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出張最終日

地方支社との契約プレゼンが終了し

プロジェクト契約が結ばれる

会議室 午後3時

長テーブルの向こう側

プレゼン資料を前に

支店長の橋田さんをはじめとする役員達が

何度も頷いていた

橋田

いやー…

橋田

完璧でした

橋田

さすが噂に聞く本社の営業部ですね

二口

ありがとうございます

二口さんが頭を下げ

隣で○○も一緒に一礼をした

橋田

特にこの改訂案

橋田

まさかここまでフォローされるとは

橋田

すぐにでも反映したいぐらいです

○○

その点につきましては

○○

私が少し前職で学んだ知識を

○○

活かさせて頂きました

○○は静かにそう返した

その一言に二口は横目で彼女をみた

橋田

では…本契約

橋田

よろしくお願いします

拍手が起こり

契約書と手土産が交わされていく

○○は誰にも気づかれないように

小さくため息をついた

会社を後にしたのは夕方の6時半だった

橋田

本当にありがとうございました

橋田

お気を付けて帰ってください

と支店長の橋田さんは言った

橋田

そうそう

橋田

…最近この辺

橋田

ちょっと変な人が出るって話があって

橋田

人気の無い道は気をつけて下さい

二口

不審者ですか?

橋田

はい…最近増えてるそうで

橋田

困りますよ

不審者…か

橋田

ではまたご一緒できる日を

○○

ありがとうございました

○○と二口は頭を下げる

ホテルへ向かう途中

二口

はー…

やっと終わった…

芦屋は俺の一歩後ろを歩いている

二口

そうだ芦屋

返答はなかった

二口

聞いてんのか…

後ろを振り返ると

気がつけば芦屋の姿は無かった

いや…は?

なんでいねぇの

通りを振り返って辺りを見渡す

道は静かなはずなのに

どこかざわついた空気があった

二口

…まじで

二口

あいつ

二口は足早に

人通りの無いエリアへと引き返した

その頃○○は

○○

不審者…

繁華街の入口で

じっと人波を見つめていた

スーツ姿の男、学生カップル

買い物帰りの主婦

ざわめきの中彼女の目は

常に何かを観察していた

無意識に。

習性のように

癖だった

スパイとして染み付いた自動反応のような

なんだ…平和じゃん

その時ふと視線に入ったのは

「地元牛乳使用のとろけるプリン」

○○

あ…

その瞬間だけ

彼女の顔に緩い笑みが零れた

○○

すみません

はい

いらっしゃいませ

○○

えっと…このプリン

○○

5つ下さい

5つですね

少々お待ちください

○○

買ってしまった…

買ったプリンを丁寧に持ち

満足そうに歩き出した時

二口

おい…

○○

ガシッと後ろから手を掴まれた

驚いて振り返ると

そこに立っていたのは

息を切らした二口だった

二口

お前…何してんの

二口

不審者でるって

二口

聞いてなかったのかよ

○○

…あ

○○

えっと、え?

○○の顔は完全なるキョトン顔だった

まさか自分が襲われるだなんて

1ミリも考えてない○○は

なんで息を切らしているか分からなかった

○○

あの…これ

○○

プリンです

私がそういうと

二口はしゃがみこみ髪をかき上げた

二口

はー

二口

まじで…

二口

ふざけんなよ

そういった彼の顔は

少しだけ笑っていた

○○

あの…すみません

○○

私フラフラしちゃって

二口

ほんとだよ

二口

なんでこんなに

二口

プリンに目がねえの

言葉は呆れ口調

けれどその声にはほんの少し

安心の響きがあった

○○は申し訳なさそうに少しだけ笑った

○○

…ありがとうございます

○○

探してくれて

二口

はー…

二口

次やったら取り上げる

○○

え…

○○は急いでプリンの紙袋を後ろに引いた

○○

嫌です

○○

プリン命です

二口

知らねー…

2人の歩幅が

少しずつ揃い始める

その様子を

少し離れた建物の上から見下ろしていた影が

2つ

アイは横で双眼鏡で下を覗いていた

アイ

え、本当にいる!

アイは興奮したまま柵に飛び乗る

ジェイ

危ねぇよ

アイ

エル先輩のスーツ…

アイ

なんかツボる

アイ

というか…

アイ

二口さんいるじゃん!

アイ

なんで?!

アイ

ジェイ知ってたの?

ジェイ

あー…うん

エルとは偶然出張先が一緒だった

アイにそれを言うと集中しないだろうから

任務が終わった今2人を探していた

アイ

私近く行ってくる!

