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日出ずる国の巫女　３

第1話 - 日出ずる国の巫女　３

2020年02月24日

#歴史

#宮廷

#恋愛

#ファンタジー

ゆきみ大福

語り手

【前回のあらすじ】皇帝を暗殺した男は独りで逃亡し、雛菊は薬師と共に亡命しました。薬師の生まれ故郷に着くと、ボロ小屋での極貧生活が始まったのです。

語り手

亡命してから数日後、皇帝を暗殺した男も田舎で合流しました。更に数ヶ月後、雛菊は産気づいてボロ小屋の中で出産する事になったのです。

雛菊

うっ…、産まれる…！苦しい…！！

薬師

雛菊様、ヒッヒッフーだよ？出産の時の呼吸法はね…

錦衣衛

ああ、私はどうしたら良いんだ！ただ雛菊様の手を握るくらいしか出来ない…。こんなに苦しそうなのに…

薬師

それで良いよ。手を握って話しかけてろ。僕が赤ん坊を取り出すから。

錦衣衛

お前、お産の手伝いなんか出来るのか？宮廷専属の侍医だったもんな。

薬師

いや、初めてだよ？僕の専門外だ。

錦衣衛

こいつに任せといて大丈夫なのか？

薬師

僕は天才だよ？任せておきなさい！

錦衣衛

イヤミな奴だが実際に腕はあるから文句も言えんが…

雛菊

先生…お願いします…！やや子を…

薬師

大丈夫！絶対にやれる。僕に出来ない事はないから。

錦衣衛

その根拠のない自信は一体どこから湧いてくるんだ？

語り手

長丁場になりましたが、無事に男の子が産まれて来ました。目元が雛菊にそっくりでクリクリしています。

薬師

おめでとう！元気な男の子だよ。生湯に浸けるのは、君がやりたまえ？

錦衣衛

えっ…、私が？出来るわけがない！

薬師

僕は疲れてるんだ。君がやるのが筋ってもんだろう？

錦衣衛

わ、わかった。歳の離れた妹がいて親が風呂に入れてるのは見ていた。

薬師

妹は元気にしてるのかね？今頃は…

錦衣衛

ああ、元気過ぎて可愛さ余って憎さ百倍だから、向こうに置いて来た。連れてくるとうるさくてかなわん。

薬師

まあ、親御さんは健在だし、君がしでかした事は僕以外誰も知らないから、多分家族全員、大丈夫だろう。

錦衣衛

しっ！余計な事は喋らないでくれ？

薬師

わかってる。僕は口が固いんだよ？

雛菊

二人がいてくれて…本当に良かった…。私一人では育てられないから…

錦衣衛

武芸は私が仕込みますし、学問はこいつが教えられると思いますので、二人で協力して文武両道の立派な男に育て上げます。

薬師

おいおい、勝手な役割分担を決めるな！僕は子供が嫌いなんだよ？この僕が幼い子供に学問を教えるなんて死んでも御免だ。

雛菊

学問なら私も教えられます。先生は無理なさらないでください。いつも私に丁寧にわかりやすく薬草学を教えてくださって感謝しております。

語り手

月日が流れ、ボロ小屋ではなく少し大きな邸宅へ引っ越していました。男は武術を子供達に教える師範の仕事をしており、薬師は薬屋を開業していました。雛菊と皇帝の子供の北斗は何不自由なく生活しています。

