涼太
「……お……っ…い……りょ……へ」
亮平
あれ……?
シャワーの音に交じってなにか聞こえる
シャワーの音に交じってなにか聞こえる
涼太
「……いっ……りょ……へっ」
亮平
頬になにかが触れている。
なんだろう……。
その感覚に、一気に意識が浮上する。
なんだろう……。
その感覚に、一気に意識が浮上する。
亮平
「……んっ……」
亮平
ゆっくりと目を開けるとぽやっとなにか
が見える。
が見える。
涼太
「……おいっ……しっかりしろ!!」
亮平
焦点(しょうてん)がだんだん合ってきた
亮平
「……あ……涼太……さ……ん」
亮平
涼太さんだ。
帰ってきたんだ。
帰ってきたんだ。
涼太
「しっかりしろ!!」
亮平
必死に僕の頬をたたいている。
なんでそんな顔してるの……?
なんでそんな顔してるの……?
涼太
「亮平っ!わかるか?」
亮平
「……お帰り……なさ……」
涼太
「そんなこと言ってる場合じゃないだろ!!」
亮平
いつもあんな無表情な涼太さんが……
こんなに必死な顔している。
なんでだろう……。
こんなに必死な顔している。
なんでだろう……。
涼太
「……病院いくぞ」
亮平
涼太さんのその言葉で、一気に意識が
はっきりした。
気づけば、僕は涼太さんに抱きかかえ
られていた。
服もびしょびしょだし……。
はっきりした。
気づけば、僕は涼太さんに抱きかかえ
られていた。
服もびしょびしょだし……。
亮平
「僕……倒れたんだ……うっ……」
亮平
まだ気持ち悪いな。
それに、こんなところで倒れちゃうなん
て……。
涼太さんに、なんてごまかせばいいの?
それに、こんなところで倒れちゃうなん
て……。
涼太さんに、なんてごまかせばいいの?
涼太
「これ、涼太さんの車?」
亮平
涼太さん、車で待ってたんた。
本当、何者……?
本当、何者……?
涼太
「あぁ、そうだ。それより、体調は大丈
夫なのか!?」
夫なのか!?」
亮平
「……だ、大丈夫……ただの貧血……」
涼太
「バカ野郎つ……そんな青い顔で無理
するな」
するな」
亮平
涼太さんが僕にシートベルトをつけてく
れる。
れる。
涼太
「知り合いに医者がいる。
そこなら、まだやってるから大丈夫だ」
そこなら、まだやってるから大丈夫だ」
亮平
「……でもっ……」
亮平
病気だってことバレちゃう。
そしたら……もう涼太さんといられなく
なっちゃうっ!!
そんなの、絶対嫌だよっ……。
そしたら……もう涼太さんといられなく
なっちゃうっ!!
そんなの、絶対嫌だよっ……。
涼太
「……黙れ」
亮平
涼太さん、怒ってる?
どうしよう。
もう逃げられないよ……。
どうしよう。
もう逃げられないよ……。
涼太
「頼むから、おとなしくしてろ」
亮平
精いっぱいの抵抗も虚しく、僕は病院へ
と行くことになってしまった。
と行くことになってしまった。
涼太
「……コイツ診てくれ」
??
「舘さん、久しぶりやんけ。最近来ない
から心配してたんよ。」
から心配してたんよ。」
亮平
涼太さんに連れてこられたのは、向井
病院という大きな病院だった。
病院という大きな病院だった。
涼太
「……あいさつはいいから、早くコイツ
を診てくれ」
を診てくれ」
??
「はいはい」
亮平
涼太さんと話してる人はめちゃくちゃ喋
る男の人。僕よりは年上だろうな。
26.7歳くらいかな……?
最近来ないって……涼太さんの知り合い
なのかな?
る男の人。僕よりは年上だろうな。
26.7歳くらいかな……?
最近来ないって……涼太さんの知り合い
なのかな?
??
