴が開いた扉を注視する。

 ところが二撃目は天井からきた。

 それだけではない。壁や床など様々なところから鋼鉄の槍が飛び出してくる。

葛城 陽斗

「あの野郎まさか! この部屋を包み込んで攻撃しているのか!」

北原 風香

「そうか、たくさんの人間や動物を食べたから体積が大きくなったんだわ!」

 陽斗は強引に扉に駆け寄ったが、さっきの一撃でひずんでしまったのか扉が開かない。

葛城 陽斗

「どうする! どうすりゃあいい!」

北原 風香

「いまは躱すことに専念して! どこかに逃げ出すチャンスがあるはずよ!」

 次々と刺し込まれる槍を二人で躱し続けること五分。

 陽斗の息があがってきた。風香もかなり疲労が見えてきている。このままじゃ不味い。

 一瞬でも気を抜けば串刺しになってしまう。

葛城 陽斗

「糞! せめて扉が開けば――――」

 陽斗が叫ぶと同時に、扉が開いた。

太田

「陽斗さん! はやくこっちへ!」

葛城 陽斗

「太田!」

 ひずんでしまった扉は太田のタックルによって開かれた。

 陽斗と風香は急いで部屋の外へ飛び出した。

葛城 陽斗

「太田! お前も早く!」 

 陽斗が振り返ると、太田はすでに物体が体に絡みついていた。

太田

「行くんだ陽斗さぁん! 僕のことは気にしないでぇ! きっと脂肪が守ってくれるからぁ!」

 太田の巨体は、ずるずると特別研究室の暗闇に引きずり込まれ、扉が閉められた。

葛城 陽斗

「太田あああああああ!」

北原 風香

「まちなさい! 彼はもう手遅れよ! いまあなたがすべきことを考えて!」

葛城 陽斗

「ぐっ!」

 陽斗は自身のこめかみに指の銃口を突きつけた。  心の中で一発の弾丸を頭に撃ち込み、気持ちを切り替える。

葛城 陽斗

「行こう! 三階の保管庫へ!」

 陽斗の言葉に、風香は力強く頷いた。

ハイパー・オカルト・サイエンスー三流ゴシップ誌の女記者と無精ひげのプー男が挑む超常科学事件簿ー

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

28

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