北斗

師範！僕にはどうして父上がいないのですか？師範や先生を父上のように慕っていますが、僕の父上は一体どこにいるのです？母上に聞いても答えてくれない！

錦衣衛

それは知らなくて良い事だ。北斗の父はこの私だと思っている。血の繋がりはないがな…

薬師

まあまあ、このくらいの年頃になると実の父が誰なのか？は気になるもんだよ。少しくらい教えてやらないと可哀想だろう？

北斗

先生！教えてください。僕の父上はどんな人だったのですか？母上に聞いても素敵な人だった、としか教えてくれないので…

薬師

北斗、これは極秘事項なのだが、お前の母上はさる国の皇族なのだよ？

北斗

さる国の皇族？と言う事は…僕は皇子だった…と言うのですか？絶対嘘だ！そんな作り話は信じられない！

錦衣衛

作り話ではない。お前の父上は…暗殺されたのだ。英の国の者の手によってな。だからお前は皇帝の血を引いている。この事は他言無用だぞ？

北斗

師範まで…。本当に僕は皇子だったんだ…。全然、知らなかった…。父上を暗殺した英の国の奴らが憎い…

薬師

あれ？僕が言うと嘘つき呼ばわりしたのに、君が言うとあっさり信じちゃうんだ…。なんだか傷つくなぁ〜

錦衣衛

傷付いてるようには見えんのだが？

北斗

先生は普段から冗談ばかり言うので信用できないんです。僕はどっちかって言うと、師範の方が実の父上だったら良いなぁって思ってました。

錦衣衛

そうか…。嬉しいような複雑な心境だが、実の父ならば北斗の母上は私の妻と言う事に…

北斗

師範は母上の事が好きなんですよね！なぜ母上と結婚なさらないのですか？僕は師範と母上が再婚したら良いなぁと前々から思ってたんです。

錦衣衛

な、な、な、何を言ってるんだ？わ、わ、わ、私はそんな目で雛菊様の事を見た事など…

薬師

君はわかりやすいからねぇ。こんな子供にまで見抜かれてしまうとは…

北斗

先生もさり気なく母上を狙ってますよね？僕にはお見通しですよ！二人ともわかりやす過ぎて、この村の人たちはみんなそう言ってますから…

薬師

まあ、僕も隠してないからね？何度も口説いてるけど落ちないんだよ…

錦衣衛

ああ、皇帝の事を今でも想い続けているようだな。なんであんな奴の事を！さっさと忘れてしまえば良いんだ。あんなろくでもない男の事は…

北斗

僕の父上はろくでもない男だったのですか？それはなんだか嫌だなぁ…

錦衣衛

い、いや…今のは口が滑った。聞かなかった事にしてくれ。皇帝は聡明で素晴らしい名君だった！と思う。

薬師

君は嘘をつくのが下手だからねぇ。しかも嘘をつく時に目が泳いでるからバレバレなんだよ？皇帝と話してる時は敵意剥き出しだったからな。

錦衣衛

そ、そんな事はない！ちゃんと平静を装って冷静に対応していたはず…

北斗

僕の父上がどんな人なのかだんだんわかって来た。あまり良くない人だったような気がしてる。なんでそんな奴の血が僕に流れてるんだろう…

薬師

血の事は気にしなくて良いと思うよ？孤児の中にも優秀な子供はいるし、捨てられるって事は貧乏人の子だが、訳ありって場合もあるからね。

雛菊

ふふ、私も元々孤児だったからね。親の顔は知らないの。私も卑弥呼様が実の母だと思いながら育ったわ。

北斗

そうだったんだ？母上は父上の事を愛してたんだよね。どこが好きだったの？教えてよ。

雛菊

そうね、孤独な人だったから、ほっておけなかったの。皇帝と言う地位で、周りに大勢の妃嬪がいたけど、誰からも愛されてないって言うのが口癖だった。だから私が愛してあげようと思ったの。