「Aさん、彼の頭のCT撮って。あと、
採血も。出しだい、結果をちょうだい」
採血も。出しだい、結果をちょうだい」
亮平
男の人の指示で、看護師さんたちが動き
だす。
検査をもろもろ終わらせて、僕は診察室
へと通された。
だす。
検査をもろもろ終わらせて、僕は診察室
へと通された。
亮平
「えーと」
亮平
「阿部亮平……です」
??
「まだ、顔色が悪いね。舘さん、阿部
くんをこっちのベットに運んでちょうだ
い。」
くんをこっちのベットに運んでちょうだ
い。」
涼太
「あぁ」
亮平
涼太さんは僕をベットの上に優しくおろ
す。
そして、心配そうに僕を見つめた。
涼太さん、怒ってた……。
僕を心配してくれたからだ。
不安にさせて、自分……甘えてばっかり
だよね……。
ごめんね、涼太さん……。
申し訳ない気持ちでいっぱいで、涼太さ
んの顔を見られなかった。
す。
そして、心配そうに僕を見つめた。
涼太さん、怒ってた……。
僕を心配してくれたからだ。
不安にさせて、自分……甘えてばっかり
だよね……。
ごめんね、涼太さん……。
申し訳ない気持ちでいっぱいで、涼太さ
んの顔を見られなかった。
??
「ほな、ダテは外で待ってて」
涼太
「……っ、わかった。亮平ちゃんと
診てもらえ」
診てもらえ」
亮平
それを言い残し、涼太さんは診察室を
出ていく。
ーパタンッ(ドアの閉まる音
診察室の扉が閉まると同時に、男の人は
僕に笑顔を向けた。
出ていく。
ーパタンッ(ドアの閉まる音
診察室の扉が閉まると同時に、男の人は
僕に笑顔を向けた。
康二
俺は向井康二。関西出身やで。ダテとは
あるところで出会ってな!!そこから仲が
いいんや!!
あるところで出会ってな!!そこから仲が
いいんや!!
亮平
こんな明るい人と友達だったなんて……
想像してなかった……。
想像してなかった……。
康二
最近、怪我してもここにもこんから何か
あったんかって思ったわ、、
元から痛みにも強いしあんま来んやった
しな……。なにか大事な時にしか来ない
んよ、、
今日は急に来たから何事かな?って思ったけどな!!
あったんかって思ったわ、、
元から痛みにも強いしあんま来んやった
しな……。なにか大事な時にしか来ない
んよ、、
今日は急に来たから何事かな?って思ったけどな!!
亮平
「……強がり」
康二
ほんまそやねん!!阿部くんバシッと一言
言ってやって!!
俺が言っても何も言うこと聞かへんから
って、ごめんな
長話してしもうたな。ほな、診察しよう
か
言ってやって!!
俺が言っても何も言うこと聞かへんから
って、ごめんな
長話してしもうたな。ほな、診察しよう
か
亮平
「あ……待ってください」
亮平
もう隠せない。
向井さんにはちゃんと言わないと。
向井さんにはちゃんと言わないと。
亮平
「じつは……」
康二
「えっ??……白血病……なんよね?」
亮平
向井さんは驚くこともなく、ただ静かに
そう言った。
そう言った。
亮平
「どうして?」
亮平
向井さんは、驚く僕の頭を撫でる。
その顔は辛そうに、歪んでいた。
その顔は辛そうに、歪んでいた。
康二
「これでも医者からな」
康二
「なんでなん?治療……する気はあらへ
んの?だって治るかもしれへんのに…
他にも余命を伸ばすことだってできる
んよ?なのになんで……」
んの?だって治るかもしれへんのに…
他にも余命を伸ばすことだってできる
んよ?なのになんで……」
亮平
僕は首を横に振った。
僕はもう……あの家を出た時から、受け
入れている。
苦しい思いをしてまで生きたくない。
もう十分に生きた。
死ぬのは怖いけど……もう受け入れたん
だ。
僕はもう……あの家を出た時から、受け
入れている。
苦しい思いをしてまで生きたくない。
もう十分に生きた。
死ぬのは怖いけど……もう受け入れたん
だ。
亮平
「僕は、どこかでこうなることを望んで
いたのかもしれません……」
いたのかもしれません……」
亮平
ママとパバが亡くなってから、ふたりの
ところへ行けたらと、何度願って泣いた
だろう。それが、病気という形だったと
いうこと。
ところへ行けたらと、何度願って泣いた
だろう。それが、病気という形だったと
いうこと。
康二
「阿部くんは色々背負ってるんやね」
亮平
向井さんは僕を抱きしめた。
康二
「向井……さん……?」
亮平
顔は見えてないけれど、泣いているのか
もしれない。
体が、震えてたから。
もしれない。
体が、震えてたから。
康二
「でなきゃ、そんな悲しい顔できへん
やんか、、阿部くんのことを変えられる
存在が、現れてくれたらな、、」
やんか、、阿部くんのことを変えられる
存在が、現れてくれたらな、、」
亮平
「それなら……もう、います」
亮平
小さく笑うと向井さんは目を開く。
康二
それは、だてのことやろ?