興奮気味に前に出ようとする

アイ

エル先輩…!

アイ

待っててね!

ジェイ

待て

ジェイ

アイ

ジェイが腕を引いて止める

アイ

は…?

アイ

何すんのよ

ジェイ

いいから

ジェイ

よく見ろ

下の道

プリンを持つエル

横でそんなエルの手首を

掴むようにしながら言葉を交わすあの男

アイ

あれ…なんか

アイ

雰囲気

アイ

おかしくない?

ジェイ

…はぁ

ジェイは目を細めて

少しだけ唇を噛んだ

アイ

多分仲良くなったんだ!

アイ

仲良く…

アイ

プリンのせいかな

さすがのアイでもエルの異変に気づいていた

ジェイ

違うだろ

アイ

じゃあ…

ジェイ

もう手遅れになる

ジェイ

あいつは…引き戻さないと

夜風が2人の服の裾を揺らした

週明け

東京の町はいつもの喧騒を取り戻していた

○○は会社の資料室で無意識に

深呼吸をしていた

○○

えーっと…

今朝は初めて少しだけ寝坊をした

だからろくに朝ごはんは食べれられず

プリン味のプロテインバーをかじってきた

…切り替え

もう出張先じゃない

そんなことを考えながら

資料を整理していると

二口

寝坊したのか

後ろに二口堅治が立っていた

○○

え…

会社であっちから話しかけてきたのは

これが初めてだった

二口

は…なに

二口

なんか変なこと言った?

○○

いえ…なんか

○○

びっくりして

二口

出張の疲れは

二口

取れた?

○○

あ…はい

○○

お陰様で

二口

なんもしてねぇけど

二口

それミスんなよ

○○

はい

○○

ありがとうございます

そう言って先に歩いて出てく姿に

私は口元を緩めた

○○

…任務

小さな溜息をつき

私は資料の整理を進めた

人工的な光が

冷たい部屋に拡がった

アイとジェイ

2人は無人のモニタールームに腰を下ろした

目の前のスクリーンには

プリンを片手に笑う“エル”と

隣で眉を下げる“二口堅治”だった

スクリーン上で見る2人は

普通の関係、そのものだった

アイ

…なんか

アイ

もうあれって…

アイ

戻らない顔だったよね

アイ

初めて見た

アイ

エル先輩の笑顔

ジェイ

はー…

ゴーグルを回しながらジェイはため息を着いた

ジェイ

めんどくせぇ

アイ

…ごめん

アイ

私が頼んだから

ジェイ

まぁ元はお前が悪いな

アイはわかりやすく落ち込んだ

ジェイ

でも…あいつらしくねぇ

ジェイ

そもそも

ジェイ

本来の目的を…もう

ジェイ

エルは忘れてる

アイ

どうしたらいいの

アイ

どうやったらエル先輩を

アイ

…連れ戻せるの

ジェイ

さぁな

ジェイ

あのままじゃ多分…

その時だった

背後から低く、重たい声が響く

X

エルは…

X

休暇中じゃないのか

2人は反射的に振り向き

そのまま立ち上がった

そこに居たのは“X”

黒の手袋をした指先を

机をトンと置いた

アイ

あ…いや

アイ

これは、その

アイ

任務の話ではなくて…

ジェイ

ただの経過観察です

ジェイ

報告義務がある様な話では…

X

いつからだ…?

ジェイ

え?

X

そんなにつまらない

X

嘘をつくようになったんだ

空気がピタリと止まった

X

お前たちが

X

黙っていたのは

X

初めてじゃない

X

そもそも興味もない

X

だが…

X

エルが関わっているなら

X

話は別だ

ジェイは下唇を噛んだ

Xは静かに背後のモニターを見上げた

そこには屈託なくプリンを見せる

エル…

いや、

○○がいた

X

忘れてる様だが

X

ここにいる全員

X

特にエルは

X

普通には生きられない

アイ

X

どんな顔で笑っていようが

X

あいつが

X

天性のスパイだという事実

X

これは変わらない

アイ

でもエル先輩は…

X

簡単だ

X

戻らなければ

X

“エル”はこの世から消える

X

遅かれ早かれな

しんと静まりかえるモニタールーム

Xは淡々と、扉に背を向けながら

最後に言い放った

X

Lを再起動させろ

X

これは…

X

命令だ

X

次の任務は彼女自身だ

この作品はいかがでしたか?

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コメント

2

ユーザー

こおくるのかぁぁぁぁ!続きがすっごい楽しみです!💗💗💗💗

ユーザー

続き楽しみです!💞

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