薬師

それは本当の愛情と呼べるのかな？雛菊様に相応しいのは、この僕のような知能を持つ男だと思うけどね！

北斗

う〜ん、先生が父上になるのは何となく嫌だなぁ。師範の方が良いや！

薬師

それはどう言う意味だい？僕も傷付くんだ。言葉には気をつけたまえ！

錦衣衛

北斗が良いと言うなら…。け、け、け、結婚をしても良いと思ってる。

北斗

母上は再婚する気はないのですか？

雛菊

こんなおばさんが再婚してもしょうがないでしょう？二人とも女性からめちゃくちゃ人気があるんだから！

薬師

僕は毎日ラブレターをもらって困ってるんだ。未婚のままで三十代を迎えてしまったから仕方がないけど…

雛菊

どうしてラブレターに返事を書いてあげないんです？

薬師

返事をするのが面倒だし、どうでも良い奴の為に時間を無駄にしたくないんだ。時は金なりと言うだろう？

北斗

師範もこの前、教え子の若い女性から告白されてましたよね？道場内で他の門下生も見てる前でいきなり…

錦衣衛

ああ、十代の若い女性は苦手なんだよ。それに教え子に手を出す気はない。そんな師範の道場に誰が通いたがると言うんだ？

北斗

師範もまだ三十代なので十分モテますよね。なぜ未婚のままなのですか？先生は性格の問題かと思うけど師範は真面目だし…

薬師

性格の問題とは聞き捨てならんな！

錦衣衛

君の母上もまだ二十代だ。十代だった頃、皇帝に手を付けられて…。ああ、思い出すとイライラして来た！

北斗

父上の事はもうどうでも良いです。僕も聞きたくなくなって来ました。

薬師

ありゃ？実の子からも嫌われちゃって可哀想にねぇ。

北斗

師範も先生も父上の事が嫌いだったみたいですから。

雛菊

えっ…、そうだったの？気付かなかったわ。嫌いなんて言ってないし…

北斗

母上はどこまで鈍感なんですか！？まだ十歳の僕でもわかる事なのに…

雛菊

鈍感ってよく言われる…。そんなつもりないんだけど、どうしてなの？

北斗

師範も苦労しますね。母上なんか好きになったら…。僕なら他の女の子に乗り換えます。

錦衣衛

乗り換えるのは良くない！変なところだけ父上に似ないでくれないか？

北斗

父上に似てると言わないでください！なんだか嫌な気分になってくる…

薬師

血は争えないって事か…。女を見ると見境がない男だったからねぇ、北斗の父上は…。まあ、諦めたまえ？

北斗

僕は師範の実の子でありたかったのに、なんでそんな奴の血を引いているんだ！自分が嫌でしょうがない…

錦衣衛

北斗、そんな風に私の事を…。なぜこんな気分になるのだ。お前の父上が憎いのに、お前の事は憎めない。

北斗

僕には色々とわかってしまったんです。なんかさっき見えてしまって…

薬師

まさか！先見の明を使えるのか？いや、過去を見る能力なら先見の明ではなく、心の中を透視できるとか…

錦衣衛

それは困る！見られてしまったら…

北斗

大丈夫です。見えた事は誰にも言いません。僕は師範の味方ですから！

錦衣衛

私の過去が北斗に見えてしまったのか？それでも私を実の父のように、慕うと言うのか…

雛菊

透視能力も巫女だった頃にはありましたが、今は失ってしまって、私には何も見えない…

薬師

北斗にそんな能力が備わっていたとはね。素晴らしい！僕の子供にもそんな能力が欲しいものだが、雛菊様とまぐわえば産まれてくるのかな？

錦衣衛

何を破廉恥な！雛菊様とまぐわうなど、お前も生かしておくわけには…

薬師

待ちなさい！そんな事を言うのなら、君の食事に毒を盛ってやろうか？

雛菊

ふふ、二人とも冗談が好きなのね。

北斗

とりあえず今日は一人で考え事をしたいので、自分の部屋に篭ります。

語り手

北斗は自分の部屋に篭ると、先ほど見えた過去の映像をもう一度、脳内で再現してみた。

北斗

僕の父上を暗殺したのが師範だったなんて…。母上には口が裂けても言えない！でも師範の事も恨めない…

北斗

父上のした事は…愚かだったと思うし、師範のした事は…やはり愚かだと思うが、先生は…まあどうでも良いや！先生はほっておこう。母上もおそらくは師範の事を好いている。