亮平
僕は小さくうなずく。
亮平
「涼太さんは、僕になにも聞かずに、
なにも話さない僕に居場所をくれま
した。それに、すごく優しくしてく
れるんです……」
なにも話さない僕に居場所をくれま
した。それに、すごく優しくしてく
れるんです……」
亮平
ぼくには、返せるものなにもないのに。
康二
「だては…病気のことを知ってるん?」
亮平
「……あ」
亮平
そのあとはなにも言えなくなって
しまった。
しまった。
康二
「……知らないんか」
亮平
「……はい」
亮平
自分の病気を家族と学校の先生以外に
話したのは、向井さんがはじめてだ。
話したのは、向井さんがはじめてだ。
康二
「これからも話さないん?」
亮平
「……はい。涼太さんにまで自分の
病気を背負わせるようなこと……
できないです……」
病気を背負わせるようなこと……
できないです……」
亮平
時がきたら……静かに姿を消そう。
そう決めていた。
そう決めていた。
康二
「そうか……。これは自分の意見やけ
ど、だてには話してあげてほしいわ。
だては阿部くんのこと大事にしてる
からな」
ど、だてには話してあげてほしいわ。
だては阿部くんのこと大事にしてる
からな」
亮平
「涼太さんは優しいです。弟のように
大事にしてくれているのもわかってますでも……。」
大事にしてくれているのもわかってますでも……。」
亮平
だからこそ……涼太さんには言えない。
優しい人だから、きっと悲しむ。
俺がもっと早く気づいてやればって、
自分を責めちゃうから…。
そう辰哉さんとひかるお兄ちゃんが
そうだったみたいに。
優しい人だから、きっと悲しむ。
俺がもっと早く気づいてやればって、
自分を責めちゃうから…。
そう辰哉さんとひかるお兄ちゃんが
そうだったみたいに。
康二
「それ……弟とかじゃなくて男の子
としてみてると思うで」
としてみてると思うで」
亮平
「……え?」
康二
「あんな必死なだて……久しぶり
に見たもん」
に見たもん」
亮平
向井さんはクスクスと笑う。
亮平
涼太さんが…僕のことを男の子として
見てる……?
そんなこと……ありえないよ。
今までだって、子供扱いだったし…。
見てる……?
そんなこと……ありえないよ。
今までだって、子供扱いだったし…。
康二
「ふふっ……まぁすべては阿部くん
しだいやな。話すも話さないも、
阿部くんが選ぶこと。
でも時は有限やからな。それを
忘れてはダメやで。」
しだいやな。話すも話さないも、
阿部くんが選ぶこと。
でも時は有限やからな。それを
忘れてはダメやで。」
亮平
「……はい……」
亮平
僕は……涼太さんにこの病気のことを
話すことはあるのかな……?
話すことはあるのかな……?