北斗

しかしなぜか母上の心は透視できない。母上が本当に父上の事を好きだったのかもわからない。これはなぜなんだ？モヤがかかって見えない…

語り手

その頃、雛菊は師範の男と二人で話していた。薬師の男は台所に立って片付けをしている。使用人を雇うほどの余裕はなく、家計は火の車だ。

雛菊

私は家事が出来ないので、先生がいてくれて、本当に助かっています。

錦衣衛

そのうち食事に毒を盛りそうで、信用ならんけどな…

雛菊

先生はそんな事しませんよ？私にはわかっています。

錦衣衛

もう先見の明は使えないのでしょう？北斗は突然、不思議な能力を使えるようになってしまったようだが…

雛菊

北斗から言われて、私も色々と目が覚めました。この十年間、まるで我が子のように北斗の事を可愛がってくださり、ありがとうございます。

錦衣衛

いや、あいつは子供が嫌いだと言って北斗の世話は私にばかり押し付けてくるからな。まあ、私は家事が出来んから、おしめを変えていたが…

雛菊

ふふ、おかげで北斗はすっかりあなたに懐いてしまったではないですか？本当の親子のように仲が良くて…

錦衣衛

北斗は皇帝のような節操のない男にならんように、私がしっかりと躾けております。結婚するまでは女遊びなど決してするな！と、私も父上から厳しく躾けられて育ちました故…

雛菊

まだ女遊びもした事がないのですか？あなたはモテるのにもったいないですよ。そろそろ身を固められてはどうです？北斗の世話は気にせず…

錦衣衛

いえ、私には心に決めた女性がいるので、全てお断りしているのです。

雛菊

北斗の言っていた事がもし本当ならば…私の事を好いておられるのでしょうか？もしそうなら嬉しいです。

錦衣衛

北斗は私の心の中を覗き見てしまったようです。お恥ずかしい限りで…

雛菊

私も気づいたのです。この十年間、ずっと傍にいて私を守ってくれていたのは、あなただったと言う事を…

錦衣衛

北斗のおかげですか？あとでお小遣いを奮発しなくてはならないな！そう言ってもらえて光栄であります。

雛菊

もしよろしければ、私を娶ってもらえませんか？北斗の父になって欲しいのです。北斗もそれを望んでいるみたいですから…

錦衣衛

ほ、本当ですか？こんな日が来るなんて…夢にも思わなかった。雛菊様を私の妻として娶る事が出来るなど…永遠に叶わないと思って諦めていたのに…。ああ、こんな幸せな事が…現実であっても良いのだろうか！

語り手

その晩、師範の男は初めて雛菊をその胸に抱いたのです。夜な夜な重華宮の雛菊の部屋の裏で聞いていた雛菊の色っぽい声で、毎晩妄想していた事がついに現実になったのです。

薬師

気に食わないですねぇ。しかし僕もそんな野暮じゃないので邪魔はしませんが…。僕だってずっと尽くして来たと言うのに理不尽な話ですよ？

北斗

師範と母上がどうなるか…。大体、見えていました。

薬師

君は本当に十歳の子供なのかい？とても十歳とは思えないほど、大人びているようだが…

北斗

先生だって、本当はわかっていてもとぼける時があるじゃないですか？

薬師

まあね、天才ってのは凡人から嫌われやすい。だから馬鹿なフリをして誤魔化してるんだ。君もそうなのかな？だとしたら…君も相当、知能が高そうで可愛げのない子供だなぁ。

北斗

ええ、僕も先生の真似をして馬鹿なフリをして誤魔化してました。十歳に見えるように演技してたんです。

薬師

なるほど、僕の背中を見て育ったってわけか。君には育ての父が二人いるからな。僕は慕われていないと思っていたのだが…

北斗

まさか！実は師範より先生の方を慕っていましたが、さっきのは演技です。僕がああ言えば、師範は母上とくっ付けられる。

薬師

末恐ろしい子供だな…。全て計算づくと言うわけか？僕に恨みでもあるのかと思って、聞いていたのだが…

北斗

あなたを敵に回すほど僕は愚かではありませんよ？僕が清の皇帝に即位した暁には、あなたを直属の部下にする予定です。だから母上にはあの男とくっ付いてもらいました。母上と一緒にしておけば、僕のやる事に余計な口は挟まなくなるでしょう。

薬師

どこまで小賢しい子供なんだ！君のような子供は一番嫌いだよ？まあ、僕の子供の頃とそっくりだけどね…

北斗

あなたは母上とくっ付けて色惚け男にさせるには惜しい人材ですから…

薬師

くっ…この知能の高さのせいで雛菊様を射止められなかったとは！これほど頭が良く産まれた事を恨んだ事はない。初めて惚れた女が雛菊様だったと言うのに…

北斗

あなたが望むならいくらでも女は用意しますよ？僕も生涯娶らず、孤児の中から優秀な人材を発掘してもらい、僕の世継ぎにするつもりでいます。父上のようにはなりたくない…

薬師

他の女などいらんわ！と言う事は皇帝の血は君の代で途絶えるのだな？

北斗

そうなりますね。それが父上に対する僕の復讐です。

薬師

北斗は実の父を憎んでいるのか？まあ、僕も皇帝が生きていたら、惨たらしい方法で殺してると思うけど…

北斗

母上を穢して、先見の明を失わせた父上が許せない。だから僕は生涯子供を作らず、この血を絶やします…

薬師

良いねぇ、その考え方！僕が君だったとしても同じ事をしたと思うよ？

北斗

師範は殺し方が甘過ぎる。頸動脈を締められて即死ですから、苦しみはほとんど与えていない。あんな生温いやり方で復讐だなんて、鼻で笑ってしまいますよ？

薬師

やれやれ、こんな恐ろしい男が次の清の皇帝になるとは…。まあ僕は面白ければ手を貸しますけどね。皇帝の暗殺も一枚噛ませて欲しかった！

北斗

あなたが手を貸してたら父上は…どんな最期を遂げたのか、あまり想像したくはありませんけど、それは僕の先見の明でも見えませんね。起きていない過去は見る事が出来ない…

薬師

先見の明…羨ましい能力だな。僕にもそんな能力が欲しかった。しかし男でも女とまぐわえば能力を喪失するのであろうか？

北斗

おそらくは…純粋さの喪失によって能力を失うのでしょう。だから僕は生涯独身を貫く必要があるのです。

薬師

先見の明を持った皇帝ならば負け戦などは有り得ない！最強の皇帝になるだろう。面白くなりそうだねぇ。

北斗

くだらない世襲制度で色惚け男に成り下がった皇帝には優秀な子供など作れない。仮に優秀な子供ができたとしても、その子供も世襲制度の為に色惚け男に成り下がり、宮中はくだらない諍いが絶えなくなる。愚かな事限り無し…。僕の代で辞める！

薬師

確かにねぇ。でも皇帝が馬鹿な方が甘い汁吸ってる連中には都合が良いのさ？だから色惚け男にわざと成り下がらせてるんだと思ってたけど。

北斗

僕が諍いのない宮廷を作ります。本当に優秀な人材だけを集めて、身分などに囚われず、誰もが幸せに暮らせる世の中にしたいのです。本当に出来るかどうかまだわからないが…

薬師

あまり優秀な者ばかり集めちゃうと、足を掬われないかなぁ？まあ、僕はどうでも良いけどね。政治とか興味ないし、最低限食って行ければ…

北斗

そうですね。先生が本気を出せば、もっと上の地位に行けたのに、わざと侍医におさまってた理由は、揉め事に巻き込まれたくなかったから？

薬師

そうそう、僕は揉め事が嫌いなんだよ？だから才能はあるのに貧乏なんだよね。秘伝の薬の調合法もあっさり本に書いちゃったりしちゃうし…

北斗

でもその本、飛ぶように売れてますよね？僕も母上の本棚にあったので目を通しましたが、素晴らしい内容でした。あの値段では安過ぎる内容の濃さでしたよ？

薬師

普通は教えないでボロ儲けしようとするんだけど、僕はわざとそう言う事しちゃうから出世しないんだよ。

北斗

才能の無駄遣いだと思いますが、それで多くの人を救っておられるのは立派だと思います。尊敬しますよ？

薬師

君の母上の前で褒めてよ？それで僕に雛菊様が振り向いてくれたかもしれないのに、嫌んなっちゃうなぁ。

北斗

残念ながら、あなたは母上とくっ付けると更に才能の無駄遣いをするので、わざとくっ付けなかったんだ。

薬師

それも先見の明で見えちゃうのか？損な役回りだよ…

語り手

数日後、田舎村でひっそりと雛菊は挙式を執り行い、師範と晴れて夫婦になったのです。薬師は苦笑いしながら、二人の門出を見送りました。

薬師

雛菊様に皇帝を暗殺したのが、あいつだって教えてやりたい気分だよ？

北斗

それを知ったら母上は決してあの男を愛さないのでやめてください。僕の計画の妨げになってしまうので…

薬師

まあ教えたら雛菊様が傷付くのがわかってたから、可哀想で言えなかったんだけどね。雛菊様が原因で大勢の命が奪われただなんて知ったら…

北斗

母上は自害するでしょう。先見の明で見てみました。

薬師

それは困る！知らない方が幸せな事はあるからねぇ。はぁ…、僕の方が雛菊様に相応しいと思うのだけど。

北斗

母上にはもう先見の明はないのに、まだ母上を慕う理由がわかりません。先見の明に憧れてるのでしょう？

薬師

君だって雛菊様を慕っているじゃないか？先見の明にも憧れたが、話をしてて楽しいと感じるのが、雛菊様だけだったのさ？

北斗

そうですか。僕と話すのは楽しくありません？僕は先生と話すのが楽しいですよ？師範より頭が良いので。

薬師

う〜ん、まあ楽しくはないなぁ。君の頭が良いのは認めるよ？僕よりも頭が良さそうだから、怖いんだよねぇ。利用されそうで悩んでるんだ。

北斗

謙遜しないでください。先生の方が僕より遥かに知識の量も上ですし…

薬師

経験の差だよ？じきに追い付かれるさ。その時に足を掬われそうでね。

北斗

母上とくっ付けてあげなかったから僕を恨んでます？

薬師

それはもうどうでも良いよ？雛菊様とはこれからも師弟関係のままでいるつもりだし、僕の唯一の弟子で可愛い教え子だから傍にいるだけさ。

北斗

母上は先生の事も師範と同じくらい好いてるように見えましたけどね。

薬師

むしろ僕の方が好かれてると思ってたんだけどなぁ。

北斗

先生は母上の事になると馬鹿になりますね。不思議なくらいにいつものキレがなくなる…

薬師

恋愛はどんな知能の高い男でも馬鹿になるもんだよ？

北斗

なるほど、だから僕の父上はうつけ者だったのですね。納得しました！

薬師

清の再建の為に後継者を探してるって風の噂を聞いたんだ。僕が君の出生について診断書を作っておいたから、君が皇族の血を引く真の後継者だと証明してあげるよ？雛菊様と色惚け男はこの村に置いて行こうか…

北斗

その方が良いと思います。正直、師範は口うるさくて邪魔なので。先生がいればまず僕は確実に皇帝の座に就けるでしょう。

薬師

皇帝の血と君の血をどうこうって言うでっち上げの診断書だけどね。僕は名が売れてるから、信じる者は多いと思う。と言うか君は確実に皇帝の子なんだけど。

北斗

本当にありがとうございます！これがあれば馬鹿どもを言いくるめられる。先生の名を拝借させてもらって僕はのし上がります。御助力に感謝してもしきれない。地位と名誉は保証しますのでついて来てください。

薬師

はぁ…、子守なんて僕の趣味じゃないんだけどねぇ。

北斗

先生の望むものは何でも用意させます。母上より美しい女でも何でも！

薬師

だから女はいらんと言ってるのがわからんのか？うるさくてかなわんのだよ。話してるだけでストレスが…

北斗

母上のように聡明で大人しい女ではダメですか？まあ僕も女は嫌いなので、先生の気持ちはわかりますよ？

語り手

日出ずる国の巫女、完！最後まで読んでくださって、ありがとうございました。次回作にご期待ください。

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北斗が恐ろしいくらいに賢く、特別な能力を持っていたせいで、薬師は雛菊と結ばれなかったのですね。気の毒ではありますが、北斗にその才能を買われたからには、ついて行くしかありません。二人が言い合いしながらも仲良く国を統治する様が窺えて、よかったです。

二人の男性に愛され続けた雛菊は、実は稀代の悪女だったのかもしれませんね。けれども、皇帝も含めて、心から愛して貰える男性に出逢えて羨ましくおもいました。

ゆきみ大福

プロフィール

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